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 レノスはどこだろう。

 ライリーレ号を出て、俺はひとまず畑の方に行ってみることにした。まぁおそらく、畑仕事に従事しているだろうと思ったから。

 さすがに走り回りすぎて疲れたので、とぼとぼと山道を歩く。

 レノスにどう謝罪しよう。

 相手がレノスだからと甘えてしまい、必要以上に怒鳴ってしまった気がする。それに謝罪してくれたのに、子どもみたいに突っ張って。

 どの口が、子ども扱いしないでほしいなんて言えるんだ。


「あれ? レノスは?」


 まず、ベリー畑に到着すると、でもそこにレノスはいなかった。

 スウェン父に訊ねると、スウェン父もまたよそよそしく……「じゃがいも畑の方にいらっしゃいますよ」とだけ答えてくれた。


「ありがとう。……その、昼に広場でみんなに話があるから。きてもらえるか」

「? は、はい」

「じゃあまた」


 ベリー畑を通り過ぎて、じゃがいも畑に足を向ける。

 すると、いた。じゃがいもを黙々と収穫しているレノスが。その姿はいつも通りのようにも見えるけど、俺には分かる。やっぱり気落ちしていると。


「レ、レノス」


 俺は気まずい思いを乗り越え、レノスに声をかける。すぐにレノスは顔を上げた。


「ラーシ様……」

「ちょっと、話があって。今、いいか?」

「……ええ」


 レノスは周りのみんなに「少し抜けます」と声をかけ、俺と一緒に荷馬車の所まで移動した。

 荷馬車の上にはたくさんのじゃがいもが干されている。今日も大収穫みたいだ。


「お話というのは?」

「あの、さっきはごめんな。きつく当たって」


 そっと目を伏せ、まずは謝罪する。

 レノスもまた、顔を伏せた。


「いえ……俺が悪かったですから」

「そんなことない。俺の方こそ悪かったよ。レノスは心配してくれていたのに、八つ当たって」


 我ながら本当に子どもだった。来月、成人するのにな。


「イブキに話したら、ちょっと考えさせられることを助言されて……。俺、確かに必要以上にみんなに気を遣ってしまっていたように思う。俺の悪い癖だな。はは」

「そんなことはありません。お優しすぎるところこそ、ラーシ様の美徳です」

「でも、それで苦しくなるときがある」

「……」

「俺ももう少し境界線を引けるように頑張るよ。俺が倒れたら、結局はみんなを守れなくなる。みんなを守るために、もっとみんなを信頼する」


 意味が分からないと言われるかもしれない。でも、そういうことだと思うんだ。

 みんなを強くする。

 それも、俺がやるべきことであり、みんなを守る術になると思うから。


「よいお考えだと思います」


 レノスはふっと笑みをこぼしながら、同意してくれた。

 秋晴れの上空には、阿呆鳥が旋回している。秋風が吹き抜けると、風に動かされたじゃがいもが危うく荷馬車から転がり落ちそうになる。


「「あっ」」


 俺たちが同時にキャッチしようとして、だけどどちらも取り損ねた。俺たちの手がそれぞれ衝突したせいだ。

 じゃがいもがコロコロと転がっていく。

 俺たちは顔を見合わせ、お互いに「ふっ」と笑みをこぼした。にこりと微笑み合う。これで仲直りだ。


「これからもよろしくな」

「はい」





 その後、ザシェーバにも謝罪した。レノスに伝えた自分なりの反省も添えると、ザシェーバは「ご立派になられましたなぁ」と感慨深そうに目尻を和ませていた。


「言い過ぎたよ。本当にごめんな」

「いえ。私の方こそ、勝手なことをしてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 お互いに謝り合って、今度こそ和解。俺たちは笑い合った。

 そうして昼、広場にて。村民がみんな昼食を食べに集まってきたところで、俺は声を張って叫んだ。


「みんな! ちょっといいか?」


 ダデラ夫夫たちから話を聞いているのか。村民たちが戸惑った目で、俺を振り返った。

 村民たちを混乱させてしまっている。俺が原因だ。本当に申し訳なく思う。

 俺は両拳をぐっと握った。

 ……これから伝えること。受け入れてもらえるか、不安だし、正直なところ少し怖い。

 手も足も震えてしまいそうになるくらいに。

 でも、勇気を出して伝えるんだ。


「ザシェーバから指示されたって話。まず、あれは俺の指示じゃない」


 村民たちが「やっぱり、そうなのか」と口々に呟く。その目がやや怒りに染まって、ザシェーバに鋭く向けられたことに気付き、俺は慌てて釈明した。


「でも、ザシェーバが悪いわけじゃないんだ。彼はただ……俺のことを心配して、わざとみんなに不遜に指示したんだ」

「どういうことだよ」


 口を挟んだのは、ダデラだ。おそらく、村民たちの気持ちの代弁だろうと思う。


「じゃあ、実は俺たちと仲良くするのが実は迷惑だったってことか?」

「それは違う!」


 即座に否定する。そうだ。それは絶対に違う。

 ただ。

 俺はそっと目を伏せた。


「……俺、さ。過去にトラウマがあって。周りの人に気を遣いすぎてしまう悪い癖があるんだ。だから実は気疲れしてしまいがちで」


 王太子時代には悩まされなかったことだった。だって、あの大きな国では民との距離がもっとずっと遠い。


「みんなが大切で大好きだからこそ、傷つけたくなくて……無理する時もあった。ザシェーバはそのことを知っていたから、だからみんなにああ指示を出したんだ」


 多分、みんなに嫌われたくないというのもあるように思う。だって、やっぱりみんなが大切で大好きだから。だから、自分も傷つきたくなくて。

 傷つけ合うことが嫌だ。でも、それはきっとイブキの言う通り強欲なことなんだろう。

 俺はぐっと顔を上げた。


「俺はこれまで通りみんなと仲良くしていたい。ただ」

「ただ?」

「俺自身はもっと違った関わり方をしていく。苦手な物は苦手だときちんと伝えるし、疲れていたらおとなしくなっている時もあるかもしれない。俺はまだまだ未熟で、完璧じゃないから」


 村民たちははっとした顔をする。みなが恥じ入るように顔を伏せた。

 ダデラでさえも。


「それでも俺たちの絆は壊れないって俺は信じる。……信じていい、かな?」


 情けなくも問いかけると、村民たちはすぐに叫んだ。


「もちろんです!」

「我々のことをもっと信じて下さって大丈夫ですよ!」

「そういうことはお互い様だと思います!」


 わっと俺を受け入れてくれる声が沸く。

 俺は……目頭が熱くなった。こんな俺でもついてきてくれるのかという安堵と、そして何よりもライリーレ王国の絆が強くなった気がして。

 勇気を出して話してよかった。よかったよ。

 --パチパチ。

 その時、誰かが拍手をした。誰かと思ったら、イブキだった。

 村民たちもまた、雰囲気に乗ってパチパチと拍手を送る。大きな拍手音となって、広場に響き渡った。


「よかったですね。ラーシ様」


 隣にいるレノスが優しく微笑む。

 俺は滲んだ目元を拭いながら、こくりと頷いた。


「ああ」

「きっと、この国はよりよくなりますよ」

「そうだな」


 ライリーレ王国はもっとずっと力強い国になる。

 みんなの力を借りて、俺も国王として一人の人間として成長していこう。



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