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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第三章

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兄妹


「ジャスミン」


「カイド!?」


 衝撃の事実にビックリしてたら、いきなり後ろからカイドに声をかけられてあたふた。

 どうしよう!? 今の聞いてたかな!?

 だけどヒョウさん姿のカイドはいつもと変わらず優しい。


「黙って抜け出したら危ないだろう?」


「……ごめんなさい」


「いや、無事ならいいんだ。女官長に見つかる前に戻るぞ」


「うん」


 どうやら聞かれなかったみたいで、ホッとひと安心。

 だって、カイドに嫌われちゃうのはつらくて悲しいもん。


「ジャスミン、私の背に乗れ」


「え?」


 カイドは私の赤くなった足を見て、屈んでくれた。

 でも今の私は人間だから、すごく重いと思う。


「ダメだよ、カイド。だって私、きっと重いよ」


 うむむむ。やっぱりちゃんとダイエットしとけばよかった。

 昨日は寝る前にアップルパイを三切れも食べちゃったんだよね。大失敗だよ。

 けど、カイドは小さく笑うだけ。


「何を言ってるんだ? ジャスミンは軽いくらいじゃないか」


 なんて幸せな言葉。

 そっか、考えてみたら、今まで何回も抱っこしてくれてるもんね。

 でもカイドは大きいから、そう思うだけなんじゃないかな。

 だからダイエットは頑張ろう。

 なんとなく大きく息を吐いて、止めて。

 パジャマ……ネグリジェの裾を持ち上げて、よいしょとカイドに跨る。

 すると、ちょっと驚いたみたいに、カイドの背中がこわばった。


「やっぱり重たい?」


「いや、違う。その、ジャスミン……できれば、横向きで乗ってくれないか?」


「ああ! ごめんなさい。お行儀悪いよね!」


 また大失敗だよ。

 もしアマリに見つかったら、すごく怒られちゃうもんね。

 カイドは本当に優しいなあってしみじみしてたら、神殿の裏口ではミザールが私の上着と靴を持って、待っててくれた。


「女官長がもうすぐジャスミンの部屋に訪れるはずだって、女官達が心配しているわ。さあ、早く」


「うん!」


 たいへん、たいへん!

 早くお部屋に戻らないと、抜け出したことがばれたら、お説教で朝ご飯が遅くなっちゃう。

 ううん、それどころか、朝ご飯は抜きなんてなったら、耐えられないよ。


「カイド、ありがとう!」


 急いでお部屋に戻って、待ち構えてた女官さん達に着替えを手伝ってもらう。

 そこへ、アマリ登場。

 なんとか間に合って良かった。


「姫様、おはようございます」


「おはよう、アマリ」


「……今日の髪飾りは、オークの葉になさるんですか?」


「え?」


 アマリは私の髪の毛に絡まってた葉っぱを取り上げて、大きく溜息を吐いた。

 うう、またまた大失敗だ。

 女官さん達が申し訳なさそうに私を見てる。

 みんなが悪い訳じゃないのに。


 だけどアマリはもう一度大きく溜息を吐くと、着替えのお部屋から出て行った。

 ばれなかったのかな?

 うん、きっとそうだね。良かった。


 朝ご飯の後は、行儀作法のお勉強をいつもより厳しくおさらい。

 ああ、お腹すいたなあ。

 お昼ご飯は何だろう? 楽しみだよねぇ。



   * * *



「あ、そうだ! あのね、アマリ。今日の朝、素敵な場所に行ったの!」


 風に舞って、白い花びらが飲んでた紅茶に一枚浮いた。

 それで後ろに立ってるアマリに振り向いて声をかけたんだけど、カイドはちょっと困った顔をして、ミザールは笑いを堪えてる。


「……今日の朝……ですか?」


「う、ううん! あの、素敵な場所に行った……夢を見たの!」


 あぶない、あぶない。

 もう少しで、森に行ったのがばれちゃうところだったよ。

 今は中庭でアフタヌーンティーをみんなで楽しんでるところ。

 アマリも一緒にお茶を飲んだらいいのに、側にいるだけなんだよね。


「あのね、そこには白くて小さなお花がいっぱい咲いててすごく綺麗だったの。それで思い付いたんだけど、王様にそのお花をお見舞いで贈るのは――」

「なりません」


「……ひょっとして、王様は花粉症なの?」


「花粉、ショウ?……とにかく、王妃様のお花を贈るなど、あの女が許すはずがありません」


「……あの女?」


 なんだかアマリらしくない物騒な言い方。

 それにアマリはあの白くて小さなお花のことを知ってるんだ。

 カイドもミザールもヴィー達も黙り込んじゃって、不思議に思ってたら、お兄さんの声がふいに聞こえた。


「女官長、今の言い様は聞き捨てならないね」


「おに、お兄様!」


 お兄さんもお茶会に参加してくれるのかな?

 嬉しいな……って、雰囲気じゃないね。

 前から思ってたけど、お兄さんとアマリもあんまり仲良くないみたい。


「……殿下、大変失礼致しました」


「まあ、君が許せないのは知っているけど……ローズ妃は僕の母なんだ。せめてうわべだけでも、敬意を払って欲しいね」


「……お、お兄様の、お母さん?」


「そう、僕の母とジャスミンの母君は違うからね」


 いまいち理解できない私に、お兄さんは用意された席に座って教えてくれた。

 お母さんが違うって、だから私とお兄さんは全然似てないのかと納得。


「そうなんだ……」


 日本でも昔はお殿さまとか偉い人は奥さんがいっぱいいたって、テレビで見たことがある。

 それと一緒なのかな。

 うむむと黙り込んでしまった私に気遣ってか、カイド達だけじゃなく、小鳥さん達もすっかり静かになってた。

 そこに響く、ファドの明るい声。


「姫! 姫だって、夫を一人に決めないといけない訳じゃないぞ!」


「え?」


「だからカイドだけじゃなく、俺とも婚約しよう! な?」


「……ファドとも?」


 なんで? どういうこと?

 婚約って、結婚って、私の知ってるものと違うの?

 何がなんだかさっぱりわからないよ。




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