138.不利な条件。
♢賑わうバーの片隅
コツッ...バシィィィン!!
エマが挑戦者の手を叩きつけるたび
俺達のテーブルには焼きたてのステーキが並ぶ。
「さすがにもう食べられないな...」
「それなら次はデザートにしましょうか」
もう二時間近く待っているのだけれど
店の忙しさと度々現れる挑戦者のおかげで
俺はまだ親父の話を聞けていなかった。
「へへっ...あんたぁやらねぇのか?」
酒に酔った爺さんが絡んできた。
面倒だけれど暇だから適当に話を合わせる。
「まぁやめとけぃ...ひぐぅ...」
「負けたんはたった一度きりなんだぜぇ」
「勇者なんとかってぇ.....んぁ?」
バッ...
勇者と聞いてもしやと思い
カレンの描いてくれた似顔絵を上着から出して
酔っ払いの爺さんに確認してもらう。
「そうこいつだぁ!勇者のクセに女連れてよぉ」
「エマにも手ぇ出しやがった最低な奴だぜ...」
まったくの言われようであるが
爺さんによるとこの賭けの賞品はエマであり
勝ったら好きにしていいという話だ。
(なにやってんだよ親父最低だな...)
「悪口はやめてくださいよ」
「それに彼はただの友人ですから」
デザートを片手に戻ってきたエマ。
戦っていても話は聞こえていたらしく
飲み過ぎだと爺さんをたしなめると
二階の部屋へ追い払ってくれた。
彼は昼間に会ったオーナーの旦那様で
見回りと言ってはタダ酒を飲んで帰るそうだ。
「さっきの話は誤解しないでほしい」
「ユーフラテスは酒に酔っていただけで...」
その日カレンと二人で店を訪れた親父。
ひさしぶりに飲む酒と美味しいつまみに上機嫌で
ついつい飲み過ぎてしまったらしく
「ベロッベロだったよねぇ...」
カレンがドン引きするほどだったらしい。
そしてバンプノックで盛り上がる様子を見て
“面白そうだなっ!俺もやるぞぉ〜”
賭けの内容も知らずに挑戦した結果
無敗の彼女に勝ってしまったのだ。
「約束だから好きにしろと言ったが...」
「あの狼狽えっぷりは酷かったなウェザー」
「そうそう。みんな怒ってたよねぇ」
勝ったのだから責任を取れと怒られ
既婚だと答えたら勇者が不倫してると罵られ
カレンを見て三股かよと騒がれたため...
「私をパーティーに入れることで収めたんだ」
「好きにしていいなら仲間になれって」
そして親父達がここに滞在していた間だけ
エマは行動を共にしたのだという。
なんか...愛人とかじゃなくて本当に良かった。
「そうか...あいつはまだ彷徨っているのか...」
帰ってこない理由。
旅先から投函される手紙や写真。
これらの謎はエマが聞いた話と合致していた。
それにカレンも...
「いつもシュワッって飛ばされちゃうんだよ〜!」
「亜空間に行った時もそんな感じだったなぁ」
親父は空間系の何かを使って脱獄に成功。
その効力は凄まじく呪いのようなものであり
自分が掴んでいるもの以外を残して
世界のどこかへ飛ばされてしまうのだという。
「だから少しの間だけだって」
「私は連れて行ってもらえなかった」
面倒な人生に巻き込みたくないと言い
エマとは二ヶ月程でパーティー登録を解除。
最後に写真を撮ろうとエマが頼んだが例のごとく
「写真は嫌だと譲らなくて...」
「だから彼ともう一度賭けをしたのですよ」
エマが勝ったら写真を撮らせる。
負けたら頬にキスをするという条件。
俺なら迷うことなく全力で勝ちに行くが...
コツッ...バシィィィン!!!
“つぅぁ...手加減しろよなエマ”
“これで一勝一敗ですねユーフラテス”
その翌日に親父とカレンは街から姿を消した。
カレン曰く呪いのタイミングは突然だというから
挨拶は出来なかったらしいけど
思い出として一番見える所に写真は飾られた。
「ちょっとだけ卑怯ですよね」
「勝っても負けても私は良かったので」
滞在中母さんの話はしなかったけれど
薬指に付けた指輪をいつも撫でていたから
エマは親父がワザと負けると踏んだのだ。
しかし負けても良かったとは...?
「ふふっ...もう遅いので店を閉めましょうか」
なぜだか軽くはぐらかされたが
また明日朝食を食べに行くと約束して
俺達はホテルへと戻った。
♢赤レンガの二つ星ホテル
カレンのチェックインを済ませてから
ラファエル達の待つ部屋へ。
「たのしかったぁ。お腹もいっぱいだよ〜」
「食べ過ぎだぞカレン」「太らないから大丈夫!」
ヴ...ヒック...ヒック.....
扉の前まで来ると中から泣き声が...
話し合いが纏まっていないのだろうけれど
これじゃ気まずくて入るに入れない。
カチャ...
「あ、レオナルドおかえりなさい」
扉が開いて現れたのはレイナだ。
じゃあ誰が泣いてるんだよって...えぇ...
「冷静な彼がなぜこんな状況に...」
「ただの泣き上戸だから放っておいていいわ」
ブワァ...っと泣いていたのはミッチェルさん。
しかもなんだかこの部屋酒臭い。
「聞いでぐだざいよぉ〜」
「オレ疲れたからもうねるわ。あと頼むな」
ラファエルはそう言い残すと
ベッドに横になって早々と寝てしまった。




