117.慕われた王族。
♢停泊中の船上
それにしても...
「スゲーな。豪華客船じゃん」
「大袈裟だわ。ただのクルーザーよ」
豪華客船は確かに大袈裟ではあるが
リッチなクルーザーであることに間違いない。
「これはウチの造船所で作った船なの」
「昔ながらの風力式だけど速度は抜群だわ」
風力といっても帆船ではなさそう。
甲板には風車がいくつか付いていて
風が吹くとクルクル音を立てて回転した。
仕組みは不明だがこれが動力っぽい。
「時代はエコなの。化石燃料は限りがあるから」
「はぁ〜凄すぎてよくわからないや」
ザバァァァン!
船員が大きなイカリを海底から引き上げると
ゆっくり船は港から離れて行き
大海原へとその身を委ねた。
「進路は南。面舵一杯、全力前進!」
「おまえ女海賊みたいだな」
「よく言われるわ。砲撃開始っ!」
もちろん冗談で砲台は積んでいないのだが
自在に舵を切る彼女の操縦は凄まじい。
「気を付けないと浅い所があるからね」
「船底擦って沈没とかよくあるのよ」
などと言いつつ脇見しているレイナ。
頭の中に海図があるから余裕なのだとか。
さすがは女海賊...
二十分ほどで海辺に町が見えてきた。
ここが彼女の暮らしている美しのシーラル。
レラントとは海の色がまったく違い
エメラルドグリーンの浅瀬がどこまでも続く。
「前にも言ったけど透明度が凄く高いの」
下を覗くと肉眼でもカラフルな魚の群れと
海底の白い砂地が確認できた。
優しい海って感じだけど台風が来る時は
やはりそれなりに大変らしい。
♢桟橋からシーラルの町へ。
荷物を持ってシーラルの小さな港に上陸。
木で組まれた桟橋を渡りきると
白で統一された家々が無数に立ち並ぶ
「これはサンゴを粉にした塗料よ」
「綺麗な町だね〜!」「そこ曲がって」
ズズン...
「えっと...行き止まりかな?」
一見大きな壁のように見えたが
横の階段が螺旋状に上へと伸びている。
カッカッカッ...
3周くらい回ったらゲストルームにたどり着いた。
さっそく荷物を降ろして一息つく。
「落ち着いたら上に来て」
建物の中は結構広くてフローリングもピカピカ。
これが宿屋だったら一泊いくら位するのだろうか?
ベッドもふかふかぁ...
「快適だな」「快適だね」
「これ旅しなくていんじゃね?」
冗談でもそう言いたくなる気持ちはわかる。
しばらく寛いでから螺旋階段を上に登り切ると
石造りの渡り廊下が隣の屋敷...
いや、屋敷というよりは小さめの...城だ。
「お前逆玉狙ってるのかよ」
「違うよ。俺は偶然知り合っただけで...」
いまでも城に住めるのは所有する貴族のみ。
小さくとも立派なこの城風建築は
最近建てられたものではなさそうだから
レイナはやはり...
カチャ...キキィ...
「あ、いらっしゃい。どうぞ中へ」
「ありがとう。うわぁ〜中もすごいな」
「レオ、海が見えるよっ!」
見晴らしの良いテラスに出てはしゃぐカレン。
内装は外観と違って城の雰囲気はなくて
統一感のあるシンプルモダンな感じだ。
まさに俺がイメージしていた海暮らし。
ところでキミは一体...
「私? えぇと、一応王族なのかな」
「レラントは王政辞めたから旧王族ってとこ」
彼女的には貴族でもないし
自分は一般人だと思っているようだが
お付きの人とか執事的な人の姿も。
「みんな王国の頃から仕えている人達よ」
「ミッチもラウルもここから出ていかないの」
王政が解かれた後、彼等はシーラルに移り住み
勝手にレイナ家の世話をしているのだとか。
どれだけ慕われていたかがわかる話だ。
「レイナお嬢様からお話は伺っております」
「お目にかかれて光栄ですウェザー様」
中でも一番偉いと思われる人物が
カレンの側に来て深々と頭を下げた。
この人がミッチさん?
「正しくはミッチェルです」
「変な呼び名はおやめくださいお嬢様」
迷惑気な顔でレイナの方を向くミッチェルさん。
彼は普通にイケメン紳士なのだけれど
レイナに日頃オモチャ扱いされているらしく
変な呼び名を付けられる事が悩みだという。
「だから女海賊などと呼ばれるのですよっ」
「いいじゃない。私は気に入ってるわ」
呆れるミッチ...ミッチェルさん。
時代が時代だったらお姫様なのに
それを微塵も感じさせない活発なレイナ。
悪い意味じゃなくて庶民的な良い子だけど。
「そういう所はお父上様にそっくりです」
レラントの王族は大陸のそれとは違い
人々に分け隔てなく寄り添い国を守っていたそうだ。
ならなぜ王政を辞めてしまったのだろうか?
「ガチャシステムで色々変わったからね」
「簡単に言うとお金を稼ぐ必要ができたの」
富の再分配と称して没収され
残ったのは二つある城だけだったから
レイナの父親と王である弟は造船所を作って運営。
手が回らなくなった国は国民に任せて
現在は自由気ままな生活を楽しんでいる。
「ミッチもやりたい事やっていいんだよ?」
その言葉を笑顔で受け流して
お茶を入れに行ったミッチェルさん。
多分彼がやりたいことは
ここで叶っているのだと思う。




