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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第四章

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手紙


「お兄様、あのね……」


「何だい、ジャスミン?」


 明日はいよいよ出発となった夕方。私は勇気を出して、お兄様に切り出した。

 ずっとずっと気になってたこと。たぶん、みんなも気になってること。

 アマリも準備に忙しいのか、そばにいない今がチャンス。


「お兄様は……私の本当のお父さんのこと……知ってる?」


 部屋の空気が変わった私の質問。

 騎士のみんなもお兄様の答えを固唾をのんで待ってる。

 ううう。お腹が痛くなってきちゃうよ。

 本当は知るのが怖い。だけど、出発の前に知りたい。

 明日は見送りに王様が来てくれるから。


 王様はもう人前に出られるくらい回復したんだって。

 本当に良かった。

 実は王様とは前もってちゃんと会おうって話もあったんだけど、遠慮したんだよね。

 まだまだ考えたいことがいっぱいあるから。


「ごめんね、ジャスミン。僕ははっきりとは知らないんだ。陛下もご存じなかったから……。だけどひょっとして女官長なら――」

「アマリは知らないよ。だから……それならいいの。私こそ、ごめんなさい」


「いや……それよりもジャスミンはどうして、その……王妃様のことを知ってたの?」


「それは……」


 もっともな、お兄様の質問。

 あの時の衝撃は忘れられないよ。……うん、忘れてたけど。


「実は……お母様からお手紙が届いたの」


「王妃様から?」


 お兄様もみんなもすごく驚いてる。

 うん、私もすっごくビックリしたもんねえ。


「私が十六歳になって、明日は王様に会えるって……あの日にね、トリの長老が届けに来てくれたの」


「トリの長老?」


「うん。鳥さん達の長老で、もうすぐ三十歳になるんだって」


「確か、オオフクロウのウルと言ったね?」


「うん。ウル長老」


 聖域に暮らす動物さん達はとっても長生き。

 みんな代々この森を守ってくれてる誇り高い一族なんだって。

 その中でも特に長生きの動物さん達は長老って呼ばれてて、とっても物知りなんだよね。


「午後のおやつを食べた後にね、お昼寝しようかなって寝室に一人でいた時、長老が飛んできて渡してくれたの。〝十五歳、おめでとう″って」


「え……」


 メラクがきょとんとした顔で首を傾げた。

 うむむ。年上とは思えないほど、相変わらず可愛いなあ、もう。

 でも不思議に思う気持ちはわかる。私もそうだったもん。

 一年とちょっと遅れの誕生日祝いだったんだよね。

 

「ウル長老はね……ちょっと、たまに……ボケちゃうの。すごくおじいちゃんだから」


 夜になって神殿を抜け出した時、ネズミの姿で聖域に行こうとしてたら、危うく狩られそうになったことが何度かあったんだよね。

 一度、鋭い爪でガシッて掴まれた時には、痛かったなあ。

 まあ、ちょっと重かったみたいで、ウル長老は飛び立てなかったんだけど。うん、ちょっとだけ重くてね。

 あれ以来、猛禽類は本当に苦手になったんだ。


 思い出してしんみりしてたら、みんなが心配そうに見てた。

 そうだった。大切な話の途中だったのに。

 ちょっと姿勢を正して、こほんと咳払い。


「あの……うん。えっと、私がお腹にいる時、お母様が長老のところに来て、〝この子の十五歳の誕生日に渡して下さい″って預けたんだって。成人するまでにちゃんと……自分自身を知ってほしかったみたい」


「……だけど、その時だってその長老はいい年だよね? ずいぶんな賭けになるけど……」


「ああ、それについてはおそらく王妃様は大丈夫だと思われたんだろう。トリの長老は次の代への知識の継承が義務付けられているから。一応、次の長老も決まっているが、幸いウル長老はまだお元気で……ボケてるけど」


 リオトの疑問に、お兄様がちゃんと答えてくれた。

 と思ったら、最後の一言がおかしくて。

 笑うところじゃないのに、つい笑っちゃった。

 気持ちが軽くなった私に、みんなもほっとしてくれてるのがわかる。

 うん、みんながいるから、もう大丈夫。あの時とは違う。


「手紙にはね……色々なことがいっぱい書いてあって……でもね、……えっと……〝ごめんなさい″って。私にもみんなにも、いっぱい〝ごめんなさい″って書いてたの。お母様は王様のことも、お兄様のことも、ローズ様のことも大好きだって。だから〝ごめんなさい″って……」


 手紙のことを思い出したら涙があふれてきて、止まらなくなった。

 すると、すぐにミザールが私をぎゅっと抱きしめてくれる。

 ヴィーはいい匂いのするハンカチで涙を拭いてくれる。

 お母様がいないのは悲しいけど、私にはお姉さんみたいな素敵な騎士さんもいてすごく幸せ。


 前世のお姉ちゃんもすごく優しくて、お兄ちゃんが私に意地悪をするといっつも庇って怒ってくれた。

 ああ、そうだ。

 私はお母様がすごく恋しくて、王様に――お父様に会いたくて、お兄様ともっと一緒に遊びたくて、家族が欲しくて欲しくて。

 夢の中で家族と暮らしてたんだ。

 でもあれは夢じゃない。お父さん、お母さん、お姉ちゃんとお兄ちゃん、みんな私の家族。


「お母様はね、ずっと体が弱かったの。それなのに、私を産まないといけなくて、アマリは……。ううん、とにかく私にはいっぱい、いっぱい〝ごめんなさい″って」


 他にもたくさんのことが書いてあったけど、上手く言葉にできない。

 あの時は、すごくショックで、一番大切な言葉を無視してしまった。

 〝愛してる″って。

 お母様は私のことを愛してるって。〝ごめんなさい″よりもたくさんくれてたのに。

 私がパニックにならないで、ちゃんと受け止めていればよかったんだよ。

 すぐにパニックになる私の悪い癖で、最悪の大失敗。


「あのさ、ちょっと気になるんだけど……」


 私のせいでしんみりしちゃったところで、リオトの遠慮がちな声。

 リオトは私を見て困ったように微笑んで、それからお兄様に視線を向けた。


「さっき、〝はっきりとは知らない″って言ってたよね? だとしたら、大方の見当はついているってことかな?」


 あっ、そうだ。そういえばそうだったかも!

 と思って、涙も引っ込んじゃったけど、どうやらみんなはとっくに気付いてたみたい。

 なんだ、そういうことは早く言ってほしいな、もう。


「リオト、確かなことじゃないなら、あまり追求しないほうが……」


 メラクが心配顔で私を見る。

 そうか、みんな私の気持ちを優先させてくれてたんだ。

 本当に優しいな、もう。


「お兄様、私は知りたい」


「だけど……僕が勝手に当時の状況を調べて推測しただけだから……」


「それでもいい。だって、このままじゃ気になって、ご飯も食べられないよ」


「それは大変だな」


 私の訴えに頷いたのはファド。

 うん、ご飯が食べられないってとってもつらいもんね。

 お兄様はちょっと困ったように考えて、私を真っ直ぐに見た。


「僕が思うに……ジャンガ王国の――ネズミの国の方なんじゃないかな」


「ネズミの国?」


 って、あの夢の国?

 思わず頭に浮かんだお父さん像。まさかの隠し子発覚!?

 ううん、そんなわけないない。




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