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44.ジビエのミートパイ。

実家までの道程は長い。

まずは鉄道に揺られて三時間。

そこから馬車で二時間と徒歩で三十分森を歩く。

長い休みが無いと中々帰る気になれない。


カレンは鉄道に乗るのも初めてだといい

窓の外を眺めてはキャッキャとはしゃいでいる。


「みてー!ボンゴリの群れがいるー!」

「この辺りは放牧してるからね」


一昔前は石炭で走っていた鉄道も

今では魔力を使っているから乗り心地はとても良い。


「あー!ヒクイトリが戦ってるよー」

「はいはい。...えっ?ヒクイトリ!?」


名前に“ヒ”って付いているけど水属性の魔獣。

炎を飲み込んでしまうからその名が付いたらしいが

必殺技は鬼キック。


「綺麗だしカッコいいね。思ってたより凄く大きい」

「ヒクイトリはおいしいのかなぁ〜?」


いや、アイツの射程圏内まで近づいてはいけない。

喧嘩を売ると速攻で返り討ちに遭い

ミンチにされるのだと某百科事典に載っていた。

慌てず騒がず立ち去るのが懸命だ。


俺は到着まで少し眠ろうと思っていたけれど

結局カレンのサファリガイドとして付き合わされた。


「到着ぅ〜!レオ、なんか疲れてる?」

「...いや、大丈夫」


次は路線馬車に乗って“森の手前公園”で下車。

その後はただひたすらに森の中を歩く。

真っ直ぐずっと歩けば...

歩けば...歩け...駄目だ。もう歩けない。


「ちょっと休もうか...」


へたれこんだ。

だって荷物が多いんだもん。


「あそこに家があるよー?行ってみる?」

(本当だ...家なんてあったかな)


近付いてみると家ではなく、お洒落なカフェだった。

ギィ...チャリン...チャリン...


「いらっしゃいま...あ、レオナルド」

「.....ん?えぇと...(この美人誰だっけ...)」


「ヒドイなぁ...こうしたら分かる?」


長い髪を手で後ろに纏めて隠す。

あ、こいつは...


「リリィーだっ!」

「もう。最初から気付いてよね」


すっかり女性らしくなってて気付かなかった。

幼馴染のリリィー。といっても二つ年上。


「上級院は?まだ卒業じゃなかったよね」

「実は...辞めちゃった(テヘ)」


俺の絶句する顔を見て笑う彼女。

中退は悪い冗談。今は休みの期間でバイト中らしい。


頭が良くて運動神経も抜群。

俺と違って偏りもなく優秀な彼女は

冒険者ではなく弁護士の道を進もうとしている。


「良かった。ところでこのカフェは何?」

「最近山ブームでしょ。ついにこの辺りにもね」


確かに景色は良いし、時期になると

この山は鮮やかな黄色に染まる。

住んでた俺達には当たり前だけれど

都会の人には珍しいのだろう。


そして女子に人気のカフェを作ったらしい。

小さな村だけど頑張っている。


「じゃあ、モリンゴのパイとお茶。あとは...」

「お肉のメニューとかある?」

「もちろん。それは軽食のメニュー表をみてね」


モリシシ鍋にノグマのステーキ、ピョンの刺身定食...

本格的なジビエ料理ばかりなのですが。

カフェの定義とは一体...


「内装、外装は私のセンスで作ったんだけど」

「おじいちゃんが店主だからメニューは譲らなくて」


なぜカフェにジビエが駄目かを説明しても聞かず

このような結果になったそうなのだが

なぜか“ジビエカフェ”として若者にウケたらしい。

(何が人気になるかわからない時代だな...)


「おいしかったぁ〜」


カレンが注文したのはジビエのミートパイ。

満足そうな顔をしている。


「.....ところでその娘(こ)はだれ?」


小声でリリィーが聞いた。

「そういえば紹介してなかったね。カレンだ」

「カレン・ウェザー。精霊で、俺の相棒だよ」


恥ずかしそうにコクリとお辞儀をする。

マジマジと見過ぎだよリリィー。


「かっわいい〜!最初彼女かと思って焦ったよ」

「精霊さんなんだね。肌白くてきれい〜」


初めて見る精霊に興味津々の様子。

たまらず俺の後ろに避難する。


「ゴメン、可愛いからつい見惚れちゃって」

「私はこの子のお姉さん的な感じだから安心して」


彼女が差し出した手の先をちょっとだけ握り返す。

(また人見知りに戻ったじゃないか...まったく。)

それでもカフェを離れてからの道中では

“またパイを食べに行きたい”と嬉しそうに言っていた。

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