112.上手い話には乗らない。
ギシギシ.....
シチューのいい香りで目が覚めたのか
ヨツが部屋から降りてきた。
食欲があるのはHPが回復した証拠だ。
「おいしそう...(ぎゅるる)」
「たくさん食べれそうかな?」「はい!」
カレンと同じ量をよそったけど見事に完食。
ケモミミ族は食い溜めができるから大食いなのだ。
最高で十日間は食べなくても死なないらしい。
「はぁぁ...すごく美味しかった」
「母様が作ってくれるシチューの味と似てます」
俺の母さんキャラが定着しつつある。
喜んでもらえるのは嬉しいけれど複雑な気分だ。
(男らしい姿も見せなければ...)
シュン...シュン...ザンッ!
食後に剣術のトレーニング。
冒険はとにかく歩く場面が多いから
パーティーに参加するなら持久力も上げたい。
二時間程汗を流したら風呂に入って就寝。
格好良いところを見せようと頑張り過ぎたからか
ぐったりと泥のように眠りについた。
翌日の朝。
今日も出勤だけれどヨツも一緒についてきた。
体調はすっかり良くなって外に出たがっていたから
ケニーに挨拶してから一人で街を散策するらしい。
ヴルル...ワンワンッ!
「すごい!この子ライガーですよね」
店の前にヴィノが待機していた。
ケニーが早朝の配達から戻ってきたのだろう。
同じケモミミ同士だからかとても懐いている様子。
「おはよう。いらっしゃいヨツちゃん」
「おはようございますケニーさん」
「マリーと心配してたんだよ。もう大丈夫そうね」
頭を撫でられて少し照れるヨツ。
ちゃんとケニーにこの前のお礼を伝えてから
街へと繰り出していった。
「気を付けてね〜!変な人について行っちゃダメよ」
「じゃあ仕事に戻りますか。行くよヴィノ」
ヴァルヴァル...ガオッ!
ケニーはヴィノに乗って次の配達先へと向かった。
今日も荷物が多くて大変そうだな...さてと。
「おはようございます」
「あ、レオナルド先輩!おはようございます」
リゼルが俺を見つけて駆け寄ってきた。
なんだかすごく懐かれている。
(同じアカデミー出身だからか?)
そんなペットのように可愛い後輩のおかげで
今日も仕事が早く終わりそうだ。
「ラベル貼りが終わってるね。全部一人で?」
「はい!早く仕事を覚えたくて朝一番に来ました」
綺麗に分別されていて作業がしやすいように
向きまで揃えて整然と置いてある。
あとは運び入れるだけで終了なのだが
こんなに早く終わると時給制に変わった俺が困る。
「リンダさん、早く終わっちゃたんだけど...」
「なら書類の整理をお願いできるかしら?」
慣れない事務仕事に戸惑いながらも昼過ぎまで働き
戻ってきたケニーからコインを受け取る。
ザクッ...
「それでパーティー探しは順調に進んでる?」
「いや...中々条件が合わなくてさ」
「焦って変な奴と組むのは絶対に駄目だからね」
募集の中には好条件の求人も紛れているが
登録料として金を騙し取られたりする詐欺もある。
上手い話には乗らないほうが懸命だ。
「じゃあまた明日ね」
「お疲れ様です。お先に失礼します」
ピロン♪
店を後にして買い物がてら散歩していると
端末の着信音が鳴った。
開いてみるとギルド経由で届いたメールで
差出人は...ラファエルだ!
“ちすっ!俺はいつでも組めるけどどうだ?”
彼は普段何をして生計を立てているのだろう。
完全な冒険家でもないし、謎が多い。
でも知らないパーティーに無理して入るより
ラファエルと自由気ままな旅をするというのも
悪くはないと思う。
“じゃあ決まりだな。また連絡するわ!”
返事を返したら速攻で返信が来た。
ラファエルの行動力はハンパないから
明日には日程や場所とかも全部決まってそう。
俺は助かるからいいけど。
これで一気に問題は解決したから
あとはヨツの入学式が終われば旅に出発する。
それまでに準備を整えなくては...
「あ、レオ様とカレン様!お帰りですか?」
街に最近できたお洒落な珈琲ショップ。
二階のテラス席からヨツが俺達を見つけ手を振る。
同じ席に座っているのはカーラだ。
「ハロ〜!二人で歩いてるとカップルみたいね」
「なんでヨツと一緒にお茶してるんだよ...」
呼ばれるがまま俺達も店の中へ。
珈琲一杯でもすごく高そうだから痛い出費だが
一度入ってみたかったからまあ良しとする。
ボムッ...
フカフカな革張りのソファーに腰をかける。
見晴らしもよくて快適だ。
「街でカーラさんに声をかけられたんですよ」
「それでお昼をご馳走になりました」
家の人と知り合いだと声をかけて
食事を奢ってあげると言い連れ去るのは
誘拐犯が使う典型的なテンプレである。
「ケニーに忠告されたでしょ。ダメだよ」
「ごめんなさい。でもカーラさんは良い人です」
こっそり口元に人差し指を当てるカーラ。
やはり“精霊”だという事は隠しているようだ。




