94.趣味と実益を兼ねる。
研究所のゲストルームに一泊。
窓辺に来た小鳥のさえずりで目を覚ます。
なんて良い朝なんだろう。
カレンはブルーの部屋に泊まったから
もう一緒に起きている頃だ。
俺も顔を洗いに洗面所へ。
「うわぁ!?.....なにしてるのカレン」
「これすごいんだよぉ!」
顔が緑色の何かで覆われている。
これはブルー特製の野草パックで
お肌がツルスベになるとかなんとからしい。
驚いて変な叫び声を出してしまった。
「ブルーと一緒じゃないの?」
「教授とお仕事してるよ(ふきふき)」
研究室を覗いてもブルーと教授がいない。
俺達がふたりを探して屋外へ出ると
昨日実験で種を蒔いてた庭で話をしている。
「どれも発育不良です教授」
「やはり私の力だけでは限界が...」
実を成らせたミルク豆は全て枯れていて
鞘を割ると白いはずの種子も変色していた。
「おはよう。枯れちゃったの?」
「はい。これは前にもお話ししましたが...」
彼女の能力はあくまで“芽吹かせる”ことであり
花を咲かせたり種を作ることは難しい。
この実験では教授がミルク豆の種を
“遺伝子組み換え”という怪しい技術を使って
花と実の成長速度を上げる効果を調べていた。
しかし結果はこの有様だ。
「まあ、錬金術のようなものだから」
「上手くいく方がどうかしてると思うよ」
それでも何度か実験を重ねて
形だけの実を成らすことには成功した。
教授はこの研究を発表するつもりはなくて
興味本位で始めた趣味なのだという。
「そろそろ実益も兼ねて下さい教授」
「趣味では生きていけませんので」
研究には多額の資金が必要で
関係各所から補助金が交付されているが
目立った成果を上げなければ当然打ち切られる。
とてもシビアな世界だ。
チリン...「時間です教授!」
それを聞いて研究室へと戻っていく。
俺とカレンもその後を追ったが
部屋の中には目を疑う光景が広がっていた。
それにうめき声がするような...
「レ...レオ...ナ...動けな...(ギシギシ)」
「クライフさん!?」
部屋はジャングルのように蔦で覆われ
端末から棚からクライフさんまでも飲み込んで
触手をぐんぐんと伸ばし続けている。
「少し調子に乗り過ぎたようね」
ブルーは格好いい感じの決め台詞を言い放つと
その蔦を片手でグイッと掴んだ。
すると絡まっていた植物は次第に枯れ落ちて
クライフさんも無事に救出。
「はぁぁ...助かったよ。急に襲われたんだ」
「教授、残念ながら失敗です」
成長の早いツル科の野生植物と
ミルク豆を掛け合わせたハイブリッドミルク豆。
しかし試験管の中から飛び出すようでは
実用化は難しいだろう。
「いやぁ、良い実験結果が得られたよ」
こんな研究を日々しているらしい。
オタクの興味本位は一歩間違えると大惨事だ。
休憩室で雑談しながら朝食を食べる。
クライフさんは本当に勉強熱心な人で
教授と薬草学についての話で盛り上がると
そのまま珈琲を持って研究室へと消えていった。
興味のない俺達は暇を持て余している。
「出かけるので支度をしてください」
「どこに行くのブルー?」「まだ秘密です」
行き先は教えてくれなかったけれど
とりあえず身支度を整えて玄関先で彼女を待つ。
ザッ...ザッ...「さあ行きましょうか」
ブルーは重い大きなリュックを軽々と背負い
森のさらに奥へと俺達を案内した。
テクテクテク...(結構歩くなぁ)
一時間ほど歩かされたが
右に曲がったり左に曲がったりで
かなり複雑な道程だった。
本当にたどり着くのだろうか...
「人目につかない場所を選んでいるのよ」
「どういうこと?」「すぐにわかるわ」
秘密と言って何も教えてくれないブルー。
さらに歩いて木立ちを抜けると
なだらかな広い丘が現れた。
建物はもちろん木も草も花も何一つないが
ここが目的地なのだとか。
カチカチカチ...
ブルーが腕につけた端末で誰かに連絡すると
何もない空間に霧がかかって門が現れた。
中へ足を踏み入れると景色はガラリと一変し
大きな建物と広い庭には美しい花々が咲いている。
(結界が張られていたんだな...)
「私は挨拶してくるから適当に待っていて」
俺とカレンは花畑をしばし散策。
隠さないと観光名所になってしまいそうだ。
だから結界を...
ザザッ...「止まりなさい」
その落ち着いた声に俺は殺気を感じた。
役人のような服を着ている女。
両手には剣の付いた籠手を装備していて
一瞬で暗殺者的な何かだと理解した。




