130.褐色の行商人。
♢調整のために停泊中
出港から早三日が過ぎた昼下がり。
ミッチェルさんは船のメンテナンスで忙しそう。
レイナは船内で仮眠している。
ギギィ...グググッ...
途中で少し航路を変更したけれど
例のワケあり女神とも仲良くやっているし
中継地点までは予定通りに着きそうだ。
「タモだっ!早う持って来ぬか!」
あれから釣りにハマったようで
ロッドがなんだとかルアーがどうだとか言って
完全にプロの人みたいになっている。
ザバンッ!.....ピチピチピチ
「おぉ...これはログに上げねばのう」
「大きなシマシマ鯵だね。美味しそうだ」
ネットで情報収集や釣果を投稿したりして
意外と下界ライフを満喫している様子。
女神属はとても多彩である。
例外もあるようだが.....
「今度は捕れる球投げろよ」「ガウガウ」
「いっくよ〜!そぉ〜れっと」
ヒュィン.....ポチャン
浮きで作った白球は明後日の方向に飛んで
波のない海上へと落ちた。
俺はタモを持ってラファエル達の元へ。
「よっと...はいどうぞ」
「サンキュー。それにしてもなぁ...」
前々から問題となっていたカレンのコントロール。
破壊力は凄いけど狙いがイマイチ悪いから
少し距離が開くと的を外してしまう。
練習としてキャッチボールから始めたものの
改善の兆しは無さそうだ。
「力の加減が出来ぬのか」
「女神級とは名ばかりであるな」
高笑いするイルジオネと
何も言い返せずにうつむくカレン。
さすがに言い方ってものがあると思うけれど
いつになく落ち込む彼女を見ていると
中途半端な言葉はかけられなかった。
「私には無理だよ。使えないもん」
「ほう...諦めの早いことよ」
「余は数時間でアレを使いこなしたがな」
カレンに憑依して放った攻撃魔法は
飛鮫を全滅させはしたものの船に影響はなく
完全に使いこなされていた。
これは単にレベルとかの問題ではなくて
本人の問題であると彼女は言う。
「だったら姐さんが教えてやれよ」
「まさか。余は釣りに勤しんでおるゆえ...」
言うだけ言っておいて薄情な女神様は
カレンの事など気にも留めず船先に戻った。
「どうかされたのですか?」
「お疲れ様ですミッチェルさん」
作業を終えたミッチェルさんが上から降りてきた。
事情を話すとイルジオネの側に赴き
指導をしてもらえないか再度依頼したがー
「同じ女神属として当たり前のこと」
「断る理由などなかろうに」
まったく違う回答が返ってきた。
なんだか少し納得がいかないけれど
カレンが凄く喜んでいるから良しとしよう。
「余が直々に手解きするのだからな」
「生半可な教え方はせぬ。覚悟するのだぞ」
「はい教官っ!一生懸命がんばります」
なぜか軍隊式な挨拶を交わすと
さっそく訓練を開始するからと準備を始めた。
「ありがとうイルジオネ」
「よい。後は頼んだぞレオナルド」
出したままの釣り道具。
そして大量に釣れた魚の処理を丸投げされた。
ここ数日の俺は完全にパシられていて
彼女の使い魔にでもなった気分だ。
(うぅ...生臭さが染み付いて取れない...)
♢ランチタイムと猛特訓
やっと全部捌き終えて昼食の時間。
あの二人は休憩も取らずに特訓を続けている。
「集中して振り下ろすのだ」
「はい教官っ!いっきま〜すっ」
バゴォーン!...カラカラカラ...
「なに今の音はっ!?」
驚いたレイナが仮眠から起きてきた。
目隠しをしてシマウリを棒で叩き割るという
特訓にしては楽しそうな訓練なのだが
船底に穴が空かないかと心配になる。
「安心しろ。ちゃんと強化をかけておるわ」
「それにしても難儀よのう.....おや?」
ボォー!ボォー!
遠くから汽笛を鳴らして近付く一艘の船が。
こちらに向かって手を振っているようだけれど...
「駄目よ。あれは無視していいから」
「なんで?」「いいから目を合わせないで」
この船より少しだけ大きな木造の船は
ゆっくりと横付けして錨を下ろすと
中から踊り子のような衣装を着た褐色美女が
満面の笑みで降りてきた。
カシャン...カラカラカラ.....タタッ
「はぁい♡ 皆様ご機嫌麗しゅう」
「要りませんのでお引き取りください」
速攻で足蹴にするレイナ。
俺達は彼女に言われた通り無言を貫くが
イルジオネは構わずに口を開いた。
「お前は物売りか何かであろう?」
「ご名答!それにしても素敵なお召し物ですねぇ」
「今ならこの位のお値段で承りますがー」
パチパチ...カタ
7000コインと表示された端末を見せる美女。
流しの返却屋なのだろうか?
「もちろん返却以外に石や食料もございますよ!」
「こちらは大陸産ラッド肉のベーコン」
「新鮮なお野菜は契約農家から仕入れていてー」
あっという間に商品をズラリと並べられて
買わなきゃいけない空気が漂っている。
(なるほど...追い払おうとしたワケだな)
「あら、シーラルのお嬢様ではありませんこと?」
「なんてお美しい...オーラが違いますわ」
「お父上様にはいつもお世話になっておりまして」
レイナによると彼らは行商人であり
知人であるかのような口振りをしているが
この近辺を通る金持ちの個人情報なら
顔写真付きでリストアップしているらしい。
最初から俺達をカモにする気満々なのだ。
「そんなコワイ顔しないでくださいね〜?」
「そうだよっ!ウチらは海賊じゃないんだからさ」
彼女以外にも売り子がいるようで
船の奥から複数の声がするのだけれど
なぜか俺達に姿を見せようとはしなかった。




