136.ただならぬ関係。
♢Euphrates and Goddess
「拭くものをお持ちしました」
「ありがとうエマ。後は私がやるわね」
床にぶちまけた飲み物を拭くオーナーのおばさん。
ハッと我に返り慌ててそれを手伝う。
「.....ったく。どうしたんだよレオナルド」
俺も顔なんて例の手配書でしか覚えていないし
この写真も横顔ではっきりと写っていないのだが
めずらしい名前のユーフラテスで勇者だなんて
偶然としては有り得ないだろう。
(これは...きっと...間違いない.....)
内心俺は焦っていた。
何年も帰ってこない父親と美しい女性。
もしただならぬ何かがあるのだとしたら
俺は母さんにどう説明すればよいのだろうか...
「すごく懐かしいなぁ〜!」
ふいに床を拭く手を止めて顔を上げると
カレンが例の写真の前に立っていた。
「嫌がったのにエマが撮ったんだよねぇ」
「え...ぁ...えぇと...もしかして...」
振り返ってクスクスと笑うと
カウンターの中にいた店員さんに向かって
なぜか写真の女と同じポーズを見せるカレン。
そして絶句するウェイトレス。
「ウェザー... あぁ、ウェザーなのですね!」
何度もハイタッチを交わすふたり。
慌ててもう一度写真の女の顔を確認する。
そしてカレン...女...カレン...女.....
眩く輝く柔らかなブロンドの髪
艶やかな肌と豊かな胸
厚いくちびる...そして名は女神とある。
「ねえカレン...この人が誰か知ってるの?」
「ユウだよ。ユウは勇者でユーフラテスだよっ!」
「隣にいる女の人は.....」「私だよ?」
マジかぁー!!!
という声が俺だけではなく一同からも上がった。
俺以外のは写真とのギャップに対してである。
「エマは少し大きくなったんだね〜」
「そういうウェザーは前より小さいです」
いまの見た目とは色々と違うけれど
ガチャで来た時に一瞬見えた最終形態と瓜二つ。
冒険の旅をしていたとは聞いていたが
その相方がつまりは俺の親父だったというのだ。
「それってすごい奇跡的ねレオナルド」
「でも一緒に母さんちで親父の顔見てたのに...」
一緒に実家へ帰った時に手配書を見た時は
何も言ってなかったと思うのだが...
「だってあんなに怖い顔してないよ〜」
ペリッ...シャカシャカ...ササッ
徐に雑記帳の空いたページを一枚剥がすと
置いてあった鉛筆で似顔絵を描き始めた。
相変わらず早くて上手い。
「はい出来たよ〜」
「あぁ...間違いなくユーフラテスです」
「これが親父の顔...初めて見た...」
その男は真っ直ぐ前を向いて微笑んでいた。
手配書の険しい親父とは雰囲気も違い
優しさの中に力強さも感じられる。
「彼は本当に写真がお嫌いでしたね」
「私が無理に賭けをして降伏させて...ふふっ」
「エマさんは...その...どのようなご関係で」
親しげに親父の話をする彼女は
短い間ではあるものの一緒にパーティーを組み
この先にある洞窟を探索した仲なのだとか。
「エマは本当に強いんだよ〜」
「それは昔の話ですよ」
カレンが旅をしていたのは多分7〜8年前。
写真の劣化具合からしてその辺りだと思うが
どう見ても話とエマの年齢が合わない。
10代に見えるが意外と20代後半のベテランか...
「信じられないでしょうけど娘と同い年なのよ」
「だから今年でもう四十になるわね」
「ち、違いますよ!私はまだ30代であってー」
♢カウンター横の広い席
「まさかあれがアラフォーだなんてな」
「エルフ族は神性が強いゆえ皆若いのだ」
コト...美味しそうなランチが出てきた。
「もうその話はやめてください」
「人間年齢で言ったらまだ子供なんですから」
エルフ族といっても彼女はハーフであり
特徴的な尖った耳ではないけれど
実に見事なロリバ.....ロリエルフである。
(アリかナシかで言ったら断然にアリだ)
「あとで親父の話を聞いてもいいですか?」
「構いませんよ。夜もここで働いているので」
昼間はカフェだけど夜はバーになるらしく
基本的にいつでも店にいるというから
これを食べ終えたら先に宿を探して
暗くなってからカレンと出直すことにしたがー
カラン...バタンッ!!
そんなやり取りをしていると
突然カフェの扉が勢いよく開き
髭面の屈強そうな男が店に入ってきた。
なんだかちょっとこわい。
「おいエマッ!今度こそ薙ぎ倒してやるぜ」
「昼間は来ないでと言いましたよね」
ダンッ!
カウンターの天板を拳で叩くと
脅しのようにエマをギッと睨みつけた。
絡まれている彼女を助けるために
俺は席を立ったのだがー
「手出しは無用ですよお客さん?」
すぐさま数人の男に取り囲まれてしまった。
小さな刃物をチラつかせていて
助けるどころか人質にとられたような状況に。
「どうしてもと言うなら仕方がありませんね」
「理解が速くて助かるぜエマ」
昼間から酒の臭いを漂わせる男達に
彼女はあきれた様子でため息をついた。




