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 海賊たちを全員ライリーレ号に乗せ、またアゼルも戻ってきた後。俺たちはカレシア王国に向けて出発した。

 炭酸水の件を詫びなければいけないし、それに海賊たちの処罰をどうしたらいいのか相談しに行くためだ。

 なにせ、ライリーレ王国にはまだ司法は成立していないし、そもそも牢獄がない。カレシア王国に引き取ってもらう算段だった。

「白鳩便、届いているといいんだけどな」

 俺はぽつりとひとりごちる。

 事前に、海上からカレシア王国国王ナヤフに白鳩を飛ばしているのだ。書状を持たせて。すんなりとお目通りが叶うといいのだけども。

 カレシア王城へ向かうのは、俺とカザロとアゼルの三人。護衛としてレノスとザシェーバも同行してもらっている。

 アゼルも連れて行くのは、場数を踏ませたいからに他ならない。そう伝えたら……アゼルはただ、はにかむだけだった。あれはどういう気持ちだったのかな。

「大丈夫ですよ。あの白鳩たちは優秀ですから」

 俺の斜め後ろを歩くレノスが相槌を打つ。ザシェーバも「そうですな」と同意した。

 カザロは違った返答だ。

「万が一、届いておりませんかった場合、一から並ぶしかありませんね」

「……」

 アゼルは何も言わない。未だ気落ちしているのか……元気がなさそうだ。

 兄貴分とお別れしたことをまだ引きずっているのかもしれない。また、配慮の欠ける強引なことをしてしまったかも。

 俺は内心しゅんとして、アゼルに声をかけた。

「アゼル。疲れているのなら、そこのベンチで休んでいるか?」

「いいのですか?」

「ああ。察しが悪くて悪かった」

「い、いえ。体力のない僕が悪いんです。……でも、それでは休ませていただきます」

 アゼルは一礼し、広場の木製ベンチの方にとぼとぼと歩いていく。

「ザシェーバ」

「はい」

「アゼルの傍についてやっていてほしい。ちょっと、目を離さない方がいい」

「分かりました」

 落ち込んでいるだけではないような気がして、ザシェーバを護衛につけた。もし、思い詰めて何かあったらと思うと、怖い。

 二人を残し、俺たちはカレシア王城に入った。門前での荷物検査はほとんど俺の顔パスで済み、武器の所持は許されたまま。

 気になっていた白鳩便については、きちんと届いていたみたいだ。カレシア王城に入ってすぐ、謁見の間に通された。

「ラーシヴァルト! あの手紙の内容は本当か!」

 カレシア国王ナヤフが玉座から立ち上がり、俺に向かって駆け寄ってくる。

 気遣わしげな様子から、おそらく海賊団と交戦したことを心配してくれているんだと思われた。

「はい。海賊団につきましては、無事に捕縛いたしました」

「お前に怪我は? 他にも負傷者が出たんじゃないか?」

「俺は無事です。負傷者は数人ほどですが、幸い軽傷です」

「そうか。よかった……」

 ほっとした顔で、吐息をこぼすナヤフ。こんなにも真摯に心配してくれるなんて、やっぱり親しみやすくて情に厚い国王様だ。

「ありがとうございます。海賊たちにつきましてご相談いたした……」

 言いかけたその時だ。

「えっ! ちょ、ちょっとお待ちくだ--」

 慌てた様子の兵士の声が扉越しに聞こえたかと思うと、後方にある扉が勢いよく開いた。

 バァン!

「ラーシ兄上!」

「エ、エリュー!?」

 振り向いた俺は、飛びつくように抱きついてきた小柄な少年エリューハニスの登場に驚くしかない。どうしてエリューハニスがここに!?

 いや、それよりも。

「こら、エリュー。ダメだろう。俺たちの謁見時間なのに乱入してきて」

 エリューハニスは、はっとした顔をする。まずい、と焦っているのが見て取れる。

 すぐに俺から体を離して、謝罪した。

「す、すみません。ラーシ兄上がいらっしゃると聞いて、つい……」

 俺はやれやれと嘆息した。

「謝罪は、ナヤフ陛下にしろ」

「はい……」

 しょんぼりとした様子のエリューハニスが、ナヤフを見上げると、本人が謝罪するよりも先にナヤフが鷹揚に笑った。

「よい。兄弟の喜ばしい再会だ」

「か、寛大なお心遣い、ありがとうございます」

 エリューハニスが頬を赤らめながら、ナヤフに深々と頭を下げる。しっかり反省しているみたいだけど、外交を専門に勉強しているはずなのになぁ……。

 可愛い弟から好かれて嬉しくないわけはないんだけども。

「エリュー。ウーシュは?」

「ウーシュ兄上でしたら、もうすぐやってきますよ」

「二人はどんな用事で……あっ。ごめん」

 アルヴェルス王国への越権行為だ。俺は慌てて口をつぐんだ。

 が、ナヤフが説明してくれた。

「大丈夫だ、ラーシヴァルト。実はな、もしかしたら捕まえたという海賊団の身柄はアルヴェルス王国で預かることになるかもしれんのだ」

「え? アルヴェルス王国が、ですか?」

 確かにアルヴェルス王国にも大きな投獄はあるし、もちろん司法も成立している。引き取っても問題ないかもしれないけど……でも、罪人をわざわざ引き取ったところで財政の負担になるだけだ。なぜ。

 解せない俺たちに、また扉が開いた。今度は心持ち静かに。

「兄上」

「ウ、ウーシュ!」

 お前もか! なぜ、揃いもそろって謁見中に乱入してくるんだよ。兄好きにしても、公私は分けてほしい。

 と思ったものの、ウシュベルーナに関しては違った。すぐ後ろにカレシア王国宰相ヌルゴが立っていたからだ。

 あっ、なんだ……。さすがにウーシュが暴走するわけがなかったな。はは。

「ご無沙汰しております、兄上。海賊団と一戦交えたとお聞きしましたが……お怪我は?」

「平気だよ。目潰しにあって、ちょっと涙目になったくらい」

「目潰し!?」

 即座に反応したのは、エリューハニスだ。

 ふつふつと怒りがこみ上げてきたようで、「ラーシ兄上のお綺麗な目になんてことを! 蛮族め!」と憤慨している。

 ウシュベルーナも「卑劣な手を使われたのですね」と眉尻を下げた。

 なんというか、二人の品性がよく伝わってくる。でも、どちらも俺のためを思っての反応には違いない。

 俺は若干エリューハニスの暴言に引き攣った笑いをしつつも、諭すことはやめた。もう俺はライリーレ国王だ。あまり口出すするものじゃないと思って。

 代わりにウシュベルーナが指摘した。

「エリュー。品性のない言葉遣いはやめろ」

「え、でも」

「それに賊といえども、差別的な物言いはいかがなものかと思う。兄上を見習え」

「むー……。ウーシュ兄上こそ、ラーシ兄上のお優しい口調を見習って下さいよ」

 言い合う二人。でも、以前よりもずっと仲がよくなっている気がする。一緒に内政をしていく中、距離を縮めたのかな?

 その時、コホンと咳払いが室内に響いた。

「お揃いのようですな」

 ヌルゴだった。その鋭い眼光を前にして、俺たち三兄弟ははっとして佇まいを正す。もちろん、カザロやレノスも同じ。

 ここはカレシア王城だ。そして年長者でもあるナヤフが、真っ向から口を開いた。

「みな、集まったようだな。先程、話題に上がっていた海賊団についてだが……ウシュベルーナ陛下。そちらで身柄を預かるということで本当にいいのか?」

「はい」

 ウシュベルーナは一言だけそう言った。それだけではあんまりだと言わんばかりに、エリューハニスが付け加える。

「実は当国の貴族が海賊団と裏取引をし、ラーシあに……いえ。ライリーレ王国の特産品である炭酸水を転売しようとしていたことが発覚したんです」

 俺は目を瞬かせた。--なるほど、そういうことだったのか。

 考えてみると、あの海賊たちに炭酸水を売りさばく手腕があったとは思えない。裏ルートで卸そうとしていただけだったのか。

 いずれにせよ、許しがたいことだけども。

 ナヤフも「なるほど……」と納得したようにしきりに頷いている。

 エリューハニスの説明は簡潔で分かりやすかったものの、自国の恥をそうもあけっぴろげに話すべきではない。と、俺は思っていたけど……あ。

 エリューハニスと目が合う。ぱちんと、ウインクを飛んできた。

 即座に察する。ああ、そうか。俺に警告を発してくれているんだな。それだけ、ライリーレ王国名物でもある炭酸水を欲しがる闇商人が、たくさんいるのだと。

 エリュー……ありがとう。

 ウシュベルーナも何も注意しなかった。ウーシュもありがとう。

 三兄弟の絆や愛情の深さを感じ取ったナヤフもヌルゴも、ふっと笑みをこぼす。カザロとレノスも右に同じく。

「では、海賊団の身柄はアルヴェルス王国に引き渡す。それでよいな、ラーシヴァルト陛下」

 改まって陛下呼びされ、俺は背筋をピンと伸ばす。

「はい」

「それでは、兄上。海賊団はどちらに?」

 体をこちらに向けるウシュベルーナに、俺はあっけらかんと答えそうになった。

「船の一室に押し込め……あ、いや。丁重に閉じ込めてる」

「意味はさほど変わりませんが」

「言い方の問題だろ」

 嘘じゃない。狭い部屋にタコ部屋状態ではあるが、きちんとマットを敷いて寝かせているほどの好待遇だ。食事だって食べさせているし。

 ウシュベルーナはふっと一笑した。

「さすが、兄上は言葉遣いが上手い」

「え?」

「やっぱり、ウーシュ兄上も見習われてはー?」

 エリューハニスにからかわれ、ウシュベルーナはむっとした顔をする。まったく、困った弟たちだ。

「エリュー。人をイジるのはやめろ」

「はーい」

 リスガを思い出した。この軽さ……聞いているんだか、どうだか。

 それにしても、リスガか。ダデラやスウェン、いやライリーレ国民みんな、元気にやっているかな。あっちは平和だといいけど。

「それでは、御前を失礼いたします。ナヤフ陛下」

 俺は……俺たち全員、深く一礼して、謁見の間を後にした。



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