侯爵様の本気
晴れて婚約成立した二人だったが、エルドをまだ諦めきれない女性が現れて……
ルシアとエルドが正式に婚約してから数日ーー
「それにしてもお見事でしたわお嬢様!お嬢様にあんな得意技があったなんて。お嬢様がご自分で乗り切ったおかげで私の出番はなかったですわよ」
婚約式から何日も経つのに、フウカは未だにあの時の事を言ってくる。
「フウカ、その事はもういいでしょう?」
あの時はヴァルターに婚約を反対されたから踊っただけで、私自身は特にすごい事をしたと思っていないし……何より私はまだヴァルターに感想ももらっていないわ!
フウカがあまりにうっとりとして話すから、私はたまらなくなって逃げてきた。
そこへ……
「侯爵様だわ!誰かとお話ししてる?」
中庭に侯爵様の姿を見つけて、私は思わず駆け寄りそうになった。でも……
「……もうその事は何度も話しただろう。それに私はもう婚約したのだ」
「でもエルド!それじゃ私は収まりがつかないのよ!」
侯爵様と、見た事ない女性だわ……何か話してる?
「君もわかっていたはずだ。最初から割り切っていた関係だと」
「それはそうだけど……でもエルドは言ってたわ!この婚約には愛はないって!だから私と今夜……ねぇ、いいでしょ?」
女性はそう言って艶かしい仕草で侯爵様の腕に自分の腕を絡める。
は?は?は?は?何をやってるのあのご令嬢は!!
「……離せ……」
侯爵様、怒ってる?聞いたこともない低い声だわ。私はその声に思わず震えた。
「な、何……エルド。まさか本気なの??」
「ああ、今話した通りだ。私はルシアを本気で……」
「ちょっと待った!!侯爵様!!」
私は咄嗟に飛び出してしまった!だって侯爵様がすごく怖い顔をしてらしたんですもの。
「侯爵様!いくら侯爵様が弱者フェチでもこれは許しませんわ!怯えさせるなんてこのお方が可哀想でしょう!」
「ズコー!!」
侯爵様が古いリアクションを取って一瞬よろけた。
「じゃ、弱者フェチ?君はまだそんなことを……ていうか見ていたのか?ルシア……」
「ええ、見てましたわ。侯爵様がこのお方を怖い顔で睨みつけていた様をね」
私はふふん、と胸を張る。バッチリ見ていたわ!
「そ、その赤い髪……突拍子もない言動。エルドの婚約者ってまさかあなただったの!?赤髪の踊り子!」
ご令嬢が震える指で私を指して言った。
え??
まさかこの前のことが早くも拡散されていた??
「ほ、ほほほ、まさかエルド、こんな下劣な踊り子に本気になったなんて言わないわよね?」
……下劣。なんて嫌な言葉。まあ、どう思おうがそっちの勝手だけどさ。
「……そんなこと侯爵様の前で言わなくてもいいじゃない。ねぇ侯爵さ……ま……」
言いかけて、私は息を止めた。
「え……」
空気が変わった。
さっきまで春の風みたいに穏やかだった中庭が、急に冬の朝みたいに冷え切った気がした。
「……侯爵様?」
すっかり赤髪の踊り子の噂が広まったようですね。
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