106.ポジティブな思考。
屋敷から中央塔までは徒歩で数分。
背の高い時計塔の隣に建てられている。
どちらも魔術抗争の時代に出来たもので
時計塔はかつての魔術教会側。
役所のある中央塔は旧魔術士連盟が作った建物だ。
この街はどちら側にも属していなかったから
何故か互いに塔の高さを競うようになり
壊し壊されて再建を繰り返していたら
こんなにも立派な建物になったそうな。
後に連盟は魔法省と名を変えて統合政府下に入り
中央塔は役所として生まれ変わった。
教会が去った時計塔も今では貴重な観光資源に。
「すごく歴史的な建物なんですね〜」
「俺もここの出身じゃないから詳しくないけど」
「都会って凄いなぁ...(感心)」
耳をパタつかせて見回すヨツ。
ここは隣街ほどの都会ではないけれど
初めて村を出た彼女にはそう映るのだろう。
「落ち着いたら隣街にも連れて行ってあげるよ」
「本当ですか!?」
「ここより都会だなんて想像も出来ません」
きっと度肝を抜くことだろう。
行き交う人々の波と無数にそびえ立つ摩天楼。
夜遅くまで明るくて賑やかな眠らない街。
アカデミーの同級生も移り住む奴が多かった。
でも俺は暮らすならこの街の方がいい。
みんな優しい人達ばかりだし
特に不便も感じない。
「着きましたねレオナルド様」
「あ...そのレオナルド様って呼び方なんだけど」
「普通にレオでいいよ」
慣れない呼び方をされるのは変な感じ。
そろそろ対等な関係にならないと
一緒に暮らしていく上で窮屈になってしまう。
「ではレオ様とお呼びしますね!」
「いや、そうじゃなくて...」
ケモミミ族は目上の者に対する礼儀を重んじる。
自分より年上の俺に様を付けるのは
当然のことだからと頑なに譲らなかった。
(レオナルド様よりは幾分マシか...)
...長い列の後ろに並ぶ。
申請が多い時期でかなりの混雑だけど想定内。
それより問題なのはー
ざわざわざわ...
“あの子耳が付いてるよ”
“ホンモノかな?”
“いや、獣人ならもっと獣っぽいだろ”
チラチラとヨツの方を見ては何か言っている。
悪口ではないけれど気まずそうに下を向くヨツ。
可哀想だから早く申請を済ませて帰りたい。
「奇遇だねレオナルド」
後方から聞き慣れた声。
ケニーが俺を見つけて近寄ってきた。
下を向いていたヨツも驚いたように振り向く。
「あ...ケニー様!密林のコテージで働いていたー」
「覚えてるわ。娘のヨツちゃんよね?」
「はいっ!その節は母様が大変お世話に...」
コテージに泊まっていたから二人とも顔見知り。
今度顔を見せに行こうと思っていたけれど
こんな所で数週間ぶりの再会となった。
ざわざわざわ...
パンパン...「みんな紹介するよっ」
ケニーが手を叩いて注目を引く。
いきなりの展開に耳を立てて動揺するヨツ。
「この子はケモミミ族のヨツちゃん」
「勇者と獣人のハーフなの。美人でしょ?」
「ここに住むから仲良くしてあげてね」
彼女の一言で雰囲気はガラリと変わった。
知らないモノを知りたがることは仕方がない。
それは差別とかではなくただの好奇心なのだから。
“なんだケニーさんの知り合いか”
“よろしくねヨツちゃん”
口々に声をかけられたヨツは
顔を上げて笑顔でぺこりと挨拶をした。
「さすがケニーだね」
「みんな家族みたいなものだから」
彼女はとにかく顔が広い。
生まれ育った街だからという理由もあるけど
ブレない性格の頼れる姉御キャラとして
ほかの誰よりも信頼されている。
「お姉ちゃん、そのお耳は本物なの?」
「そうだよ。さわってみる?」
ピク...ピクンッ
子供にしゃがんで耳を見せてあげるヨツ。
とても“ふあっふぁ”しているらしい。
(いいなぁ...俺も今度モフらせてもらおう)
最初は何事にも戸惑うけれど
忙しくなれば自然と慣れてしまう。
だから人と違うことなんて気にしてはいけない。
ポジティブな思考で逃げずに前を向けば
きっといい事が待っているはずだ。




