127.チープな発想。
♢シーラルの桟橋
シャリシャリシャリシャリ.....カチャン
錨を上げてロープを解くと
船体はゆっくり岸から離れていった。
見えなくなるまで何度も手を振り返す。
大勢の人達に見送られるのは嬉しいけれど
なんだか寂しい。
「結局レイナには会えなかったね」
「いーんだよ。薄情な奴はほっとけ」
...とか言いながらラファエルも気にしている様子。
「またすぐに会えますよ」
「さあ、皆さん酔い止めにコレを」
「ありがとうございますミッチェルさん」
この船にはベテランのウェスターさんではなく
普段城から出ることのない彼が乗船した。
もちろん感謝すべきなのだけれども...
「帆を上げるのは右か...いや、左だったか」
とても心配だし怖い。
舵を握ったのは一年ほど前だとかで
ボタンやレバーをいじっては考え込む仕草。
「やはり最新式の船は難しいですね」
「そろそろ交代していただきたいのですが...(チラッ)」
誰に言っているのだろうか?
俺もラファエルもライセンスを持っていないし
海図の見方すら理解していないのだから
無茶振りにも程がある。
ガタッ...ガタガタ...
ミッチェルさんの目線は俺達ではなく
背後にある真水の入った樽に向けられていた。
「なんだコレ。中でガタガタいってるし」
なにやら怪しげな音を立てているものが一つ。
少し離れて様子を伺っていると
底からニョキっと二本の脚が生えた。
(樽人間...聞いたことはないけど新種の魔物か)
「まったく。もう出てきて下さい」
ガタゴト...カパッ!
「ふぅ...暑かった。ミッチ飲み物くれる?」
「お嬢様、事情を説明するのが先かと」
恥ずかしい登場の仕方になのか
照れ笑いするレイナ...そう、レイナである。
「昨日は色々と悪かったわね。心配した?」
「心配したけど損した気分だな」
「あはは〜ゴメンなさい。本当に反省してるわ」
およそ反省の色はなさそうな彼女は
昨夜食卓を飛び出して作戦を練った挙句
先に積んであった真水の樽底を蹴破り
大人しく朝まで隠れることにしたのだとか。
発想がチープすぎる。
「ミッチを選ぶなんてお父様もどうかしてるわ」
「それは親の心子知らずというものですよ」
薄々おかしいと気付いていたけれど
クロードさんは早い段階で娘の行動を把握し
一番信頼のおける彼を船に乗せたのだ。
「ケインズに着いたら城へ戻ります」
「監視役ってワケね...」
あからさまに嫌そうな顔をするレイナだが
戦力になる彼がいてくれるのは心強いし
人数が多い方が楽しくて良い。
「それに私の腕なら最短距離で行けるわ」
先程まで樽を被っていた少女は操舵室に上がり
勇ましくも華麗に舵を回しながらそう言った。
♢数時間が経過した頃
出発が早かったから時間が長く感じるけど
まだ正午を過ぎたところ。
出発の時に持たされた弁当を食べ終えると
強い食後の睡魔に襲われた。
真上に来た太陽の日差しがジリジリと暑い。
「見張りは私が請け負いますので中へ」
操舵室はさすがにエアコンが付いているが
甲板は灼熱地獄と化している。
海の男とは違ってUV耐性のない俺達は
厚意に甘えて船内で休むことに。
「こんなに暑いとは思わなかったよ」
「陽を遮るものがないからな。ところで...」
スヤァ...スヤァ...
食事も摂らずに眠り続けているのは
昨日大酒を飲んで二日酔い中の女神である。
朝は頭痛が酷くて辛そうだったが
だいぶ落ち着いた様子。
(普段こんなに眠ることはないのに)
肌蹴たブランケットを肩にかける。
俺も陽に当たり過ぎたせいで少し眩暈がするから
しばらく横になって休んだ。
ピピッ...カチャ
“敵襲二時の方向から複数!”
“総員準備の上、直ちに持ち場に戻れっ”
警報とともにレイナの声で指令が。
その内線が切れるのを待たずに
俺とラファエルは甲板へ飛び出した。
タッタッタッタ...バッ!
「来たわね二人とも。準備は万端かしら」
「アレよ。向こうに小さく見えているでしょ」
右斜め前方の波間に何かいる。
浮き沈みしながら徐々に近付いているが
騒ぎ立てなければ回避しても問題なさそう。
「敵襲って言うから慌てて来たのに...」
「なに言ってるの。絶好のチャンスじゃない!」
「陸でも海でも狩りは冒険の基本ってね」
敵襲どころか特攻を仕掛けるというレイナ。
さすが女海賊の異名を持つだけあって
怖いもの知らずというかなんというか。
まあ、大飯食らいが数名いるから先行き不安だし
ちょうど良いタイミングなのかもしれない。
「ウィングシャークの群れですね」
「飛びかかってくるのでご注意をっ!」
シュンッ...ガバッ!
最初のそれは海面から勢いをつけて飛び上がると
右の帆を噛みちぎって反対側へ落下。
飛鮫の群れは一斉に透明な羽を広げて
後に続けとばかりに特攻を仕掛ける。
(ヤバいな...このままでは船が破壊される)
“局地的偏西風”
ブアッサーン!!!
総攻撃に構える俺達の背後から
突如として凄まじい威力の無慈悲な攻撃魔法。
二日酔いから目覚めたカレンが放ったようだが
その形相はいつもの穏やかな表情ではなく
感じたことのない威圧感に包まれていた。




