ルシアの印象
ルシアの印象をエルドが語ります。
ルシア・カルミナートという名を初めて聞いた時、エルドは顔も見ぬ婚約者に対し、一つの期待と一つの警戒を抱いた。
ーー悪女だという噂。
冷酷で、わがままで、侍女を泣かせる日常だとか。
派手好きで、男を惑わせ、他の令嬢からは恐れられているだとか。
(ならば利用価値はある。誰より強かであれば、こちらの意図にも気づくだろうが……それで構わない。情を挟まず政治の駒となるのなら)
エルドにとって"婚姻"とは政治そのものだった。
互いに利を共有できる相手ならそれで良かった。
愛情も憧れも不要。
むしろないほうが都合がいい。
ーーだが、初めて対面した少女は。
(なんだ?このオドオドした態度は?噂の"悪女"とは違い、ソワソワして落ち着かなくて……妙に気を揉ませる)
むしろ、可愛いらしい……?
幼い顔にはおよそ似合わない真っ赤なけばけばしいドレスを着て、不思議なことを言って立ち上がったかと思うと……
『あっ!えっ!はっ!?いや、これは違うんです。ちょっとドレスの裾が気になっちゃって……』
一目でわかる嘘をつきながら真っ赤になって俯く。一体何がしたいんだこの子は……そう思うと笑いが込み上げてきた。
「…………」
何より私の目を引いたのは、真っ赤になって俯いたその様子と、美しい赤色の髪と金色の瞳だった。
(太陽の光……か、私とはまるで違う。それにこの真っ赤な髪……不思議と、どこか懐かしい)
噂のような悪辣さはこの少女からは微塵も感じない。
むしろ、自分の前であたふたと視線を逸らす姿は子鹿のようで、慎ましく、警戒よりも守ってやりたい衝動の方が先に立つ。
(は……?守る?私が?誰に対しても心を開くことのなかった私が……初めて会ったこの少女を守りたいだと?)
……酔ってしまったのか?エルド・グレイシアード。この婚約も所詮政治。女などお飾り。
無意識に心が傾くのを自覚し、エルドは無理矢理思考を断ち切った。
エルドはどうやら愛とか恋とか信じないタイプのようですね。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




