表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/48

ホスト編2(初出勤)

「……で、俺から誘っておいてなんだが、お前、本気でやるつもりか?」


控室のソファに座り、蓮が腕を組んで涼介を見つめていた。

「正直、どう見ても篠宮涼介だよな。客にバレるのは時間の問題だぜ?」


「……だろうな。」

涼介は鏡の前に立ち、ため息をついた。


芸能界を引退して4年。表舞台から消えても、どこでも気づかれることはあった。


ただ、工場で働いていた頃は、今よりも地味な格好をしていた。

髪は黒に染め直し、表情もわざと無愛想にし、極力人と関わらないようにしていた。

さらに、仕事を転々としていたのも大きかった。

地方の工場や土木作業員など、体を動かす仕事を中心に渡り歩き、その都度名前も変えた。

芸能界にいた頃の話を振られたことはあったが、ただの「似てる人」で済まされたのも、派手な世界とは正反対の場所にいたからだろう。


ただ、ホストという派手な世界で、しかも近い距離で客と接する。

隠し通すのは簡単ではない。


「まあ、安心しろ。」


蓮が立ち上がり、涼介の肩をポンと叩く。

「お前を篠宮涼介じゃなくしてやるよ。」


「……どうする気だ?」

「まずは見た目だな。その髪、切るぞ。」

「……は?」


「お前の顔立ちは整いすぎてんだよ。髪型まで洗練されてると、余計に篠宮涼介にしか見えないの。」

そう言って、蓮はバリカンを手に取った。


「短くして、少しワイルドにする。トップは残して無造作感を出せば、雰囲気が変わる。」

「いや、待て、いきなりそんな——」

「安心しろって。こう見えて昔は芸能科がある高校でこういう事もやってたからな。あの国民的女優の高宮裕奈とも同級生だったんだぜ。」


「まあ、速攻告って断られたけどな」と笑いながら、蓮は容赦なくバリカンを入れた。


「おい……!」

「動くな。失敗して変な髪型になっても知らねえぞ。」


涼介は観念して目を閉じる。


「よし、次はカラコンだな。」

「カラコン?」

「芸能界時代のお前の目は印象的すぎる。アイドル特有の透明感のある黒目ってやつだ。だから、少し濁らせる。」


蓮は茶色がかったカラコンを涼介に渡した。

「つけろ。」


涼介は渋々カラコンを装着し、鏡を覗き込んだ。

「……結構変わるな」

「ほらな? 少し垢抜けた一般人っぽくなっただろ?」


確かに、カラコンの効果で印象が柔らかくなった。


「次、メガネな。」

黒縁のメガネを手渡される。

「メガネまで……?」

「篠宮涼介がメガネなんてかけてるところ、誰も見たことねえだろ?」


言われてみれば、確かにそうだった。


「で、名前だ。篠宮涼介なんて名乗れねえだろ?」

「……そうだな。」

「じゃあ、シンプルに涼だな。」

「涼?」

「名字は伏せろ。ホストなら名前だけで十分だ。」


「……お前、妙に手際がいいな。」

「まあな。新人ホストを作るのは、昔から得意なんだよ。」


蓮は自信ありげに笑うと、涼介、いや“涼”の肩を叩いた。


「さあ、仕上げだ。」

「まだあるのか?」

「話し方を変えろ。」

「話し方?」

「お前の喋り方は芸能人特有の聞き取りやすい話し方なんだよ。抑揚とか滑舌とか、そういうのが完璧すぎんの。」


「……職業病みたいなもんだな。」

「だから、少し崩せ。砕けた言葉遣いを意識しろ。」


蓮は腕を組んで考え込む。

「そうだな……とりあえず、敬語は極力使うな。もう少しフランクに話せ。」

「例えば?」

「“ありがとうございます”じゃなくて、“ありがとな”とか。“どうしました?”じゃなくて、“どした?”とか。お前のキャラなら、ちょっと適当なくらいがちょうどいい。」

「……なるほど。」

「まあ、あとはやりながら調整だな。とにかく、篠宮涼介を捨てろ。」


涼は鏡を見つめた。


髪型も、目の色も、メガネも、話し方も変えた。

確かに、そこにいるのは“涼介”ではなく、“涼”という別の男だった。


「どうだ?」

「……すごいな。」


蓮は満足げに頷くと、ニヤリと笑った。


「さあ、デビュー戦だぜ。涼さんよ。」




涼介は「Paraiso」の一員として正式にデビューした。

彼は緊張しながらも、静かに店内の様子を眺めていた。


煌びやかな店内では、ホストたちがそれぞれの席で女性たちに笑顔を振りまき、時折店中に笑い声が響いていた。


蓮が彼の隣に立ち、にやりと笑った。

「どうだ?すげえだろ。この空気感。」

「……ああ。想像以上に華やかだな。」

涼介の声には、期待と不安が入り混じっていた。


「いいか、お前は”篠宮涼介”を捨てて、あとは自然体でいろ。それが一番お前の魅力を引き出すからさ。」

蓮の言葉を聞きながら、涼介は深呼吸をし、初めての席に向かった。


蓮が案内した席には、20代後半と思われる派手な服装の女性が座っていた。


彼女の名前はリサ。常連客であり、蓮の指名客の一人だった。


「涼、今日はお前の初日だから、俺の客で練習してみろ。」

蓮はリサに軽くウィンクを送りながら、涼介を紹介した。

「こいつ、今日からここで働くことになった涼。よろしく頼むよ。」


リサは興味深げに涼介を見つめた。

「ふーん、イケメンじゃない。よろしくね、涼くん。」


涼介はぎこちなく頭を下げた。「よろしく。」


最初は会話に入るのが難しく、涼介は蓮が主導する話題を隣で聞いているだけだった。


しかし、リサがふと涼介に目を向けた。

「ねえ、涼くんはどうしてホストになったの?」


その質問に涼介は一瞬言葉に詰まった。


彼がホストになった理由は、迷いと蓮の誘い、そして逃げ場がなかったからだった。

しかし、そんな本音を正直に話せるはずもない。


「少し自分を変えてみたいと思ってね。」


そう答えると、リサは微笑んだ。

「真面目そうな子ね。でも、そのギャップが逆にいいかも。」


蓮が軽く肩を叩いた。

「ほら、いい感じじゃないか。その調子でどんどん話せよ。」


接客が終わり、夜が更ける頃、涼介は店の裏口で一息ついていた。


疲れた顔をしていると、蓮が後ろからやってきて声をかけた。

「お疲れ。どうだった、初日?」


「……思ったより難しいな。でも、なんとか乗り切ったよ。」

「上出来だよ。お前、自然にしてるだけで客が引き込まれる。それ、才能だからな。」


蓮の言葉に、涼介は少しだけ安堵を覚えた。しかし、その胸の奥にはまだ割り切れない感情が残っていた。


自分の力がまた誰かを傷つけるのではないかという恐怖だった。


「俺、本当にここでやっていけるのかな。」

蓮は笑いながら涼介の肩を叩いた。「心配すんな。俺がついてる。」


その一言に、涼介は救われた気がした。

この蓮は拙作「二人で輝くとき」高校生編で裕奈に告白した三浦蓮でした。

その告白を裕奈が断ってからは登場しませんが、その後どういう過程でホストになったんでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ