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 村に到着すると、カザロが目を丸くしていた。そりゃあ、こんなに大所帯になっていたら驚きもするだろう。困惑した様子もある。


「お帰りなさいませ、みなさん。ええと……何がございましたか?」

「ただいま。実はアルヴェルス王国から移民を引き入れた。紹介するよ」


 俺は、オルドゴから順に総勢十三人についてざっくりと紹介する。だけど、さすがのカザロも一度には名前を把握しきれないのか、確認する際に何度か間違っていた。

 さすがに事前情報もなしに十三人分のことを覚えるのは、きついか……。でも、これからライリーレ王国の文官として、諸外国の要人について教えたい。頑張って欲しい。


「……承知いたしました。では、そのようにみなにも伝えておきますね」


 カザロはにこりと笑う。オルドゴやザシェーバたちに一礼してから、畑の方へ向かっていった。

 現在、ライリーレ王国では畑仕事に従事している民が多い。これからやってくる冬に向けて、作物を収穫中なんだ。

 今季は特にじゃがいもが大豊作だ。ベニートが中心となって、色んなじゃがいも料理に挑戦している最中。


「ほう。あの者は、きちんと陛下に敬意を払っているようですな」


 ザシェーバがぽつりと呟く。

 俺は苦笑いするしかない。監督か何かなのか?


「彼の名前はカザロだ。祖国で文官をしていた人だよ」

「なるほど」


 祖国がどこなのか、ザシェーバは聞かなかった。興味がないのか、迂闊に知ってしまうと揉め事になる可能性があるからか。なにせ、近年まで大戦国時代だった西大陸だ。

 といっても、サーシェ王国は大戦国時代中もほぼ鎖国していた。アルヴェルス王国との戦争の歴史は俺の知る限りない。だから知っても大丈夫だろう。


「ちなみに祖国っていうのは、サーシェ王国のことだ。今、移住手続き中なんだ」

「サーシェ王国ですか。では、さぞ信心深いのでしょうな」


 核心を突いた言葉に、俺はどうしたものか考える。サーシェ人組みんなが同性愛者であることや、性自認のことをこれからザシェーバたちにも伝えていかねばならない。


「あー……それは大丈夫だよ。信心深くはない。ある意味」


 ザシェーバは怪訝な顔をした。


「ある意味とおっしゃいますと?」

「とある理由で、神様には忠誠を誓っていない人たちだ。神様自体は強く信じているみたいだけど」


 対してアルヴェルス王国は、無宗教に近い。かつては神様を信じていたそうだけど、現代ではお伽噺みたいな存在でしかない。

 神様だっているかもなーくらいの軽いノリであり、だから……俺やレノスは、カザロたちサーシェ人組に対してその辺りの発言は注意している。

 価値観の違いは配慮のし合いが大事だと思うから。

 その後は、ザシェーバたちを空いている家屋に案内した。どこの一軒家も四人は住まえるから、まだまだ余っているんだ。

 今は昼を過ぎたばかり。夜、眠るまでまだまだ時間がある。

 とはいえ、ザシェーバたちには今日くらいゆっくり休んでもらおうと思ったんだけど、元王立騎士組に関しては元気いっぱいで、自分たちから「もっと村を案内して欲しい」と頼んできた。

 俺は笑顔で了承した。


「分かった。じゃあ、まずは山の方に案内するよ」


 そこで絶品の天然産炭酸水が飲めるんだと、俺は笑いながら話し、十一人を引き連れて山の方に向かう。レノスも同行してくれた。

 イブキはタデラとの稽古に途中から行ってしまい、リスガは……なぜかオルドゴの所に残った。なぜ。先生の優しいお爺ちゃんオーラに引っかかってしまったのか?

 保護者役を奪われたようでちょっぴり寂しかったけど、俺もいつかはリスガ離れしないといけないんだし、その練習だと思おう。


「ーーなるほど。風光明媚な島ですな」


 山の中腹まできて、ザシェーバがにこやかに言った。「そうですね」「いいところだ」と他のみんなも口々に言ってくれる。

 俺はなんだか誇らしい気分だ。俺たちの国を褒めてもらえるのは、純粋に嬉しい。


「炭酸水もうまい」

「そうか。よかった」


 湧き水ならぬ湧き炭酸水をみんなで飲みながら、俺は視線を下方に向ける。凪いでいる穏やかな海だ。

 秋の晴れ渡った空の下に、なんだかぴったりだなと思った。静かな光景が。

 あの水平線の向こう側に、祖国アルヴェルスがある。あれから……ウシュベルーナたちは元気にやっているかな?

 俺はふいとザシェーバに視線を戻す。


「ところで、ザシェーバ。現アルヴェルス国王陛下の統治はどうだった?」


 あくまでウシュベルーナを国王として取り扱い、最近までアルヴェルス王国にいたはずのザシェーバからの評価を問う。

 ザシェーバは少し考えた後、正直に答えた。


「もちろん、大きな問題はございません。ただ、マミバ元宰相の失脚によって文官たちは大変そうでしたな」

「新しい宰相は?」

「ハバゼ宰相でしたら、若く有能だともっぱら評判です。少々、堅物らしいですが」


 可笑しそうに笑っているけど、ザシェーバ。お前もなかなかの堅物だろ。

 といっても、それは主に権力階級に関してかもしれなかった。ザシェーバ自身の私生活はむしろ豪快といっていってもいい。性格自体も朗らかだし。

 ハバゼという文官については、俺はあまりよく知らない。ウシュベルーナが目をかけていた若き文官なのかもしれないな。宰相位だからといって、年老いた文官を必ずしも登用する必要はないから。

 慎重なウシュベルーナにしては、思い切った人事だ。おそらく。


「しかし、残念です。アルヴェルスでこそ、ラーシヴァルト国王の御世が見たかったのですがね」


 ザシェーバがため息とともにひとりごちる。

 トンデモ発言に俺は言葉に詰まった。開けっぴろげすぎる。俺に対して心を開いてくれているんだろうけど……どう反応したらいいものか。


「これからたくさん、ラーシ様のご活躍が見られますよ。こちらの国で」


 レノスがさりげなくフォローを入れてくれた。にこりと笑って。

 ザシェーバはむっとした顔をする。自分の言葉に賛同して欲しかったのかもしれない。


「本来であれば、ラーシヴァルト陛下がアルヴェルス国王になられていたんだぞ。残念だと思うだろう、普通」

「やめろ。ザシェーバ」


 配慮に欠ける話題に耐えかねた俺は、苛立ちが顔に出てしまった。と思う。

 ようやくザシェーバははっとした顔をして、「……申し訳ございません」と詫びながら俯いた。

 俺はそっと息をついた。


「分かったのならいい。悪気がないことくらいは分かってる」

「いえ。本当に申し訳ない……。デリカシーに欠ける発言でした」


 何人かの元王立騎士たちも、恥じ入るように目を伏せていた。彼らもまた、俺がアルヴェルス王国を統治していた未来に思いを馳せていたんだろう。やれやれ……。


「以後、気を付けてくれ。レノスの言う通り、この国を俺は守り導くんだから」


 ご活躍するかはともかく、俺は俺なりに理想の国を真摯に作る。

 俺はにこっとザシェーバたちに笑いかけた。


「だからその道のりを、傍で支えてもらえたら嬉しい。みんなには」

「!」


 ザシェーバは感極まった顔をした。他のみんなも右に同じ。

 澄んだ秋空の下、「はっ!」と幾重にも重なった声が自然の中に響いた。



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