99.嘘は見透かされる。
西ノ森を歩いて研究所へと戻る。
俺はまだ夢を見ているような気がした。
(もう少しマシな格好で来ればよかったな...)
ブルーも知っていて秘密にするなんて意地悪だ。
クスクス...
「だって守秘義務があるでしょう?」
「それに教授も書類にサインしているので」
書類には高度な呪術がかけられているらしい。
そんなこととは知らずにサインをしてしまったが
魔術契約は一度成立すると解約できないそうだ。
恐るべしエレイン。
「あれは女帝よ」
エレインはアイドルという存在を利用して
裏では人類フローリア計画を進めているのだと
まことしやかにブルーは語る。
(どこまでが冗談なのかわからない...)
彼女はこの手のオカルト話が大好きだ。
純粋なカレンが本気にするからやめてほしい。
(でも不思議な人だったな...)
研究所に到着すると
外でクライフさんが待っていた。
「遅かったなレオナルド。どこ行ってたんだ?」
「さっきフ...(グフゥ!)」
フ...の先を危うく言ってしまいそうになったが
魔術契約の効力で喉の奥に詰まった。
口外しようにもこれならできそうにない。
「...なんだかよくわからないけど帰るぞ」
「日が暮れてからだと危ないからな」
すぐに俺達も帰り仕度を済ませて
ブルーと教授に見送られながら研究所を後にした。
まだ明るい森の中は木漏れ日が綺麗で
めずらしい野鳥やモリリスの姿もあった。
それにガサガサガサって...なんだ?
ガサッ...
グァルオォォォォ!!!
「うわぁ!?」「お前たちは下がれっ!」
突然林からモリグマが現れた。
普段はノグマと比べると温厚な性格なのだが
ハンターにでも追いかけられていたのか
血相を変えて襲いかからんとしている。
「でもクライフさん、俺も加勢します!」
「いいから来るなっ!!」
血相を変えたのはモリグマだけではなかった。
普段は温厚なクライフさんの表情が
まるで別人のようだ。
シャシャッ!
両手にいつもの包丁(武器)を構えて
並々ならぬオーラを発している。
「一撃で楽にしてやるさっ!」
ヒュッ...ザクッ....ズタァァァン
その宣言通り一撃でモリグマは倒れた。
可哀想だけれど仕方がない。
一度興奮した熊は元には戻らないのだ。
「だから美味しく食べてやるんだよ」
「それがせめてもの救いだろ」
大人の言うことは理屈だらけで
子供には矛盾しているように聞こえるけど
きっとそれが正解なのだと思う。
「モリジカはダメだよー!」「はいはい」
クライフさんの軽い返事に
カレンは何度も釘を刺していた。
(鹿狩りに行かなければいいけど...)
因みにクライフさんが俺の加勢を断ったのは
食材の貴重な部位を傷付けないためだ。
彼は料理人だが食材ハンターの免許も持っている。
さすがに全部持ち帰るには多過ぎるから
村で毛皮と肉を売り払った。
「さあ、晩飯までには屋敷へ戻るぞ」
「よろしくお願いします」
カタカタと心地よい車の揺れで
俺は来た時と同じように眠りに落ちてしまい
目を覚ました時には夜の帳が降りていた。
ギィィ...
屋敷の中はとても暖かい。
「おかえりなさいレオナルド」
「ただいまフィオ」
スパイスの入ったお茶を飲んだら
冷えた身体がポカポカと芯から温まった。
フィオにお土産のシュガーフラワーを渡すと
さっそく花弁を一枚ちぎって食べる。
「とても新鮮ですね...西ノ森産ですか?」
「あぁ...えぇと...そうだよっ!」
「でも産地ではありませんよね...」
まるで名探偵かの如く疑いをかけるフィオ。
いくつか質問されたけれど
なんとかその話題を繕い事なきを得た。
守秘義務だから仕方がない。
「だから市場で売ってたんだって」
「ふぅん...まあいいでしょう」
彼女はこの手の推理小説が大好きだ。
バレるのは時間の問題だな。
「さあ、遅くなったが本日のディナーだ」
なめらかなミルク豆のスープとモリグマのケバブ。
肉は村で調味液に浸けてあったから
よく味が染み込んでいてとても美味しい。
ケバブを口いっぱいに頬張りながらも
まだ少し眠たそうなカレン。
クライフさんも伯父と酒を酌み交わして
そのまま寝てしまったから
今夜は屋敷に泊まっていくことにした。




