113.持ち物は最小限に。
カーラがヨツに近付いた目的はおそらくアレか...
いや、間違いなくアレだろう。
「留守の間ウチに上がりこむ気だろ」
「ヒドい言い方。ちょっと遊びに行くだけよ」
家出精霊の考えることなんてお見通しだ。
ヨツが一人じゃ寂しいだろうからとかいって
都合よく宿代わりに使うつもりなのだろう。
「ヨツと私はもう親友よね」「はいっ!」
親友と呼ばれて嬉しそうなヨツ。
この街で初めてできた友達だと喜んでいるが
それとこれとは別問題。
「泊まるなら保護者の許可は必須だから」
「わかってるわ。安心して」
本当にわかっているのだろうか?
旅に出る不安要素が幾分増えた気がするけれど
カーラと一緒なら防犯の面では良いかもしれない。
女の子の一人暮らしは危険も多いし。
「よかった〜!絶対に遊びに来てねカーラ」
この短時間で呼び捨てできる間柄になったらしい。
(俺とカレンは様付けなのに...)
「だからって毎日来たらダメだよ」
「はいはい。私だって節度は守りますしぃ」
クフッ...
俺とカーラのやり取りを見て笑うヨツ。
どうせまた母さんキャラだと言いたいのだろう。
「いえ、なんだか夫婦みたいだなって」
意外な答えが返ってきた。
カップルみたいとかならまだしも夫婦って...
そもそも俺には彼女すらいないのに。
「でも好きな子はいるのよね〜(ニヤリ)」
「はい?なに言ってるんだよ」
なんだか意味深な表情で俺を見るカーラ。
突然変なことを言い出され慌てて否定したが
そもそも俺には思い当たる節もない。
「鈍いわねぇレオナルド」
「そんなことじゃ彼女なんて当分できないわよ?」
「俺は冒険で手一杯だからいいんだよ」
本当はよくないけれど手一杯なのは事実である。
それにダンジョンで出会いがあるかもしれないから
いまは勇者への道を突き進むことを優先する。
そういうことにしておく。
ピロン♪
“登録審査が完了しました”
端末の画面に運営からのメッセージが届いていた。
タイトルはこの前申請したヨツの相互利用の件。
開いて中を確認すると...
“審査通過”
これで一安心。
審査終了の通知が来なくて不安だったけれど
不正防止とかセキュリティの問題があるのだろう。
旅に出る前でよかった。
ポムン...
許可が下りたなら共有出来るようになったはず。
試しに“ポッケ”からポーションを取り出して
ヨツに飲んでもらうとー
「わぁ...ちゃんと効いてますよコレ」
本当なら口にすることさえ出来ないはずだが
共有されているから難なく飲み干した。
二年半前までは普通だったのに今は不思議な感じ。
きっと他の規制も徐々に改善されていくだろう。
「さあ、そろそろ帰って旅支度をしないとね」
「私もお手伝いします」「私も〜!」
なぜかカーラまで...
店を出て家までの道を四人で歩く。
「うわぁ!なにするんだよカーラ」
先を行くカレンとヨツの後ろを歩いていたら
グイッと腕を引っ張られて道をそれた。
また口元に手を当てている。
「ねえ、本当にヨツは聞こえてないのかしら?」
「そうだよ。聴力は人並みだって言ってた」
獣人の耳は聞こえが良いからと
本当かどうか俺に何度も確認したあとで
絶対に“精霊”だと言わないよう念を押された。
「私は人間と対等な関係がいいの」
「バラしたら絶交だからねっ」
「言わないよ。そんな悪趣味じゃないし」
「そっちこそ約束守ってよ」
むぅ...マハトさんが苦労するのも無理はない。
典型的な女神気質の彼女は面倒な上に強気な性格。
自分の都合は通すけれど俺との約束なんて
守る気があるとは到底思えない顔をしている。
「レオ遅いよー。なに話してたの?」
「まあ大した話じゃないさ」「ふ〜ん」
カレンに不審がられたけど上手くはぐらかした。
でもヨツは何か疑っている様子。
まさか会話が聞こえていたのでは...
「あの...違っていたらごめんなさい」
ヤバいって顔をするカーラ。
俺も体から変な汗が湧き出してくる。
「もしかしてお付き合いされていますか?」
「はい!?」「ないわよっ!」
さっきからカーラがふざけて腕組みしてたから
あらぬ疑いをかけられてしまったが
それは絶対にない。絶対に。
「俺は清楚で優しい女の子がタイプだからね」
「例えるならフィオみたいな感じ」
あーって顔して頷く女子達。
なにか言いたげな感じだけれどなんだよ。
今日はみんな少し変だ。
家に着いて一息ついてから旅の準備。
魔道具やアイテムで使いそうな物は“ポッケ”に入れ
不要な物と家で使う魔術家電は部屋の棚に並べた。
カケラじゃない大きな魔石はヨツに。
「これであの剣もラクラク研げそうです」
「でも無理したらダメだよ」
ふとカレンの荷支度をのぞいてみる。
(.............なんだか一杯だな)
長旅になるからと大量の干し肉や美容グッズ
あれば便利だけどなくても構わない物などなど。
結局ひとつずつ俺が選別する羽目に。
「この “ムクミ取り五本指タイツ” は要らないよね」
「それは必須だよー!」「はぁ...」
カーラが激しく同意するからバックパックの中へ。
そういえば女子は荷物が多くて困るって
荷物持ちのウォルターが前にボヤいてたな...
(ぜんぜん荷物減らないし)
途中夕食を食べてから遅くまで荷造り。
残り数日でこの家から旅立つことになるけれど
高まる期待と未知への不安で
最近の俺はよく眠れていなかった。




