100.晴れた日の窓から。
伯父の屋敷で一泊。
高級なベッドは寝心地が違うな。
カチャ...バンッ!!
「起こしに来たぞレオナルド!」
「勝手に開けないでください」
「なんだもう起きてたのか...残念だなぁ」
寝起きドッキリを仕掛けに来たようだが
この手のイタズラは過去散々受けてきたから
奴の行動は手に取るようにわかる。
特に寝起きと入浴中は要注意なのだ。
(この危険人物めがっ!)
「そうだ...迷惑ついでに頼みがあるんだけど」
「ハハッ!なんだよ迷惑ついでって」
エレインに頼まれた初版本へのサイン。
お願いするのは癪だけど仕方がない。
「名前はエレインって入れて」
「ふむ...良い名前だな。さっそくパクろう」
俺もカレンの時は随分と時間がかかったけれど
小説は登場人物が多くてネームに困るのだという。
次回作のヒロインに採用するのだとか。
「キュキュッと...よし出来たぞっ!」
本にサインを書いてもらったら
今度は図書館に返却をする。
“晴れた日の午前中に高い所から落とす”
エレインの指示通り装丁を上にして開き
窓の外へと放り投げると
パタパタ...パタパタ...パタパタ...パタパタ...
特殊な魔術か何かがかけられているのか
鳥のように羽ばたいて飛んでいった。
不思議な光景だ...
「あれは移動図書館の本だね」
「そう。知ってるの?」
「子供の頃はよく来てくれたんだ」
懐かしそうに窓の外を眺める伯父。
突然現れる移動図書館は謎が多くて
誰が運営しているのかも
なんの目的で移動するのかも不明。
どこにいても返却が出来るから
戦時下の兵士達にも人気があったそうだ。
「よし、これもパクって...そうだな...」
「移動図書館戦争ってタイトルにしよう!」
「因みに恋愛小説だ」
プライドというモノがないのだろうか。
裁判沙汰にならなければいいけど。
「おう...朝食は出来てるから。ふぅ...(頭痛)」
二日酔いのクライフさん。
調子が悪くても絶対に手は抜かないから
朝からふわふわ玉子のオムレツを作ってくれた。
シンプルだけど料理人の腕がわかる。
「じゃあ行ってきます」「行ってきま〜すっ」
「はい。今日もお仕事頑張ってくださいね」
朝食を食べ終えた後
俺とカレンはそのまま仕事場へ。
いつもより出勤が少しだけ早いのは
土日の荷物が纏まって届くからだ。
長い石畳を歩く。
空気がキンッと澄んでいて気持ちが良い。
どの店も開店準備に追われていて
皆黙々と働いているけれど
カレンを見つけると声をかけてくれる。
「おはようアンタ達。これ持ってきな」
「ありがとー!」「いつもすみません...」
とりわけ肉屋の女主人とは仲良しだ。
そもそも女神級の精霊自体が少数だから
好奇の目で見られるのも無理はない。
俺の知る限りこの街に住んでいるのは
カレンとフィオとカーラの三人。
人口比率からすると少し多いくらいか。
それにしても.....
「........何か用ですか」
背後から響く革靴の音。
仕事履きにしては不自然であるし
この顔には見覚えがあった。
「魔法省防衛局の者だ」
「今から君を聴取させてもらうがー」
「.....駄目です」
突然現れてこの態度はない。
それに俺が一体何をしたというのか。
「正確には君とその女神級に用がある」
その眼光に少し怯えるカレン。
俺の上着をギュッと掴んで後ろに隠れる。
(こんなことしている場合じゃないのに...)
「仕事に遅れるので通してください」
「雑な言い訳を...」
融通の利かない男だ。
なにがなんでも聴取すると言って聞かない。
こうなったら強行突破してでも...
ダッ!タタタタタッ....
隙を突いてカレンと脇道に逸れる。
裏通りから店までは遠回りになるが仕方ない。
取り合っている暇はないのだ。
タッタッタッタッタ....ドガッ
(......マズい。なんで先回りしてるんだよ!)
「公務執行妨害で君達を拘束する」
「いや...ちょっとま....」
ズゥオォォーン...「捕縛!」
魔術と同レベルの高等魔法を放ってきた。
魔法だから詠唱もなければ魔石も使わない。
(なんてレベルなんだよ...グフゥ...)
狩で使う投げ輪のような光輪で
俺とカレンはググッと縛り付けられた。
かなりの威力で魔法もアイテムも出せない...
カレンも苦しそうだ。
「これから署まで連行する」
「放せよっ!」
今度は地面に陣を描くと青い魔石を一つ。
足元の地面が円形に黒くなって
俺達は“マハト”と一緒にその中へと飲み込まれた。




