147.偽りの英雄。
真っ二つに切り裂かれたゴーレムの体を
俺はただひたすらに斬りつけていた。
バシュン!バシュン!バシュ!
「レオナルド!レオナルド落ち着けって!」
「聞こえていないのかしら...」
パリンッ!パリンッ!
ゴーレムはやがて光の粒となって消えたが
落ちた魔石やアイテムまで尽く粉砕。
重傷を負ったエマを目の当たりにしたことで
激しい破壊衝動に支配された俺の精神は
為す術もないほどに破綻していた。
「剣を置けってレオナルド!」
「正気を失ってる...」「皆さん離れてください」
一種の催眠状態というものなのだろうか?
うっすらと意識はあるのだけれど
この暴走した身体は命令を受け入れない。
「ウアァァァ!!!オレワァァァァァ!!!!」
「イヤ....イヤダァァァァァァ!!!!」
ガンッ!バンッ!ドガァァァン.....
(真っ暗な暗闇の中を一人で漂っているみたいだ)
(微かにカレンの声が聞こえる気がする...)
ひと通りゴーレムを破壊し終わると
辺りの木々や残った屋台にまで危害を加え始め
手の付けようが無い状態に。
「ウゥ...ァァァ...ウワァァァァ!!!!!」
(だめだ...このままじゃ俺、誰かを傷つける)
その時だった。
ぎゅっと背後から俺を優しく包み込む腕。
「もういいよ。大丈夫、大丈夫だからね」
重傷を負って血塗れのエマがそこにはいた。
そのやさしい手つきに...んぅ?
そのヤラシイ手つきにふと我に帰る。
(コノ感覚ハ...コレハ...ウゥ...チガァァァァァ!!!)
「ウゥダロォォォ!!離れろこの変態っ!(ドガンッ)」
ダンッダンダン.....バタン...
「ぐはぁ...ひ...ひどい...ひどく気持ちいい」
俺が衝動的に渾身の両ひじ打ちを繰り出すと
例の強化魔術をかけた男が仰向けに倒れていた。
会心の一撃を喰らって瀕死の状態ながらも
恍惚とした笑みを浮かべていて...キモい。
「そんな外道を見るような顔をしないでくれ」
「ショック療法ってやつさ(笑顔)」
確かに俺の意識は正常に戻っていた。
身体のどこにも異常はなさそうだけれど
荒れ果てた現場を前に唯々呆然とする。
「.....そうだ、エマが俺のせいで怪我して」
ガサガサガサ...
「ごめんなさいレオナルド。この通り私は無事だ」
「ほら、演技派な僕のサプライズ的な?」
シュウン...スヲン...
杖をひと回しすると男の顔がエマの顔に。
つまり俺のトラウマを利用してゴーレムを...
(あの瞬間から全てが嘘だったと言うのか)
そして暴走状態を元に戻すために
再度エマの姿を装って抱き締めたと言うワケか。
俺の純情を弄んだなんて...許せない...
「そうだレオナルドよ。此奴は昔からこうでの...」
「死ねっ!死ねっ!いますぐにタヒね!」
ドガッ!ドガッ!ドガッ!ドガッ!
「いや、だって僕HPって概念がないから...」
「物理的に駄目なら精神的に破壊してやろうぞ!」
凄みを効かせて男に詰め寄るイルジオネ。
袋叩きにされて痛がる素振りを見せるも
彼が言うようにダメージは受けていない模様。
「僕は神官といって神様の使い魔だからね」
「人で有って人で無し。おまけにひとでなしー」
ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
「って痛覚はちゃんとあるんだからやめ...ぐはぁ...」
イルジオネの高いヒールで何度も踏みつけられ
さすがに苦悶の表情を見せている。
「僕は女神とお年寄りは対象外なんだぞ!」
「そこのエルフ嬢なら喜んで踏まれるけれどもっ」
公然といかがわしいことを言い放つ男。
俺は女神と共にこの変態を縄で縛り上げた。
♢飛空挺の甲板
地上組は全員エマの飛空挺に移動。
神官はマストに括り付けられて
風が吹くたび左右にゆらゆらと揺れている。
ああなんて平和なんだろう。
ビュゥゥゥ〜ゴォォォォ〜
「いやぁぁぁぁ!!」
ラファエルは白魔法で自分を治癒した後
他の負傷者を丁寧に見て回ると
相当疲れたのか座ったまま寝てしまった。
カレンも魔力消費が激しくて就寝中。
俺も少しだけ寝ようかな...
ビュゥゥゥ〜ゴォォォォ〜
「ほっとかないでぇぇぇ!かまってぇぇぇ!!」
高所が苦手とかなんとかで騒ぐ神官。
女神に許すつもりは無いのだが
見兼ねたミッチェルさんが情けをかけた。
「もう解きましょうかイルジオネ」
「...愛しき我がマスターの慈悲に感謝するが良い」
ドタッ...
(いつか葬ってやるぞこのペテン師めがぁ!!)
イルジオネが渋々縄を切ると
恐ろしい声が俺の頭の中に響いた。
あの神官って人は何をしでかしたのだろうか...
「まあ僕のおかげで助かったようなものだから」
「後でちゃんと証拠隠滅させてもらうよ」
「それまでキミは英雄気分を味わうといいさ!」
ゴーレムを倒したのは俺の力ではない。
しかしあの巨体を一刀両断して見せたのだから
その詳細を知らないギャラリーは当然の如く
“勇者だ!英雄だ!” そう言って騒ぎ立てた。




