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それから--アゼルからの情報提供を元に、ライリーレ号は海賊団のアジトへ舵を切った。
海賊団は何十人くらいの規模か。
どのようなアジトになっているのか。
アゼルからすべてを聞き出した。
「ありがとう。アゼル。話してくれて」
俺が優しい笑みを浮かべてアゼルに話しかけると、アゼルは決然とした表情で「いえ」と返答した。
「当然のことです。……みなさまには大変ご迷惑をおかけしてしまったのですから」
「申し訳ないと思うのなら、一緒に頑張ってほしい。あと、それから」
「はい」
目をぱちくりとさせるアゼルに、俺は厳しい表情を作った。
「海賊団のことは捕まえるつもりだ。覚悟はいいか?」
毒親とはいえ、アゼルのご両親が取り仕切っているという海賊団。船長であるアゼルの父は、特に厳しい処罰を受けねばならない。
もちろん、そもそも海賊たち全員が処罰を受けるわけだけども。
気遣わしい表情になってしまいそうになるのを必死に押しとどめ、厳格に問うと、アゼルは一瞬だけ沈黙した。
当然かもしれない。やっぱり肉親を捕まえるというのは……胸が痛む行為なんだろう。
でも、アゼルは迷わなかった。
「はい。大丈夫です」
「分かった。じゃあ上陸したら、作戦決行だ。それまでは自由にしていていいよ」
「ありがとうございます」
じゃあ少し甲板に行ってきます、とアゼルはきびきびと操舵室を出て行った。
***
アゼルが生まれ育った海賊団は、最低最悪の集団だった。
子どもながらに不思議だった。なぜ、人々から金品を強奪するのか。自分たちで畑でも耕して生きていけばいいんじゃないのかと思ったことは数知れない。
邪魔者にも容赦は無かった。アゼルは怯えて隠れているしかなかったが、多分……たくさんの命が奴らによって奪われただろうと思う。
『はん。臆病な出来損ないだね。私らの息子だっていうのに』
『いたっ』
母親である女性海賊に蹴りを入れられる。
アゼルは身を縮こまらせた。下手に反抗しようものなら、もっとひどい目に遭わされてしまう。
『まったくだ。見込みのない奴だよ。産まない方がよかったな』
父親である船長もまた、暴言を吐いた。
アゼルは泣きたくなるのをぐっと堪えた。怖くて、悲しくて。
こんな両親、大嫌いなのに……それでも、罵詈雑言という鋭利な刃はアゼルの心をズタズタに切り裂く。
僕は生まれてこない方がよかったのか。
でも、そんなのこっちだって……生まれない方がよかったよ。こいつらの下になんて。
心の中で精一杯強がって、どうにか悲しみから自分の心を守る。
そう。アゼルはずっとそうやって生き延びてきた。
だから。
『生きて延びてくれてありがとう』
ラーシヴァルトとオルドゴの師弟二人にそう言ってもらえた時、嬉しかった。
こんな自分でも生きていていいんだ、自害しなかったのは間違っていなかったんだ、と思えて。
「……」
アゼルは上甲板に一人立ち、目と鼻の先にある『故郷』を力強く見つめる。押し寄せる波音を聞きながら。
これからあの地獄だった『故郷』を崩壊させにいく。その方が世界のためになる。そうだ、きっと。
でも、なぜだろう。
『ははっ、アゼルよぉ。お前は本当に怖がりだなぁ』
ただ一人。そう、ただ一人だけ、アゼルの味方だった人がいる。
海賊団をしている時点で完全な善人ではないかもしれない。だが、アゼルにとっては頼れる兄貴分であり、幼い頃からよくお世話をしてくれた人だった。
海賊団での暮らしにも、安息があった時も僅かながらある。このちょっぴり痛む気持ちは……だから、なんだろう。
「ごめんなさい。ダガノさん」
アゼルは小さく呟いた。
痛む気持ちはある。でも、やる。『故郷』という幻想を捨てて。
あの海賊団を瓦解させることこそ、海賊団船長の息子として生まれた自分の役目だ。
「アゼル君」
「!」
アゼルははっとする。後ろを振り返ると、そこにはザシェーバが立っていた。
呟きを聞かれたのかと一瞬焦ったけど、聞こえてはいなかったみたいだ。笑顔でアゼルに向かって片手を上げた。
「よっ。風に当たって気合いを入れているのか?」
「えっと、……はい」
どんな表情をしたらいいのか分からない。
こんなにも迷惑をかけてしまったというのに、ラーヴァルトだけでなく誰も彼も自分のことを責めない。嫌がりもしない。
どうして……『この国』はこんなにも優しいんだろう。
ラーシヴァルトがいつか言っていた。人の心とはもっと広いものであり、温かく受け入れてくれる人はたくさんいると。
なるほど。『この国』に関してはまさしくその通りだ。
「陛下もみなさんも……本当にお優しいですね」
ぽつりと言うと、ザシェーバは「んん?」と優しげに首を傾げた。何か考え込むように、
顎に手を添える。
「私たちに関しては分からないが。確かに陛下はお優しい方だよ。昔から」
「昔から?」
「ああ」
ザシェーバはアゼルの隣に立ち、思いもよらない話をしてくれた。
数年前、ザシェーバたち王立騎士組は……ストーカー立てこもり事件の解決を上層部から任されたという。被害者女性はどうにか保護できたそうだが、しかし……犯人である加害者男性が思い詰めたのか自害してしまったそうだ。
加害者男性の遺族からは責められ、上層部からも解雇通告を受けた。
途方に暮れていた五人に救いの手を差し伸べたのが、ラーシヴァルトだったらしい。
「陛下が、当時のアルヴェルス王国民の署名を集めて、私たちをクビにしないよう嘆願書を書いてくださったんだ。想像以上の署名が集まった。おかげで私たちは王立騎士団をクビにならずに済んだ。すべて、陛下のお力添えがあってこそだ」
「そんなことがあったんですか……」
「ああ。それまではさほど親しいというわけではなかったんだがな。ともかく以来、俺たちはラーシヴァルト親衛隊のようにお側にいることが多くなった。ライリーレ王国までついてきたのも、その恩義があるからなんだ」
ザシェーバはそう話を引き結び、へらりと笑う。
「長々とすまん。とにかく、陛下がお優しいのは筋金入りだよ。君も安心してお側にいるといい」
「……ありがとうございます」
「はっはっ。じゃあまた後で。頑張ろうな、壊滅作戦」
「は、はい!」
アゼルは力強く返答した。
立ち去っていくザシェーバを見送ってから、間近に迫った海賊団アジトを振り返る。
覚悟は決めよう。
オルドゴ、そして何よりもラーシヴァルトのために海賊団に立ち向かう。そして、すべてを終わらせるんだ。
***




