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133.女神は愛されたい。

♢船室前の廊下


耳を澄ませるイルジオネとカレン。

そこへミッチェルさんがやってきたが

今日は地下室に降りていないのだという。


「さっきも音がしてたけど...」


まさかのゴーストという可能性もあるが

見回りをしてもそれらしい姿はなさそうだし

音は船底から聞こえるような...


「一体何の騒ぎなの?」

「変なものが付いてきているみたいで...」


様子を見にきたレイナに事情を話すと

船を止めるために操舵室へ戻った。


「これは魔物や魔獣といった類いではないぞ」

「もっと邪悪なモノであるゆえ...」


さっきからなぜか表情が怖い

何か知っているような口振りで目線を上げると

闇魔法と思われる黒い槍状の物体を創り出し

低い天井に振り上げた。


「待ってくださいイルジオネ」

「積年の怨み...いま晴らしてくれようぞっ!」


「暗黒物質(ダークマターキ)処刑槍(ルスピア)」


ズダァァァァァァン!!!


止める間もなく床に突き刺した。

そして地下室に勢いよく海水が流入。

慌てて塞ぐがその横で二発目の槍が準備され...


「くたばれ性(ダークマター)悪女めがっ!(キルスピア)」


ズダダダァァァァァァン!!!


やばい感じで浸水しているがそれを気にも留めずに

船底のナニかを追いかけて船上に飛び出した。

緊急時補修キットで穴はどうにか塞いだけれど

地下室は腰まで海水が溜まっている。

どうするんだよこれ...


「とりあえず後を追いましょう」


このままだと被害が拡大しかねないから

俺達も慌てて甲板へと向かう。

上から色々なNGワードが聞こえてくるのだが...


カシャン...ギギィ...


「出てこい!串刺しにしてくれるわっ!」

「・・・・・・・」


海面に向かって罵声を浴びせる女神は

怒りに我を失っている状態で

いつも漂っている気品は感じられない。


(.....女神というより怖い魔女)


「アハッ! それ的確すぎて笑える」

「人間にしてはセンスが良いじゃないか」


振り返ったイルジオネにギッと睨まれた。

しかし今の声は彼女ではないし

俺の背後から聞こえてきたけれど.....ひゃぁ!?


ズァンッ!!! シュゥゥ...


物騒な名前の魔法槍が俺めがけて飛んできたが

鼻の先で回転を続けながら留まり

白くて細い指がそれをピンッと弾き返す。


「もうっ!駄目だよ私の人間(オモチャ)なんだからぁ〜」


いつのまにか見知らぬ美女が立っていた。

俺は咄嗟に離れたが、この神々しいオーラは

間違いなくそっち系の何かである。


「海の藻屑となるがよいぞっ」

「無駄だよ。私はこの海(わたし)のものだからね」


イルジオネは舌打ちをして

苦虫を噛み潰したような顔で悔しがる。


この海の女神様は間違いなく現役(本物)であり

女神級精霊とは比べ物にならないほど強い。

もし下手に怒らせたりしたら

蟻を潰す程度のノリで軽く殺されるだろう...

やだ死にたくない。


「こう見えて善良な女神なんだよ?」

「己のどこをどう解釈したら善良だと言うのだ!」

「まだ怒っているんだね...(グスン)」


ミッチェルさんがその場をどうにか収めて

とりあえず“善良な女神”から話を聞くことに。



♢空調の効いた操舵室


ミッチェルさんが淹れた珈琲を飲みながら

俺達は事情聴取を始めた。


「これはそもそも論なんだぞ!」


始まりは遡ること5年以上前の出来事...

イルジオネが天界から堕とされて

たどり着いた小さな孤島。

そこは女神信仰の深いエルフ族が住んでいたため

彼女は当然ながら崇拝された。


「どう考えても間違いだろ?」

「崇(あが)められてたのは私一人だったのにさっ!」


この辺り一帯は海の女神マーレイの領地で

天界から与えられた彼女の身体。


イルジオネはただの女神級ならまだしも

降格して来た元女神だったから

テリトリーを荒らされる前に海蛇をけしかけて

まるっと胃袋に封印したのだ。


「だってお前が来てからお供え物は減るしさ」

「その大きさなのも納得いかない!」


悔しそうにそう言ったのは胸の話だ。

たしかにちっぱ...お手頃なサイズである。



そして“災悪の日”もこの女神の仕業であり

逆波を立てるのも魔物が出るのも


“海に投げ込まれるお供え物が沢山貰えるから”


ただそれだけの理由だったらしい。

本人的には悪意のないイタズラ程度の話。


「いっぱいいっぱいくれるだろう?」

「嬉しくてついついヤリ過ぎちゃうんだ」


「ほれ。余の言った通り邪悪な女神ではないか」


謝るどころか笑い話のように語る海の女神だが

レイナはシーラルを代表して

毎日欠かさず貢ぎ物を捧げるかわりに

災悪をなくすことで交渉は成立した。


「これからはちゃんと信仰するわ」

「話がわかるじゃないか!さすが海の子は違うな」


イルジオネはまだ不満そうだけれど

ミッチェルさんにも慰められて

この件に関しては一応不問とすることに。


「その気持ち解らぬでもないゆえな」


信仰されなくなった女神は神とは呼べない。

女神にとって存在を忘れられることは

耐えられないほど寂しくて辛いものであり

やがて誰にも愛されなくなれば

その身体は消滅してしまうのだという。

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