134.褒められたら嬉しい。
「私のせいじゃないんだけどなぁ...」
「キミの信仰心に免じて一度だけだぞ」
あれからレイナは女神マーレイを上手く煽てて
浸水した地下室と船底の穴を直させることに。
女子は怖いもの知らずである。
渋々ながら溜まった海水に口をつけると
スゥっと一気にそれを飲み干した。
ゴクリ...
「ぷはぁ。これでいいのかい海の子?」
「さすが海の女神マーレイね」
「そ...そう言われるとなんだか面映ゆいなぁ」
頬を赤らめて照れ笑いする女神。
少し褒めただけなのにとってもチョロい。
ペシペシンッ!
そんな事を考えながらやり取りを見ていると
隣にいたイルジオネに閉じた扇子の先で叩かれた。
鋼鉄でできているのか地味に痛い。
「頭の中でペラペラ喋るでないぞ」
「お前の声は不思議と良く聞こえるでな」
なぜだか俺の思考は盗み聞きされ易いらしく
マーレイの前では気を付けるようにと忠告された。
胸がカッティングボードだとか冗談でも思ってはー
「まな板がどうかしたのか?」
思ってはいけない。
慌てて言い訳を並べ事なきを得たが
その意味を知っていたなら命は無かっただろう。
でもイルジオネがいる時にも色々と...
「海蛇の恩義も多少はあるでな」
「いずれ苦しまないように逝かせてやろう」
そう言って微笑むイルジオネ。
俺の未来はどうやら詰んでいるようだ。
やだ死にたくない。
♢ダイニングのオープンキッチン
寝ぼけ顔で顔を出したラファエルとガウは
この騒ぎでも起きずに爆睡していたのだとか。
羨ましい性格である。
「またバナーヌ売りが来てるのかよ」
「.....ったく。懲りない連中だな」
寝ぼけているせいなのか
行商船のメンバーだと勘違いしているようで
本物の女神を前にしてノーリアクション。
ソファーで横になり二度寝を始めた。
「なんだよアイツ!感じわるぅ〜」
「好きな子に嫌がらせするタイプなのよ」
「そ...そうなのか。それでか...」
そんな事はないのだが。
まあとりあえず船も無事に直ったことだし
みんなお腹を空かせているだろうから
昼食は簡単にサンドウィッチでも作ろう。
「苦手な食べ物とかは?」
「そうだなぁ...さすがに獣肉は食わないぞ」
「酸っぱいのも辛いのもナシだ」
内容的にたまごサンドなら問題なさそう。
釣れすぎた魚で作ってみた燻製も青菜と一緒に
少し薄めにスライスしたバゲットではさむ。
「むぅ...お前ほんとヤバイくらい臭うな」
「そんなんじゃ女神になれないぞ」
海にいるマーレイには獣臭は相当鼻に付くようで
カレンに肉食は悪だと説教を垂れる。
女神の手前、獣肉は我慢してもらうしかない。
「余には肉も魚も臭うで大差無いがな...」
「魚はいいんだよ!美味しいだろっ!」
海の恵みだから魚は大好物なのだとか。
あとは海藻とか貝類も。
「でもこれが一番好きなんだぁ〜(はむっ)」
まな板の上に残ったバゲッドの端切れを
ポイッと口の中へ放り込んだ。
「海にはない味わいだぁ」
「テーブルに運ぶから席にどうぞ」
貢ぎ物のパンを毎朝食べているという女神だが
それは魚にあげている残飯...だと思う。
知らぬがなんとかってやつだ。
♢食後のひととき
「聞きたいことの一つや二つあるだろう」
「なんでも答えてやるから聞いてくれ」
小腹が満たされて上機嫌になったのか
ただ構って欲しいだけなのか
海の女神マーレイの質問コーナーが始まった。
「それではガチャと災悪日との関係についてー」
「おっと、その話題については却下」
ミッチェルさんの質問は速攻で却下された。
なんでも答えるって言ってたのに...
「正直なところ詳しくないんだよね」
「アレがどうしたいのかなんて理解できないよ」
アレとは恐らく“あの人”の事だろう。
天界でもトップシークレットが敷かれていて
女神でさえ仕組みはわからないそうだ。
「んふふ...私が特別に回してやろうか」
「本当かよっ!レア待ったなしだぜきっと」
気怠そうに寝ていたラファエルが跳び起きた。
彼女の幸運値は半端ないだろうから
この申し出を断る理由などある筈もなく
「海の子、お前はどうするんだ?」
「私はやめておくわ」「そうか...まあいいや」
石をマーレイに預け各自召喚陣を開くと
彼女が投げるのを大人しく待った。
「あとで後悔しますよお嬢様」
「それはどうかしらね」
余裕の笑顔で見物するレイナ。
(素直じゃないんだから...)
“Grand Challenge System Assign”
「おぉ!これがガチャというものか」
「なんだかワクワクするな〜」
ポイッ...シュゥン...シュンシュンシュン
器用にも三つの召喚陣へ同時に石を投げると
それらは渦を巻いて部屋中に砕け散った。
シュパァァァァァン!!!
ボワン... “木の盾”
ボワン... “初心者の証”
ボワン... “目覚ましのベル”
「あはは!そんな日もあるさぁ」
「じゃあこれで私は失礼するからね」
とうっ!バシャン...
(.........逃げたぁ!?)
そう言い残すと窓から外に出て
勢いよく海の中に飛び込んだマーレイ。
残念な結果に肩を落とす三人。
“頼んだよ海の子!愛しい我が子よ”
“君達の旅が美しい想い出になるように”
白い大きな鯨が潮をあげながら去っていく。
船の側面には女神マーレイのサインと
先程のガチャに対する懺悔の言葉が残されていた。




