132.好きな物は我慢しない。
♢翌朝の食卓
(いい朝だな...)
出費は痛かったけれど食材は揃ったから
今朝は久しぶりに生野菜のサラダが食卓に並ぶ。
それとカリカリに焼いたベーコンも。
「俺のも半分食べていいよ」
「やったぁ〜!ありがとうレオ」
この偏食嗜好については大概驚かれるのだけれど
イルジオネはカレンの肉食について
特に怪訝な表情もみせないし
少しだけだけど自身も肉を食べるようだ。
「菜食主義な女神は多いが余は摂生などせぬ」
「好きなものを食して何が悪いというのだ」
俺の考えていることを見透かしたのか
パタパタのパテをパンにひと塗りして頬張る女神。
まあ、彼女の見た目のイメージとしては
血をワインとか言って飲み干しそうな感じだから
肉を食べたところで然程驚きはないけれど。
「飲まぬわっ!お前は余を何だと思うておる」
(..........マインドリーディングッ!!)
♢穏やかな海と喧騒
朝食を食べ終えたあとは洗濯物を干しに外へ。
今日も穏やかな海と照りつける太陽...
そして耳を劈くような声がするのは何故だろう。
「呼ばれて飛び出るサニーちゃんですのだっ!」
遠くには見覚えのある行商の船が一隻。
朝から騒々しさ全開のコイツは
そこから手漕ぎのボートでやって来たらしい。
「さて、サニーちゃんは何故に現れたのかっ!」
「へえなんでだろうわからないやー(棒読み)」
ただでさえ暑いのに暑苦しさが増した気がする。
そういえば晴天の精霊とか言ってたし。
「そこなんで棒読みしてるですか!」
どうせ何か押し売りに来たのだろうから
構わずに洗濯物を紐に吊るす。
カレンに頼んで乾かしてもいいのだけれど
晴れてる時は天日干しにかぎる。
「もっと興味を示すのですよぉ!!」
「はいはい、アメちゃんあげるから帰ろうか」
飴をもらって大人しく引き下がったかと思いきや
ボートから大きな袋を抱えて戻ってきた。
「今日は自慢のバナーヌを献上しに来たのだ!」
「献上ってことはタダでくれるってこと?」
「お前にじゃないのだ...(チラリ)」
目線はカレンの方を向いている。
これで昨日の失態をチャラにって公算なのは
言わずとも理解できるのだけれど...
「すっごく甘くて美味しいのですよ!」
「そっかぁ...でも甘いものは好きじゃないんだ」
正直なカレンの一言にひどく落ち込む精霊。
じゃあ何が好きなのかとしつこく聞いてくるが
後輩の手前まさか肉が好きだとは答え辛いから
笑って誤魔化している。
「此奴は肉が好物らしいぞ」
「ひどいよぉ〜」「事実であろう?」
それをイルジオネが嬉しそうにバラすと
かなりドン引いたサニーちゃんは
大量のバナーヌを持って母船へと引き返したが
暫くして小さな包を手に戻ってきた。
「これは貴重なリッパーの塩漬け肉なのだ...」
今度は大喜びで受け取ったカレン。
ボスの晩酌用だからバレたら殺されるのだ!
とかなんとか言っていたが大丈夫なのだろうか...
でも美味しそう。
「これにて失礼するですよ」
それだけ渡すと帰って行ったサニーちゃん。
また売り込みに来ると面倒になるからと
レイナは速度を一段と上げて
目的地であるケインズアークまで飛ばした。
ザバンッ...ザバンッ...
高速航行中は釣りもトレーニングも出来ないし
暇だから部屋に戻って端末をパチパチ。
ログサーフィンとメールのチェックは欠かせない。
(最果ての孤島サザンクロスか...)
あれからクリス達ともやり取りを続けていて
時々近況を報告しあっている。
ニトとは喧嘩しながらも仲良くやっているらしい。
家に一人置いてきたヨツは学校にも慣れて
ケニーの所でバイトを始めたようだ。
ふむふむ...なかなかリア充している様子。
(あとは...それから...パチパチ.....)
......バンッ!
「レオナルドよ。端末を貸すのだ」
「いま使ってるのに...」「早うせい!(ガシッ)」
ノックも無しに半ば強引に端末を取られた。
カレンも自分の端末を使用中だから
俺は仕方なく部屋を後にする。
(むぅ...でもなぜだか逆らえない)
コンコン...
ミッチェルさんが地下室で調整でもしているのか
船底から突き上げるような音がした。
特に気にも留めずシビ珈琲を入れて戻ると
廊下には何故か女神達が。
「どうかしたの?」
「聞こえるぞ...この下からだ」
口元に人差し指を当てて
静かに足元へ目を向けるイルジオネ。
その眼光は獣のように険しくて
ただならぬ何かを感じているようだ。




