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148.やわらかな感触。

ワラワラワラ...


「ありゃ十年に一度の逸材だぞ...」

「いや、それを言うなら千年に一度だろ」


少し距離を置いた場所から向けられる視線。

ヒソヒソと聞こえてくる話し声の内容からは

悪口を言われている訳ではないのだけれど...


(なんだか...気まずくて顔上げられない)


結果オーライであったが

例の強化魔法的な何かがなかったら

あんなバケモノ倒せやしないのに。


「そんなに謙遜しなくてもいいんじゃない?」

「キミの才能は中々見応えがあったよ」


俺の困り顔を見ては楽しそうにケタケタ笑う男。

ところでコイツ何者...?


「此奴は正真正銘の神の使いであるがー」

「ひぇ...たぁったたたたた」


鞭で男の首を絞め上げるイルジオネ。

説明されなくてもわかるけど

過去に相当な何かがあったのだろう。


「ギ、ギブ...死んじゃ...死なないけどもっ!」

「なら良いではないか(ギュギュゥ)」


(あーこれ完全に楽しんでるわ)

ゴーレムに放った俺の怒りと比べても桁違いで

女神の鉄槌とでも言うべきだろうか。


「たはぁ...ぜぇぜぇ...このパワハラ女神め...」

「何か言うたか?」「ピュフフゥ〜♪ 」


吹けてない口笛で取り繕う神官。

見た目は悪くないけれどチャラいし変態だから

あまり関わらないように気をつけようっと。


「そんな偏見に満ちた目で見ないでほしいな」

「僕は偉い人達の命令で下界(ここ)に来たんだぞっ☆」


ダメだこいつ。

全然真剣味が伝わってこない。

そのやり取りにもギャラリーは興味津々の様子で

いつの間にか周りを囲まれていた。



「そろそろ始めるとしようか」

「記憶を消すんですよね?」「そうだよ」


ファンッ...フォンッ...ファン....フォン...

サァァァァァァァン...


神官の持っていた杖の先が光ると

それを演舞のように何度も宙に振り回した。

まるで神聖な儀式のようだ。


パチパチパチ...


「旅芸人かしら?この辺じゃ見ない踊りね」

「おにいちゃんかっこいい!」


ギャラリーから自然と拍手が起こった。

迫真の舞も凄かったのだけれど

俺が気になるのはこの大きな光の円陣...


(ほう...これが見えるとな)


頭の中に直接語りかけてきたイルジオネ。

振り向くと少し驚くような顔をしていたが

そっと口元に人差し指を添えた。

謎だけど、とりあえず指示に従うことにする。


パチパチパチ...


「いやぁどうもどうも。ありがとう」

「じゃあそろそろ次をー」


杖から光が消えると

今度はブツブツと何か唱え始めた。


「あいつ何やってんだレオナルド?」

「たぶん群衆の記憶を消すんじゃないかな」


ラファエルとそんな会話をしていると

クルッと俺達の方へ振り返った。



「残念...君達もその対象だからね」

「証拠隠滅(パージ)」



ズオン...

フアァァァァァァァァァ!!!!!!


(ま...まぶしくて目がぁぁ)




円陣が神々しく輝いている。

そのまま頭の中が真っ白になって

気付いた時にはフレイア山の入り口にいた。


「ここは...たしか飛空挺に乗って...」

「どうしたレオナルド?」

「俺は平気。ラファエルは大丈夫だった?」


何言ってるんだって顔でキョトンとされた。

少しづつ記憶が蘇ってきたけれど

思い出すまでには個人差があるのだろうか。


「相変わらず鈍いのぅ...」

「余と気象のは女神属性なれど、不思議な奴め」


興味深そうに俺を見るイルジオネ。

ラファエルを含め他の人達は記憶を消去された後に

別の記憶を刷り込まれているらしい。


「上は凄い鉄砲水だったらしいぜ」

「巻き込まれなくて良かったわ」

「目的地を変えるしかなさそうですね...」



俺がゴーレムを倒したことも

それで得た経験値も完全に抹消されている。

いっそ忘れていれば悔しくないのだが

なんだかなぁ...


「レオナルド、ちょっといいですか?」

「まだ御礼を言ってなかったので」


エマは向かい合うと両手を握り

小声で呟くように言った。


「助けてくれてありがとう」

「少し、嬉しかった」





♢木漏れ日が射す林道の脇


「最初私が変なのかと焦りましたよ」


エルフ族のハーフである彼女は

見た目と違いその血筋が濃いのか

俺と同じで特殊な体質なのかは不明だが

一連の記憶が残っていた。


先ほどの“嬉しかった”の意味は


「あの日の彼と同じ目をしていて...」


俺の背中が親父とダブって見えた...と。

昔に戻ったみたいで懐かしいってだけの話であり

他に期待するような意味はなかった。

気を取り直して荷造りを再開する。


「はぁ〜ったくこの浮気者め!(ガシガシ)」

「痛いよラファエル。それに浮気ってなんだよ」

「エマといい感じになってただろお前」

「違うし浮気ってなんのことを...」


全滅してもおかしくない事態だったけれど

記憶が書き換えられたと話したところで

この大人数が同時にでは信じて貰えないだろう。


(まあ仕方がないか...)


剣を握り続けた両手の平には

ゴーレムを斬りつけた時の圧力と

やわらかな肌の感触が鮮明に残っていた。


挿絵(By みてみん)

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