110.仕事と冒険の両立。
翌日の早朝。
昨日頑張り過ぎたヨツはまだ眠ったままだ。
起こさないよう静かに朝食と弁当を作る。
「おはようございますレオ。早いね〜」
「まだ寝てるから静かに...」「はーい(小声)」
カレンは魔術ヒーターの温度を少し上げてから
ソファーの上でログサーフィンを始めた。
お皿も洗ってくれるし洗濯も時々してくれるけど
料理は苦手だから手伝ってくれない。
もっぱら食べるのが得意分野だ。
「朝ごはんまだー?」「もう少し待ってて」
自分の飲み物くらい入れてほしいけど。
まあ、可愛いから許せる。
ギシギシ...
ハンモックが揺れる音がしたから
もうすぐあの子も降りてくるだろう。
トーストもいい具合に焼き上がったし...
「お待たせ。食べるから端末を片付けて」
「はーい!お腹ペコペコだよー」
テーブルに朝食とシビ珈琲を運ぶ。
珈琲が飲めないヨツには搾りたて生ジュースを。
これで準備完了だ。
十分ほど経過...
気配はすれど一向に降りて来ない。
料理が少し冷めてしまった。
心配だから様子を見に行きたいが
着替え中だとマズイからカレンにお願いする。
トットット...「ヨツ元気ないみたい」
あわてて俺もヨツの部屋へ。
耳がべこっと垂れて頬も赤らんでいる。
窓からウィンディが飛び出して
ハーブを数種類採ってきてくれたから
それを使ってハーブティーを入れてみる。
「なんだか複雑な香りがするけど大丈夫?」
「.............(グッと親指を立てる)」
飲ませていいのか悩んだが
ウィンディは大丈夫だと言っているらしい。
とりあえず信用してヨツに飲ませると
半分ほど残したが顔色はさっきより良くなった。
「体力の使い過ぎだねヨツ」
「はぁぁ...ご迷惑をおかけしてしまい...」
「今日はゆっくり休んで」
HP切れの症状だと思うけれど
まだ申請が通ってないから俺の回復薬は使用不可。
自然回復させるにはしっかりと栄養を摂って
ただひたすら眠るしかない。
彼女を部屋に残して俺達は家を出た。
先に伯父の屋敷へ寄りウィンディを引き渡してから
いつものようにケニーの店へ。
中へ入ると新しい仲間を紹介された。
「レオナルドとカレンちゃんよ」
「リゼルです。宜しくお願いします」
簡単な挨拶を済ませたら一緒に地下の倉庫へ。
今月までに仕事を覚えてもらわなければならない。
というのも全部俺のせいなのだが。
”冒険者になりたいのにレベル上がらない問題“
これは前からずっと感じていたけれど
そろそろなんとかしないと商人にでもなりそうだ。
ガチャを回すには金が必要だが
仕事と冒険の両立はそう簡単にはいかない。
それを少し前に飲みの席でケニーに相談したら
今のシフト制から個人契約へ変更したらどうかと
思わぬ提案をしてくれたのだ。
この時期はアカデミーの新入生が仕事を探すから
人手不足は募集をかければなんとかなる。
先日ケニーが役所に来ていたのはその為だ。
「真面目で体力もあるし、結構イケメンよね」
「やめてくださいよ...」
恥ずかしがるリゼルに事務の女子達は釘付けで
完全に仕事の手が止まっている。
俺の時にはそんな反応じゃなかったから
なんだかジェラシーを感じるのですが。
「レオナルドさんはアカデミーの卒業生ですよね」
「色々とご教授ください先輩っ!」
(なんだ、すごく良いやつじゃないか)
数秒前の嫉妬はどこ吹く風で
完全に可愛い後輩として扱うことに決めた。
ケニーの店では一番年下だったから
先輩と呼ばれる日が来ようとは...ちょっと感激。
「これが奥でそれは壁側に寄せて」
「はい先輩っ!」
サラサラサラ...
荷運びと分別方法を教えると
すべて細かくメモを取る新人リゼル。
そんなに難しいことは教えていないのだが
几帳面な性格なのだろう。
できる後輩のおかげもあり仕事終了。
時間が余ったから少し事務作業のお手伝い。
(すごく視線を感じる...)
ケニーが事務所の裏から出てきた。
「ねえレオナルド、ヨツちゃん大丈夫?」
「カレンから具合が悪いって聞いたんだけど...」
今日はもう上がっていいからと言われ
昼前だけど後輩を残して帰ることにした。
途中市場に寄って昼食の買い出し。
栄養を摂るならやっぱりこれが一番だ。
「それはなに?」
「これはドラゴンスネークの卵だよ」
名前にドラゴンと付いているけれど魔獣ではない。
竜のようにトゲトゲとした蛇の一種で
卵には滋養強壮の効果がある。
カチャ...
家に戻るとヨツは眠っているようだった。
手をよく洗ってから静かにキッチンに立つ。
買ってきた卵を三つほど割って卵液を作り
紅月の実のお酒と一緒に鍋で少しだけ煮たら
母さん直伝たまご酒の完成だ。




