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「おはよう。早くからお疲れ様。……あの、さ。ダデラから聞いたんだけど」


 切り出すと、二人の表情がますます強張る。


「どうして急に俺に対して態度を変えるよう諭したんだ? 俺、誰にもそんな風にするように頼んでないんだけど……」

「「……」」

「正直、戸惑ってて。みんなと仲良くなれたと思ってたら、よそよそしい態度にちょっと傷つくっていうか……」

「「?」」


 途端、二人は不思議そうな顔をして、互いの顔を見合わせる。が、すぐに二人とも俺に視線を戻した。戸惑った顔をして。


「あの……陛下がご指示したことではなかったのですか?」

「俺は知らない。やっぱり誰かから言われたのか?」

「はい。--ザシェーバさんたちです」

「ザシェーバたちが!?」


 それは全く予想できておらなかったことで、俺は絶句した。

 ザシェーバたち……どうして。そんな余計なことを勝手に伝えたんだ。

 一瞬、強い怒りが沸き上がって、怖い顔をしてしまったみたいだ。二人はぎょっとしていた。


「あ、あの……」

「陛下……」


 俺ははっとする。慌てて柔和な表情を作った。


「ごめん。話してくれてありがとう」

「い、いえ」

「じゃあ、また。今日の山菜、楽しみにしてる」

「「はい!」」


 二人ににこりと笑いかけ、俺は身を翻した。……ザシェーバの奴、一言と言わず何言も文句を言ってやらないと。

 こんなに苛立ちを覚えたのは久しぶりだ。温厚王子であるはずの俺なのに。

 すぐさま道を引き返すと、やがて工事用具を運んでいるザシェーバたちと遭遇した。見つけたぞ!


「おい、ザシェーバ!」

「!」


 つい語気強くザシェーバの名前を呼ぶと、ザシェーバは巨体をびくりと震わせる。他の王立騎士たちも右に同じ。

 俺を振り向いたザシェーバは……へらっと笑った。


「陛下。これはご機嫌麗しく」

「なわけないだろ」

「……申し訳ございません」


 素直に謝罪して、俺の前までやってくる。その表情はもう何を怒られるのか分かり切っているような、諦観の表情だ。

 その表情を見て、ダデラ父二人が話したことは事実だと俺は察した。


「おい。みんなに勝手なことを言ったみたいだな。どういうつもりだ」

「……申し訳ございません」

「謝罪はいいから。理由を話してくれ」

「……」


 ザシェーバはなかなか口を割らない。俺は苛立ちを覚え、強めに名前を呼んだ。


「ザシェーバ」


 答えるように促すと、このまま黙秘を貫くのは難しいと思ったんだろう。やっと、口を開いてくれた。


「とある者から相談を受けまして」

「相談……?」


 とある者とは、一体。


「それは誰だ」

「それは守秘義務がございます。お許し下さい」

「……分かった。で、どんな相談だったんだ」

「陛下が村民に対し、過剰に気を遣われて疲弊しがちなところがあると」

「!」


 ぎくりとした。疲弊。それは……紛れもない事実だったからだ。

 俺の目が揺れ動いたことに気付いたザシェーバは、自分の行いが悪かったわけでないと解釈したらしく、もう堂々と開き直った。


「ですから、村民にこう伝えました。陛下はこの国の国王であり、我々が馴れ馴れしくすべき御方ではないと。今後は礼節を弁えるよう、僭越ながら指示しました」

「な…っ!」


 俺は言葉を失った。なんだそれ。俺はみんなと仲良くできている日常が好きだったし、これからもその日常が続いていくから頑張っていこうと思っていたのに!

 ふつふつと怒りが沸いて、咄嗟に声を荒げてしまった。


「ふざけるな! 俺の気持ちを無視して!」

「……申し訳ございません。ですが、陛下が健やかに暮らすためにはそうするしかないと思ったんです」

「なんでそうなるんだよ! みんなはお前じゃないんだ。お前が想像する以上に萎縮してよそよそしくなってしまっただろ!」


 ひどすぎる。俺の幸せな日常……たとえ、少し気疲れしていたのだとしても、楽しい日常を身勝手にも奪うなんて。

 だいたい、余計なお節介でザシェーバに相談した相手も、一体誰なんだよ!


「撤回しろ」

「え?」

「自分の独断で勝手に指示したことだと、みんなに申し開きしろ。俺からもみんなに伝えるけど、お前も頭を下げてくれ」

「了承しかねます」

「いい加減にしてほしい」


 俺はむっとしてきっぱりと言い放つ。


「俺はそんなにお子様じゃないんだ。過保護はやめろ」

「……」


 ザシェーバはちょっぴりバツが悪そうな顔をして、そっと息をついた。


「……承知いたしました。申し訳ございませんでした。余計なことをしてしまって」

「以後、気を付けてくれ」

「はい」


 よし。これで解決だ。ザシェーバたちはもちろん、相談者にも腹が立つけど、いつまでもネチネチしてはいられない。

 どうにか怒りを飲み込むことにして、「じゃあ、またあとで」と俺は踵を返した。

 ……あれ? そういえば。


「ザーシェバ」

「はい」

「イブキには伝えなかったのか? その指示」

「いえ。彼もその時、呼びましたが」

「ふぅん……」


 ということは、イブキは指示されてもなお、俺への態度を変えなかったということ。

 俺の気持ちを汲むことを優先させたのかもしれない。俺のことを理解してもらえているようで、嬉しい。

 もちろん、村民たちだって……俺に気を遣ってのことなんだろうけどもさ。

 なんだか、イブキにまた会いたくなった。

 帰りに、ライリーレ簡略港に寄り道していこう。



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