侯爵様は意外とチョロい?
引き続き、侯爵様目線のルシアの印象です。
そしてルシア嬢がカップを落とした時だ。あの時はどうしてあんなことをしたのか今でもわからない。
気付いたら体が動いていた……
思わず手を掴む。なんと柔らかく小さな手だろう。今までこのようなことで驚いたことはなかった。
お互いの顔が近付き、金色の瞳がまるで私を吸い込むように揺れる。
『君のその瞳、金色に近い琥珀色……美しいな』
思わず口から出てきたのは、ただただ心からの称賛の言葉だった。私とあまりにも真逆の光に、私は目を奪われてしまったのだ。
* * *
しかし私は、まだ心を許してはいない。
噂が嘘であるなら、なぜそんな噂が生まれたのか。
ルシアは果たして天性の純朴さなのか。
それとも"演じている”のか。
(人は、見た目や仕草だけでは推し量れない。一時の甘い感情に流されるほど、私は愚かではない)
私はそう自分に言い聞かせ、目を閉じる。
「…………」
(……本当に、噂の悪女なのか?あの純朴そうな、世間知らずを絵に描いたような少女が?)
どうしても考えてしまう。
思わず助けに走った自分。
距離を詰めすぎてしまった自分。
あの時見た、金の瞳の揺らぎ。
どう考えても、ただの政略相手に向ける態度ではなかった。
(まさかこの私が惹かれている?今までどんな女性にも一線を引いて接してきた私が?)
『騙されるな。この女も私の地位や財産が目当てだ。いずれ裏切る。心を許すな。情を挟むな。煩わしいだけだ』
いつの頃からか、そう思っていた。
だが私が心を閉ざそうとするたび、ちらりと覗く隙間から、赤い髪の少女が、金色の瞳の少女が、ひょいと覗き込んでくるような……
妙な感覚だけが残るのだった。
(厄介な女性だな。ルシア・カルミナート……)
そう呟きながらも、エルドの胸はほんの少しだけ、温かく心地よい感覚で揺れていた。
これもう侯爵様落ちかけてるんじゃ?
頑なな侯爵様の心を一瞬でこんなにも溶かすなんて……
最後まで読んで頂きありがとうございました。




