お嬢様は今日も恋に気付かない!〜クリスマス番外編〜後編
結果から言おう。
私は今、自室のソファに座り、膝の上にルシアを乗せた状態で暖炉の前にいる。
「……なぜこうなった」
「寒いからですわ!」
ルシアはきっぱりと言い切った。
「クリスマスは寒い日に大切な人と寄り添うものだと、本に書いてありました!」
(また本か……)
しかも、彼女は一切の邪念がない顔で、私のマントの中にすっぽり収まっている。
「ほら、あったかいですわね侯爵様」
「…………」
あたたかい。
物理的にも、精神的にも。いや、物理的には暖かくてもあまり良くない状況だ。
「ルシア、少し体を離して話をしないか?このままでは色々とまずいから……」
「だめです!」
私は頭を抱えた。ルシアは金色の目をキラキラと輝かせていた。この瞳で見つめられると、もう私は頷く他はないのだ。
「今日は特別な日ですもの。少しくらい羽目を外してもよい日なんですわ!」
いや、聞いたことがないが??クリスマスってそんな日だったっけ?
私がイメージしていたクリスマスは、家族で暖炉を囲んで子供たちに贈り物をあげて、クリスマス用にデコレーションされたケーキを食べる日だと思っていたが……
(一体誰がそんな教育を?)
私は視線だけでフウカを探したが、彼女はすでに「関与しない」と決めた顔で部屋の隅に立っていた。
アキラに至っては、暖炉に背を向けて肩を震わせていた。あいつめ。このエルドの何もできない状況を絶対に楽しんでいるな!役立たずが!
「それで、侯爵様。クリスマスの贈り物は何がよろしいですか?」
ルシアが無邪気に尋ねる。
「贈り物?」
「はい!欲しいものを言う日ですわ!」
ーーまずい。ここで馬鹿正直に「休息が欲しい」だとか言ってみろ。たちまちルシアが暴走して、「それはいけませんわ!」とか言って寝台に私を無理やり押し付けるに違いない。
……慎重に言葉を選ばなくては。
「……君が喜ぶものであれば、何でも」
「えっ!?私の喜ぶもの?それが侯爵様の欲しいものなんですか??えー、私は何が欲しいのかしら??」
ルシアは少し考え込んでから昔の漫画みたいにぽん、と手を打った。
「では!」
期待に満ちた瞳が、まっすぐこちらを見る。
「一緒にケーキを食べてください!」
意外な答えに目を瞬いた。
「……それだけでいいのか?」
「はい!」
……胸が締め付けられた。やることは大胆で積極的なのに、望むものは妙に子どもっぽい。
(本当にこの子は……おもしれー女だ)
私は思わず、彼女の頭に手を伸ばしていた。
「そういうことなら、いくらでも」
するとルシアは、なぜか急に顔を赤くする。
「こ、候爵様……//今日は距離が近いですわ//」
ルシアの言葉に思わず吹き出してしまう。今まで散々距離を縮めて来たのはルシアの方なのに。
「……それを君が言うか!」
* * *
すっかり夜になり、一緒にケーキを食べた頃にはルシアは眠気に負け、私の肩にもたれたまま、すやすやと寝息を立てて眠ってしまっていた。
(結局、特別なことは何もせず終わったな)
【今日は特別な日ですもの。少しくらい羽目を外してもよい日なんですわ!】
私は先程のルシアの言葉を思い出して笑ってしまった。
ーーいや。そうでもないか……
この距離、この温度、ルシアを抱きしめているという安心感。
今まで祝祭といえば仕事だった私にとっては、これ以上ない贈り物だった。
「……来年も、こうして過ごせたらいいな。ルシア……」
小さく呟くと、彼女が寝返りを打ちさらに密着してきた。
窓の外を見ると、白い花のような雪がちらほら舞っていた。
(……雪か。ルシアが見たら、さぞ喜ぶだろうな)
私はあえて腕の中の小さなぬくもりを起こさなかった。
私の胸の上で安らかに寝息をたてているルシアが、この上なく幸せそうな寝顔をしていたからだ。
(……可愛い寝顔だな。私の気も知らないで)
苦笑しそう心でつぶやきながら、私は暖炉の火を少しだけ強くした。
思いがけず長くなってしまいましたすみません。
特別なことは何もしなくていい。それにまだルシア様は恋にも気付いてないですからね!二人の微笑ましいやりとりに、ほっこりしていただければ嬉しいです。
メリークリスマス♪
皆様も穏やかな夜をお過ごしください。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




