102.ネガティブな思考。
仕事に行くからと出ていったカーラ。
俺達も早く行かなくてはならないのだが...
「ハァ...駄目だ...私には精霊を扱う資格などない」
「彼女の言うように最低最悪なクソ野郎だ...」
(そこまでは言ってなかったな)
この超ネガティブ男を放ってはおけず
ケニーに無理をお願いして仕事は遅番に変更した。
見た目と違ってとてもナイーブな性格だ。
「どうしてそんなに仲が良いんだ」
「えっと...これといって理由はないけど」
「むしろなぜ嫌われたんですか?」
カーラをガチャで引き当てて以降
彼はとても彼女に尽くしてきたのだという。
レベル上げのアイテムも優先的に使い
かなりの速度で成長させたのだとか。
「それなのに...私から離れようとするのだ」
「怒ると口を利かなくて」
「もう、どうしたらよいのか...」
思い悩むマハト氏。
なんとなくだけど親離れの兆候に似ている。
反抗期的な...んーどうだろう。
「でも仲直りはするんですよね?」
「まあ...自然と機嫌は直るのだがな」
カレンによると精霊にも多感な年頃があるらしく
カーラはああ見えて若い精霊なのだとか。
「ちなみにカレンは何歳くらいなの」
「それは秘密だよー」
いままで気になっていた事を
流れで聞いてみたら笑顔でサラッとかわされた。
怒ってはいない様子だけれど
さすがにデリカシーがなかったと反省する。
「なら亜空間に戻るかと聞いたんだ」
「勿論私はそれを望んではいないのだけれど」
その後カーラは家を飛び出してしまったそうだ。
きっとこの言葉が原因なのだろう。
「カレンは俺がそう言ったらどう思う?」
「やだなー。すごく悲しいし傷つくよ」
俺もカレンと同感だ。
カーラも多分本気でマハトを嫌ってはいない。
だからちゃんと謝るようにと助言した。
あとは時間が解決してくれるだろう。
“闇に紛れた漆黒の門”
連れ去った時と同じように円を描いて
足元に出来たブラックホールに飲み込まれると
ひと気のない静かな裏路地に出た。
この魔術は影の中だけを瞬間移動するらしい。
「色々と悪かった...いや、申し訳なかったな」
「ただ魔法省の件は半分事実だ」
魔法省はこのシステムになってから
あらゆる危険因子を注視しているのだという。
俺やカレンの事も把握済みで
調査対象リストに載っているそうだ。
(......なにそれこわい)
「世の中には悪い人間も沢山いる」
「精霊が不本意に利用されることも想定されるが...」
「君は問題ないと伝えておくよ(ニコッ)」
真剣な表情を崩して微笑むマハト。
正直こんな顔する人だとは思わなかった。
役人だからと頭ごなしに嫌っていたが
そこまで嫌な奴じゃなさそう。
誰かに聞いてもらうだけでも気持ちは楽になる。
きっと彼も不安だったのだろう。
また相談させてくれと名刺を渡された。
「朝から大変だったねレオナルド」
「遅くなってすみません」
ケニーに遅れた事を謝ってから
倉庫で溜まった荷物の整理に取り掛かる。
重たい箱を何度も動かしながら
彼らのことを考えていた。
言葉足らずとはいえマハトには非がある。
でもカーラも少し言い過ぎだ。
クソ野郎とまでは言ってなかったが
“人間以下”はちょっと厳しい表現だったと思う。
俺も母さんが鬱陶しく感じた時期があり
些細なことでよく腹を立てていた。
もう離れて暮らしているから喧嘩はしないけれど
いつまでも子供扱いするのは変わらない。
でも親ってそんなだと思う。
“父さんが帰らないのは母さんのせいだっ!”
あの時ひどい言葉を投げかけたことを
いまではとても後悔している。
ただ勢いで言ってしまっただけで本心ではない。
それでも叱り付けたりはせずに
母さんは黙って寂しそうな顔をしていた。
どれだけ困らせても必ず晩御飯を用意してくれて
俺は寝静まった深夜にそれを食べに降りる。
ただ一言謝ればよかったのだが
素直になれないのは気恥ずかしいからだ。
帰り道。
朝は準備中で通り過ぎてしまったけれど
どの店先にもピンク色の花が飾られていた。
「ああ...もうすぐ母の日か」
「母さんにプレゼント選ぶの手伝ってくれる?」
「うんっ!カーラのお店がいいかも」
謝りたい時や素直に謝れない時は
感謝の気持ちを込めて贈り物をするのがいい。
離れていても近くにいても
想いはきっと伝わるはずだから。




