137.大人の真剣勝負。
♢カフェのカウンター席
「理解が速くて助かるぜエマ」
いかにもヤバそうな男はシャツの袖を捲り上げると
エマの細い手を掴んでテーブルに肘をついた。
この体勢はバンプノックという力比べの一種であり
酒場でよく見かける大人の遊びなのだが...
「女相手にハンデも無いのかよ」
「卑怯にも程があるね」「大丈夫かしら...」
互いに目を合わせてタイミングを計る
肘を上げて再度卓を叩いたら拳を一
コツッ...バァァァンッ!!!
「っでぇ...てがぁぁ...てがぁぁぁ!」
目のよく詰んだウォルナットの硬い天板に
手の甲が勢いよく叩きつけられた。
一瞬の出来事に俺達は呆然としてしまったが
勝利したのは間違いなくエマだ。
「チッ...くそぅ...また来るからなぁ!!」
「行くぞお前らぁっ」「毎度すみませんねぇ」
バンッ!
男は腕を抱えながら悔しそうに出ていったが
連れの男達は謝罪の言葉を口にすると
レジ横の焼菓子をいくつか購入して帰った。
見た目に似合わずとても律儀である。
「弱すぎ...見かけ騙しじゃないあの髭男」
「ちがうよ〜!エマが強いんだよ」
お詫びにとデザートを持ってきてくれたエマ。
とりあえず怪我もなさそうで良かった。
「お騒がせして申し訳ありません」
「昼間は来ないように言っていたのですが...」
彼らとなにやら賭けをしているらしく
普段は夜になると現れる面倒な常連客なのだとか。
試しに軽く力比べをさせてもらったが
本気で倒しにいってもビクとも動かないし
強化魔法なども使ってはいないようだ。
♢宿を探しにカフェを出る
「ではまた後ほどお会いしましょう」
「いってらっしゃいレオ〜」
扉の前で手を振るふたり。
そんなに遠くの宿を取るつもりはないし
偶然の再開で募る話もあるだろうからと思い
カレンを店に残して俺達は表に出た。
煉瓦造りの古い街並み。
来訪者が多いから宿もたくさんあり
金額も上から下まで様々である。
「ダメだ。スイートしか空いてないんだと」
「おそらく我々のせいですね...」
ミッチェルさんが申し訳なさそうに謝る。
乗ってきた船が豪華だったから
噂が回り足元を見られているようなのだ。
ただでさえ絢爛豪華な場違いドレスを着た女神がー
ベシッ!ベシッ!
「余が悪いと言いたげであるなレオナルド」
「いたぁ...痛いって...いでぇ」
思うだけで筒抜けというのは非常に厄介だ。
それはともかく俺達も魔装具を外して
もう少し地味にした方が良さそう。
カラン...
「いらっしゃいませぇ〜(甲高い声)」
若者向けの安い服屋に立ち寄り
普通のファッションに着替えることに。
イルジオネのコーディネートはレイナが担当。
「なかなか可愛いでしょ。どう?」
「余の魅力を感じさせぬが着心地は良好であるぞ」
ロゴの入ったスウェットにブカブカのパンツ...
なんていうか二人とも絶妙に...ダサい。
ダサカワというファッションらしいのだが
女子の流行りは理解が難しい。
「いんじゃね。金はなさそうに見えるし」
♢二つ星の宿屋
服装を変えてからは嘘のように対応が違い
無事に予算内で泊まれる宿が見つかった。
人の第一印象は見た目で決まるとも言われるが
それは間違いなさそう。
「今後の事については朝までに決着をー」
「私は帰らないから」「お嬢様っ!」
ミッチェルさんとレイナは宿で話合い。
ラファエルも仲介役として加わったから
俺は一人でカフェに向かう。
ガヤガヤ...ガヤガヤ...
夜でも大勢の人で賑わう大通り。
電飾がつくと街の雰囲気も違って見える。
カラン...
「いらっしゃいませ。身分証を...」
看板がバーに変わった店の扉を開けると
防犯の為なのか身分証の提示を求められた。
童顔だから慎重に取り調べを受けるも無事入店。
「ねえちゃんグラスビア追加で」
「かしこまりましたぁ〜」
店の制服に着替えて妙に馴染んでいるが
あの金髪はカレンに間違いない。
なにやってるんだ...
「こんばんはエマさん」
「ふふっ...ウェザーが手伝うと聞かなくて」
「ちゃんと対価は支払うのでご安心を」
対価は固辞したが食事と飲み物を出してくれた。
ケイブメリィの骨つきスペアリブは芯まで柔らかく
噛みしめるほどに広がるこの旨み...
「おかえりレオ!私もお肉食べるぅ」
「食料庫を空にしないでくれウェザー」
「すみません迷惑かけたみたいで...」
カレンはすでに数枚平らげていると聞き
申し訳ない気持ちで食欲が一気に減退した。
「冗談ですよ。どれもお客様の奢りですから」
「ほら、また食べられますよウェザー」
顔を上げた彼女の目線の先には
昼間に現れた男と負けず劣らずな体格の紳士が
シャツの袖をまくって立っている。
「今日こそは一緒に帰ろうエマ」
「負けたら彼女にドラゴンステーキを」
「かまわないさ。始めようか」
コンッ...バシィィィンッ!!!
モグモグ...(うまいなこの肉)
親父の話を聞きたかったのだが
勝負が始まるたびに店内は大盛り上がり。
名乗りを上げる客がいなくなるまで
俺とカレンは大人しく肉を食べながら待った。




