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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第三章

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39/51

行方

 

 やっぱり、お尻のお肉が問題なんだよ。

 あと少しなのに。


「ジャスミン、ボクが変化して代ろうか?」


「ダメなの! すごくわかりにくい所に置いたから!」


 木の根っこと根っこの間のスペースから入って、更に奥の秘密の空間に隠したカギ。

 ネズミの姿だったら、すぐに取れるけど、人間の姿だとお尻がつっかえて奥までいけない。

 ふぬぬぬ。あと少しで手が届くのに。


 寝室にあるサイドチェストの一番上の引き出し。

 カギが掛ってるあの引き出しに銀色のカギは合わなかったけど、怪しいと思うんだ。

 力づくで開けちゃおうかって相談してた時に、新たなカギの場所を思い出して良かったよね。

 カギが掛ってるってことは、大切な秘密が入ってるはずだから。


 ここは森の中でも小動物さん達のお家が多いから、他のみんなには遠慮してもらってて、メラクと二人だけ。

 でも本当はちょっとした息抜きも兼ねてる。

 あのファドの驚きの発言の後に、アマリがすごく怒って大変だったんだよね。

 それ以来、アマリはずっと側にいて、今日の朝だって目が覚めたら枕元にいてビックリ仰天。

 こうしてメラクと二人きりになるのだって、かなり渋ってやっと許してくれたんだから。


 まあ、ファドの言ったことはちょっと違うって、ヴィーが後で教えてくれたんだけど。

 なんでも正式な結婚相手は一人だけで、他の人達は要するに公の愛人になるんだって。

 愛人って、すごいよね。

 さっきもファドがアマリの目を盗んで、結婚しようって言うから困っちゃったよ。


 たくさんの人と結婚するのはいけないことだと思うし。

 でもファドが言うには、たくさんの男の人に好かれるのは「悪い女」じゃなくて「良い女」なんだって。

 だから私は良い女だなんて。そんなの照れちゃうよね。テヘヘ。


 って、照れてる場合じゃなくて。

 もう少し。えいっ!


「取れた!」


 一生けんめい伸ばした指の先に触れた、冷たい金属をどうにか掴んで穴から体を起こす。

 手の中にあるのは、ちょっと汚れたカギ。


「ジャスミン、ほっぺたに泥がついてるよ。みんなの所に戻る前に落としておかないと、女官長が卒倒するかもね」


 クスクス笑ってメラクはポケットから手鏡とハンカチを出して貸してくれた。

 メラクっておしゃれさんなんだよね。

 ウサギさんの時も、毛づくろいは怠らなかったし、今だってネクタイをきちんとしてて、カッコ良くて可愛い。


 ドレスについた土埃を払っても全部は落ちなかったけど、良しとしよう。

 それからみんなの所に戻った。

 ヴィーとアマリはお話中。

 どうやら二人は上手くいってるみたい。

 確かにヴィーはアマリがいつも私に言うような素敵なお姫様みたいだもんね。

 すごく綺麗で上品で……女王様だけど。



   * * *



「開いた!」


 やっぱり思った通り、新しく見つけたのは引き出しのカギだった。

 開いた引き出しをそっと引く。

 ミザールもヴィーもアマリまでも、私のプライバシーを尊重してくれて、隣のお部屋で待っててくれてる。


 中に入っていたのは、数冊のノート。

 その表紙に大きく書かれているのは『幸せ日記』。


 そっか、日記をしまってたんだ。なるほどね。

 一番上の一冊を取り出して、読んでみる。

 ええっと……。


『 今日は朝からデザートにドライフルーツのプディングが出て、とっても幸せ。

  お昼ご飯はフワフワのオムレツでまた幸せ。

  晩ご飯は苦手な香味野菜の和え物が出て、ちょっとガッカリ。

  でも食後のアプリコットティーはおいしかったから、いっぱい幸せ。     』


 ……うん、ご飯のことしか書いてない。

 幸せ日記というか、献立表?

 パラパラめくっても、ずっとそんな感じ。

 以前の私って、食いしん坊だったんだね。


 ノートを全部出してみて、厚紙に貼ってある押し花を見つけてニッコリ。

 更にその奥に、小さな箱が二つあるのを発見。

 一つはすぐにわかった。

 ゆっくりふたを開けると、綺麗な石がいくつも入ってた。


 ウキウキ気分でもう一つの箱を手に取る。

 それはすごく繊細な彫刻がしてあるカギ付きの箱。

 間違いない。これこそあの銀色のカギが必要な宝箱だ!


 急いで大切なカギを別の引き出しから取り出して、開けようとしてふと思い付いた。

 せっかくなら、みんなの前で開けた方が素敵かも。

 この中にはきっと、行方不明の“恵みの種”が入ってるはずだから。


 思い立ったが吉日。善は急げ。

 宝箱とカギを持って、部屋から飛び出した。

 アマリも宝箱を見ると頷いてくれた。


「はい、間違いありません。姫様はずっとその小箱に種を仕舞っておられました」


 種があれば、ファドやメラクの国の困ってる人達を助けてあげられるかも知れない。

 それに何より、私の記憶が戻るかも知れない。

 なんだか心も軽くなって、カイドやリオト達が待ってる会議室に向かった。


 みんなが見てる中で、ワクワクしながら宝箱の鍵穴に銀色のカギを差し込む。

 小さなカギはカチリと小さな音を立てて、クルリと回った。

 そっと蓋を開けると、みんなもそっと覗き込む。


「……あれ?」


 思わず声が洩れちゃったのは仕方ないよね。

 想像してたのと違うんだから。

 お兄さんは七色に輝いていたって言ってたけど、普通の石に見えるよ。

 確かに、星の形はしてるけど。


 でもこの星型の石は見覚えがある。

 えっと、なんだっけ……。

 うむむと考えてると、みんなの反応を訝って、アマリがチラリと箱を覗いて悲鳴じみた声を上げた。


「まさか、そんな! これは……種ではありません!」


 やっぱり違ったんだ。

 今にも気絶しそうなくらい、アマリの顔は真っ青。

 大丈夫かな? 

 ああ、でもあと少しで私の記憶を捕まえられそう。


 星の形をした石。とっても綺麗な私のお気に入り。

 そう、そうだ。あの子がくれたんだ。

 それで……それから……。


「あ! 思い出した!!」


「種の在り処か?」


「うん!」


 ファドの期待に満ちた質問にはっきり頷いた。

 前世の記憶とごっちゃになってたよ。

 これは神殿の森で、あの時もらったんだ。

 それで……それから……。


「恵みの種は、シリウスにあげちゃった!」




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