えくすとら① 白き英雄と眠り姫
世界に・・・いや、人の心に何度絶望すれば良いのだろうか、彼らは俺を何故裏切るのだろうか。
体の一部が粒子となり空に溶け合いながら消え去っていく様を見つめながら、過去を振り返る。
絶対的な覇者となり世界を救った俺に待ち受けているのは、仲間の殺害、裏切り、暗殺という最悪な出来事だ。
勇者として生き、魔王として生き、冒険者として生き、何かを成し遂げれば成し遂げるほどむなしさは募っていく。
信じても裏切られ、疑心暗鬼にもなりきれなく俺の甘い心根はそれすらも許してしまいそうになるほどに極甘だった。
力を手に入れて、世界最強だとかハーレムだとか喜んでいたときが一番楽しかった。
どんなに力が合っても両手でつかむことが出来る物は限られていて、それでも必死で俺は助けようと手を伸ばしたんだったけ。
心臓に突き刺さっている剣は仲間に預けていたものだった。
名誉や大金なんてそんなのはどうでも良い、心が通じ合えるそんな仲間がほしいな。
涙を流している女性の顔が寂しげなのはきっと気のせいなのだろう。
体は完全に粒子と化し、俺の意識は深い暗闇に堕ちていった。
溶けた意識の中で毎回女神と軽く会話を交わすのだが、女神の声さえ聞こえない聞こえるのはノイズである。
電波入りが悪いラジオの様な音がかすれた声とノイズが聞こえるばかりで何も伝わらない。
願うなら、今度は俺にとって優しい世界であるようにと願うばかりであった。
えっと・・・。誰か?俺が今どうなっているのか、なんでこんな事になっているのか教えてくれないかな?
目覚めた先は通常召還陣の上だったりするわけだが、なんで女の子に抱き枕のように抱きしめられているのか。
天蓋付きのベッドと高級寝具の上でシルクのような滑らかな寝間着の感触に、伝わる体温甘い香りそしてとても柔らかい。
俺も少女も真っ白のシルクの寝間着とおそろいなのですが、どういうことなのだろう。
ずっとこのままで居たいですって本音が漏れそうだが、このままだと鉄格子付きお部屋にご招待されてしまう。
といって少女の拘束から逃れられるのかと思えば、しっかりとホールドされているので起こさずに脱出出来そうもない。
規則正しい寝息が止まる、それは少女の意識が覚醒する前触れだった。
ちょっと!まって、俺の心の準備をさせてねぇ!お願いと必死に願うが、少女の大きく可愛らしい眼に見つめられてとりあえずこう言うしかなかった。
「おはよう。今日も良い日であるといいね。」
俺を見つめた少女は考えているように、俺を見つめている。
気まずいのですが何とかならないのでしょうか、お願いですよ。
「おはようございます。貴方にも幸福な日でありますように」と少女は微笑みかけるとさらにぎゅっと俺にしがみついてきた。
これはこれで幸福な一日の始まりなんだけど、犯人確保!!って感じの拘束なのかい?
ドアのノック音が三度なるとドアが開き、メイドが複数人入ってくる。
そこで彼女たちは気がつくのだ、このなんとも説明しがたい状況に。
「アリエット様、本日の日程ですが―――」
この状況を放置して日程を伝えるメイド長なる人物の放置ぶりはすさまじい。
日程を話しているのだろうが、それにしてもアリエットという少女は忙しいようだ。
俺はアリエットを抱きかかえながらベッドから降りて、優しく下ろすと複数のメイドがアリエットに歩み寄り身支度の準備に取りかかった。
そして、俺は一人のメイドに背中を押され廊下に出された。
女の子の着替えをのぞくなんてだめだよねって!ちがうわい!なんで俺が居ることが当然みたいな扱いなんだよ!
廊下に出たがどうしようか、この場にとどまるか、逃げるかということだ。
逃げたとしても誰かに見つかればご招待ということで、このままアリエットを待っていた方がたぶん安全だろう。
しばらくするとドアが開き、アリエットが「ネリィー♪」と言って抱きついてきた。
豪華な衣装と贅沢を尽くした一品のドレスといったところだろうか。
髪も編みこまれヘアドレスをつけている。
とても時間のかかる朝の支度を数名で行うのだから時間も短くて済むといったところか。
ネリとは一体何のことだろうか、そして何故俺はこのような状況でも不審がられていないのかよくわからなかった。
疑問を解決するには情報がなく、危険でもないので焦らず状況を整理しようと、状況に流されるとを決意するのであった。
アリエットと手をつなぎながら廊下を歩くと兵士どもがこちらを見るそれはもう恐い表情でだ。
俺は、その殺意の籠もった視線をあびながら、奥へ奥へと進むアリエットに手を引かれるのであった。
目的地には、小さな図書館の様な本棚が並ぶ部屋。
大きな机と見るからにだらしない女性がいたが彼女が大賢者と呼ばれる人物だと名札で誇示している残念な女性。
席に着けば大賢者であるフォーチュンによる講義が開始され、なんで俺が一緒に講義をうけているんですかね?
それにしても大賢者というわりには、徹夜明けの研究員といったところじゃないだろうか、ボサボサの長い髪によれよれの服は彼女を賢者と呼ぶのを躊躇わせる格好だ。
そんな、彼女の講義は覇気が無く、やたらと眠たげに話すので、アリエットは夢の世界へと旅立ちそうである。
先程まで、俺を無視していたかのように話していたフォーチュンは、こちらを向き「お姫様は今日も夢のなかさ、まいったねぇ」と白々しく語る。
俺はため息をつきながら「貴方の講義が眠気を誘っておるという事には気がつかないのですか?」と言ってみると「ネリくんは厳しいことを言うなぁ。私にももっと優しい言葉をかけてもらいたいね。」
と何とも会話が成立するというか、俺自身今の状況を飲み込めていない。
俺の名前は、自分でも恥ずかしいから言いたくない、星加星空なんて気の進まない名前を言いたくない。
名を名乗るタイミングをのがし、ネリと呼ばれるが、そろそろ名をなのってもいいだろうかと煮え切らずに居た。
俺と眠り姫と大賢者の講義はまだ始まったばかりである。




