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侯爵様の悪役令嬢(自称)  作者: 杉野みそら
第六章

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お嬢様は今日も恋に気付かない!〜クリスマス番外編〜後編

 結果から言おう。

 私は今、自室のソファに座り、膝の上にルシアを乗せた状態で暖炉の前にいる。


「……なぜこうなった」


「寒いからですわ!」


 ルシアはきっぱりと言い切った。


「クリスマスは寒い日に大切な人と寄り添うものだと、本に書いてありました!」


(また本か……)


 しかも、彼女は一切の邪念がない顔で、私のマントの中にすっぽり収まっている。


「ほら、あったかいですわね侯爵様」


「…………」


 あたたかい。

 物理的にも、精神的にも。いや、物理的には暖かくてもあまり良くない状況だ。


「ルシア、少し体を離して話をしないか?このままでは色々とまずいから……」


「だめです!」


 私は頭を抱えた。ルシアは金色の目をキラキラと輝かせていた。この瞳で見つめられると、もう私は頷く他はないのだ。


「今日は特別な日ですもの。少しくらい羽目を外してもよい日なんですわ!」


 いや、聞いたことがないが??クリスマスってそんな日だったっけ?


 私がイメージしていたクリスマスは、家族で暖炉を囲んで子供たちに贈り物をあげて、クリスマス用にデコレーションされたケーキを食べる日だと思っていたが……


(一体誰がそんな教育を?)


 私は視線だけでフウカを探したが、彼女はすでに「関与しない」と決めた顔で部屋の隅に立っていた。 


 アキラに至っては、暖炉に背を向けて肩を震わせていた。あいつめ。このエルドの何もできない状況を絶対に楽しんでいるな!役立たずが!


「それで、侯爵様。クリスマスの贈り物は何がよろしいですか?」


 ルシアが無邪気に尋ねる。


「贈り物?」


「はい!欲しいものを言う日ですわ!」


 ーーまずい。ここで馬鹿正直に「休息が欲しい」だとか言ってみろ。たちまちルシアが暴走して、「それはいけませんわ!」とか言って寝台に私を無理やり押し付けるに違いない。


 ……慎重に言葉を選ばなくては。


「……君が喜ぶものであれば、何でも」


「えっ!?私の喜ぶもの?それが侯爵様の欲しいものなんですか??えー、私は何が欲しいのかしら??」


 ルシアは少し考え込んでから昔の漫画みたいにぽん、と手を打った。


「では!」 


 期待に満ちた瞳が、まっすぐこちらを見る。


「一緒にケーキを食べてください!」


 意外な答えに目を瞬いた。


「……それだけでいいのか?」


「はい!」


 ……胸が締め付けられた。やることは大胆で積極的なのに、望むものは妙に子どもっぽい。


(本当にこの子は……おもしれー女だ)


 私は思わず、彼女の頭に手を伸ばしていた。


「そういうことなら、いくらでも」


 するとルシアは、なぜか急に顔を赤くする。


「こ、候爵様……//今日は距離が近いですわ//」


 ルシアの言葉に思わず吹き出してしまう。今まで散々距離を縮めて来たのはルシアの方なのに。


「……それを君が言うか!」


 * * *


 すっかり夜になり、一緒にケーキを食べた頃にはルシアは眠気に負け、私の肩にもたれたまま、すやすやと寝息を立てて眠ってしまっていた。


(結局、特別なことは何もせず終わったな)


【今日は特別な日ですもの。少しくらい羽目を外してもよい日なんですわ!】


 私は先程のルシアの言葉を思い出して笑ってしまった。


 ーーいや。そうでもないか……


 この距離、この温度、ルシアを抱きしめているという安心感。

 今まで祝祭といえば仕事だった私にとっては、これ以上ない贈り物だった。


「……来年も、こうして過ごせたらいいな。ルシア……」


 小さく呟くと、彼女が寝返りを打ちさらに密着してきた。


 窓の外を見ると、白い花のような雪がちらほら舞っていた。


(……雪か。ルシアが見たら、さぞ喜ぶだろうな)


 私はあえて腕の中の小さなぬくもりを起こさなかった。

 私の胸の上で安らかに寝息をたてているルシアが、この上なく幸せそうな寝顔をしていたからだ。


(……可愛い寝顔だな。私の気も知らないで)


 苦笑しそう心でつぶやきながら、私は暖炉の火を少しだけ強くした。

思いがけず長くなってしまいましたすみません。

特別なことは何もしなくていい。それにまだルシア様は恋にも気付いてないですからね!二人の微笑ましいやりとりに、ほっこりしていただければ嬉しいです。


メリークリスマス♪


皆様も穏やかな夜をお過ごしください。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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