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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第三章

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約束


「……おに、お兄様はすごく忙しいんだね」


 今日の晩ご飯もみんなで食べようって、大きいお部屋に集まったけど、お兄さんはいなかった。

 私とお兄さんって、あんまり仲は良くないみたいで、すごく寂しい。


「あのね、ジャスミン。今はベンジャミン王が……お加減が悪いらしくて、メグレズ殿が国政を担っていらっしゃるから……」


「ええ!? お、王様って私のお父さんでしょ!? それじゃあ、お見舞いに行かないと!!」


 ヴィーが教えてくれたことにビックリ仰天。

 ここで呑気に、アップルパイおいしいなあって、幸せにひたってる場合じゃないよ。

 なんで私ってば、今までお父さんのこと気にしなかったんだろう。

 王様は薄情な娘だって泣いてるかも知れない。


「こ、このアップルパイを包んでもらって、お見舞いに――」

「姫様、そのようなことは必要ございません」


 慌てて立ち上がった私を止めたのは、アマリのすごく冷たい声。


「……ひょっとして、王様って甘い物が食べられない病気なの?」


 世の中にはそんな恐ろしい病気もあるんだよね。

 好きな物を食べられないって、すごく悲しくてつらいもん。

 だけど、アマリの返事はない。


「ま、まさか、王様って……アップルパイが好きじゃない?」


 こんなにおいしいのに。

 パイ生地がサクサクってして、りんごの甘さがジュワジュワってして、最高だよね。

 あと、パンプキンパイも大好き。

 だけど、アマリの様子を見ると、そういう訳でもないみたい。


「じゃあ、王様は何が好きなのかな?」


 お父さんの好きな物も覚えてないなんて。

 前世のお父さんは奈良漬が好きだったんだけど、ここにはないよねぇ。

 アマリの答えを待ってみたけど、やっぱり返事がない。ひょっとして知らないのかな?


「えっと、ここは定番の果物の盛合わせとか……」


「姫様、陛下は姫様にお会いになることはございません」


「……病気だから?」


「陛下は、今まで一度も姫様にお会いしたことはございません」


 アマリの声には怒りが滲んでる。


「はあ? マジかよ」

「何それ?」


 ファドやメルクの驚いた声が聞こえる。

 でもなんでだろう。私は普通に受け入れてる。ああ、そうなんだって。

 ただ胸の奥がすごく苦しくて、もうアップルパイも食べられそうにないよ。


「女官長、何も今そこまで言う必要はないだろう?」


「カイド、いいの。いつものことだから。……あの、ごちそうさまでした」


 気遣ってくれるカイドにも、みんなにも何だか悪くて、持ったままだったフォークを置いた。

 そうしたらミザールまでフォークを置いて立ち上がった。


「私ももうお腹いっぱいだから、一緒に部屋に戻りましょう?」


「では、私はこのアップルパイを包んでもらいますわ。後で夜のお茶会でも致しましょうね?」


 ミザールの温かい言葉、ヴィーの甘い誘惑。

 みんなの優しさに、涙が出そうになるよ。

 だけど泣かない。

 これ以上は心配かけたくないから、笑うんだ。


「うん、ありがとう! じゃあ、カイド、リオト、メルクとファド、また明日!」


 お父様に会えなくても平気。慣れてるから。

 それに、私には大切な友達がたくさんいるもん。

 お部屋に戻ってからの女子会だって楽しかった。

 ダイエットは……うん、明日から頑張る。


 みんなにおやすみを言って、パジャマに着替えて、寝室に入る。

 編みぐるみをベッドにいっぱい集めれば寂しくない。

 優しいカイド達や楽しい動物さん達と明日も遊ぼう。

 あと、勉強もしないとね。


 目を閉じれば、すぐに夢の中。

 それは約束の場所でした約束。

 もう寂しくないねって笑ったんだ……。



   * * *



 目が覚めた時には、心がすごく温かくなってた。

 それではっきり思い出した。約束の場所。

 そうだ、あの場所だ!


 居ても立ってもいられなくて、パジャマのままで窓からお外に飛び出した。

 裸足だし、朝露に体が濡れて、ちょっと寒いけど走ってたら体も心と同じようにあったかくなった。


 早起きの小鳥さんや動物さん達と一緒に目的地に到着。

 ここは私が初めて種を蒔いた場所。

 お母様と同じ名前のすごく可愛いお花がいっぱい咲いてる。


「あれだ……」


 白くて小さなお花に囲まれた、緑の大きな木。

 あの木の“ほら”に隠した大切なカギ。

 裸足のままで、ちょっと登って“ほら”を覗く。


「あった!」


 手の中にすっぽり収まる小さな銀色のカギ。

 あの子の髪の毛みたいにキラキラ光って、とっても綺麗。


「むふふふ」


 おっと、嬉しくて声に出ちゃった。

 ……で、これって何のカギだっけ?

 見つけることに夢中だったけど、何のカギかは思い出せない。

 困ったな。

 うむむむ。動物さん達なら知ってるかな?


「ねえねえ、みんな。これって何のカギか知ってる?」


 木からよいしょって降りて、集まって来てた動物さん達に訊いてみる。

 すると、動物さん達はみんな笑って大きく頷いた。


「知ってるよ! それは約束のカギなんだって!」

「そうそう! 姫様とシリウス様の約束!」

「ここで二人は約束したんだよね!」


「……シリウス?」


 予想外の答えにビックリ。

 まさかその名前が出てくるとは思ってなかったよ。

 それに……それから……。


「……約束?」


「うん! 二人はけっこんしようって、約束したんだよね!」


「え……ええ!?」


 けっこんって、結婚!? そんな……じゃあ、カイドは!? 

 これって、二股!? それっていけないことだよね!?

 ど、どうしよう……。


 私、悪い女になっちゃった!!




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