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98.それは幻花のように。

窓の外には色々な花が咲いていて

カレンがそこにピッピィ達を放して遊んでいる。

通り抜ける風も心地よい。


俺達は食後のドラゴンティーを飲みながら

普段できない会話を楽しんでいたが

途中でエレインは具合が悪くなった様子で

奥で休むからと部屋を出て行った。


「彼女ちょっとだけ魔力が弱いの」

「疲れやすい体質なだけだから休めば良くなるわ」


(それで走る速度が凄く遅かったのか...)

魔力をあまり溜めることが出来ないから

それに伴って持久力も低いのだろう。


だから白魔術医が図書館に常駐していて

彼女のケアを担当している。


「それなのに忙しく動いてばかりで...」

「仕事が好きなんだね」「でも働き過ぎよ」


プロデューサーは大変な仕事だ。

特に彼女はマネジメントだけではなくて

衣装デザインやライブ演出まで担当している。


「そういえばライブの時にさ...」


客席に花がクルクルと舞い落ちる演出があった。

あれはフローリアの能力なのだろうか?


「大正解!あれは幻花を実体化しているの」

「いまも部屋中に漂っているわ」


彼女の瞳にしか見えていない世界。

それを魔法で可視化したのだ。


「ほら。綺麗でしょう」

「うわぁ...本当に部屋中に咲いてたんだ」


ふわふわと浮かぶ青白い花

羽毛のように風で舞い上がっては下へと落ちる。

他にも様々な色の幻花があるのだとか。


「でも少し悪さをする時期があるの」


暖かい季節になると花粉を飛ばすため

春先に目が痒くなったりくしゃみが出たりするのは

この花が原因なのだという。

(見えてないから全然知らなかった...)


彼女が手をクルッと翻すと

浮かんでいた花々は透き通って姿を消した。

とても幻想的な光景だったから

次は是非ともライブ会場で見てみたい。


「ただいまー!ピッピィと遊んできたよ」

「手が泥だらけだぞカレン。ちゃんと洗ってきて」


フフッ...クスクス...


なぜか女神達に笑われている俺。

“お母さんみたいだね”と言われてしまい

なんだか恥ずかしくなった。

(兄でも父でもなく母さんって...)


「おまけにお料理も得意だなんてね」

「あ、エレインさん。もう体調は大丈夫ですか?」

「平気よ。そろそろ移動する準備をしないと」


次の仕事先へと向かうため

複雑な魔法陣を庭先に描くエレイン。

魔法は魔力の量に左右されることが多いけど

魔術は研鑽により習得するものだから

彼女は途方も無い努力をしてきたのだと思う。


「これで完成よ」「すごーい!」

「レオナルド君にお願いがあるんだけど...」


渡された本に伯父のサインを頼まれた。

“エンシェントー”の初版本だ。

(図書館の所蔵みたいだけど...いいのかな?)


そんなに好きならと屋敷に誘った。

俺もこうしてフローリアに会えたワケだし。


「いつでも会いに来てください」

「えっ...でも先生はお忙しいでしょうし...」


残念ながら忙しくない。

仕事は沢山抱えているけれど

締め切り前にならなければ焦らないという

典型的な編集者泣かせの作家だ。


「スケジュールを調整してみますね」

「俺も伯父に伝えておきます」

「ああ...フェルナンド先生に逢えるだなんて(溜息)」


会って失望しないといいけど。

まあ、恋は盲目とも言うし大丈夫か。


ギィィ...カチャン


屋敷の門を出る。

ブルーは大量のミルク豆を背負い

俺達は摘みたてのシュガーフラワーを貰った。


「そろそろ時間よ」

「じゃあまたねレオ君、カレン!」


フォウン.....サァ.....シュゥ.....


門の内側で手を振るフローリア。

図書館も庭もなにもかも

すべてがゆっくりと霧の中へ消えて

幻花のように見えなくなった。


建物自体が空間移動しているのか

ワープホール的なものなのかは不明だけど

これだけの範囲をカバーするには

相当な魔力を消費するはずだ。


エレインの場合は魔力供給量が少ないから

その足りない分はフローリアが補うことになる。

だから彼女の夢を叶える力になりたくて

日々仕事に奔走しているのだろう。


色々な種類の花が咲くように

精霊と人との関係もまた様々なのだ。

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