95.鈍足なアサシン。
「知られた以上帰すわけにはいかないわね(ニコッ)」
「いや、俺達はただ待っているだけで...」
「彼女には会えないわよ」
「それって...」
ブルーは捕まってしまったというのか...
それとももう...嫌な予感しかしなかったが
とりあえず今は
「逃げるぞカレンッ!」
掛け声と共に身を翻して走ったが
俺は背中に肘打ちをくらってしまい
そのまま戦闘を余儀なくされた。
キィン...ガシンッ...ジリジリ...
やりづらい。
相手の武器もそうだし
アサシンを相手に剣では分が悪い。
それに生身の人間を斬りつけるなんて...
カレンが“旋風”で引き離してくれた隙に
もう一度逃走を試みる。
「待ちなさいっ!(ハアハア...)」
思いのほか鈍足なアサシン。
息を切らして一生懸命ついてくるけど
今なら歩いても余裕で逃げられそうだ。
ブルーを探して建物の入り口へと向かう。
苦しそうに追いかけてくるアサシン。
「に...逃さないわ...(ゼエゼエ)」
ピピィー!スタタタタタッ.....
女が笛のようなものを吹くと
どこからか黒服の強そうな人達が現れて
俺とカレンは為す術なく捕まってしまった。
コレはヤバい。
「なにをやってるのエレイン?」
「中へ入っていなさいフローリア!」
(.........フローリア!?)
煌めく金髪に白い肌
青空のように透き通るブルーアイ。
そして並々ならぬオーラ...間違いないっ!!
ぐふぅっ.....
一瞬目が合った気がしたが
俺を捕まえていた黒服に羽交い締めにされ
地面に突っ伏した。
(苦しい...意識が遠のいていく...)
「あなたは何も見ていないし聞いてもいない」
「後で全部消してもらいましょうね?」
パカッ!
暗い部屋の真ん中にテーブルとスタンドライト。
気付くと椅子に座らされていた。
(カレンはどこだ...それにブルーも...)
悪い夢でも見ていたのか。
いや、良い夢だった気もするな...
カチャ...
扉が開いてあのアサシン女が現れた。
今度は眼鏡をかけているけれど
よく見ると美人だな。
...なんて言っている場合ではない。
どうやら夢ではなさそうだ。
「怖がらなくてもいいのよ?」
「記憶は特別に消さないであげるんだから」
「コレをよく読んでからサインして」
ススゥ...ペラペラ
数枚の書類を提示された。
俺は慎重にその内容を精査する。
この事を口外しない、写真は撮らない
ネットに載せないなど様々で
すべての項目にチェックさせられたけれど
違反した場合の賠償金の桁には驚いた。
一生奴隷として働いても払える額ではない。
「はい、これで全部終わったわ」
「約束はくれぐれも破らないように...ね?」
耳元でそう忠告された。
(コワイけどエロい...エロいけどコワイ...)
魔性のアサシンは俺を部屋の外へと解放して
別の部屋へと連れて行く。
コンコン...カチャ...
「終わったわよ」
「あ、お帰りレオ。遅かったね〜!」
なぜかトランプを楽しんでいるカレン。
それにブルーも無事な様子だ。
奥にもう一人いるのは...
バサッ!
持ち札を放り出して少女が駆け寄る。
「初めまして!でもさっき目が合ったよね?」
「カレンから色々聞いたの。よろしくねレオ君っ!」
ギュッと両手で握手をされる。
眩しすぎる笑顔...そして花の香りがフワッと漂う。
「よかったわねレオナルド」
ブルーの知人で花を咲かせる精霊というのが
まさかあの“フローリア”だったなんて...
緊張し過ぎて頭が真っ白になる。
「ちゃんと友達が来るって伝えたのに...」
「エレインはお仕事のことしか頭にないんだから」
「それは何度も謝ったでしょう」
なんだか親子の会話みたいだけど
このエレインという女性は彼女のマネージャーで
そもそものアイドルという存在を考えた凄い人。
歌って踊るとかよく考えたな。
「いえ...まあ、違う国の文化というか...」
「フローリアより先にアイドルっていたの?」
最高機密事項だからと詳細は教えてくれなかったが
ほかにもアイドルは存在しているらしい。
世界広いな。
「レオ君のアドレス登録したから」
「このアリシアって名前が裏アカだからね!」
有名人は大抵裏アカを使っている。
オフショット写真もたくさん載せていて
仕事の時と違う表情や変顔の写真まであった。
「さっき契約した守秘義務、忘れてないわよね?」
「.........はい。覚えてます」
エレインに笑顔でグサッと釘を刺されたから
このことはイトにもウォルターにも秘密である。
守秘義務だから仕方がないけれど
ファンの一線を超えてしまった気がした。
「はやく続きやろーよー」
「ごめんなさいカレン。レオ君も来て」
絶体絶命の状態から一転
推しのアイドルとトランプを引いている。
人生なにがあるかはわからないと言うけれど
俺はこの状況を飲み込めていない。




