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ネズミの姫と七星の騎士  作者: もり
第二章

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出会


「ちょっと! いい加減、隠れてないで出てきなさいよ!!」


 何かおかしいと思ってたんだよね。

 最初の森からずっと同じ足音が少し離れてついて来るんだもん。

 でも危険な感じはしないし、たまたま目的地が一緒なだけかと思ったけど、それなら夜明け前にこの森に着いてから私が休憩してた間にどっか行くよね?

 なのに、付かず離れず後を追ってくるなんて、失礼だよ。

 まるでストーカーみたい。


 こういう場合は、断固とした態度で接しないとダメだって聞いたことがある。

 あ、でも逆上することもあるので相手を見極めましょうとも言ってたような?

 うむむむ。そんなのムリだよ。

 どうしよう? 今のきつすぎたかな? 怒ったりしてないかな?


「えっと……何かご用でしょうか?」


 ドキドキしながら言い方を変えてみる。

 すると、さっきまでガサゴソ動いてた茂みから、ヒョコリと長いお耳がのぞいた。

 それからゆっくり現れた、フワフワの毛に大きな黒い目のウサギさん。


「かわいいー!!」


 思わず叫んじゃったら、ウサギさんはビクリとして固まった。

 驚かせちゃったかな?

 ウサギさんは怖がりだって聞いたことあるけど、仕方ないよね。

 だって、すごくかわいいんだもん。

 柔らかそうな長いお耳に、クリーム色のフワフワの毛、ちょっと潤んだ真っ黒の大きな瞳。

 体格はデブっちょの私よりもいいけど、なんだか頼りない感じ。


「あの……ボク、姫様が聖なる森に向かってるって聞いて、一緒に行きたいなって……」


「一緒に?」


「うん。……ダメかな?」


 ダメって訊かれても、困っちゃよ。

 聖域には一人で辿り着いてこそ、カッコいいと思うんだけどな。

 うーん。でもまあ、いっか。

 旅は道連れって言うし。一人よりきっと楽しいよね。

 よし、決めた。


「いいよ」


「ホント?」


「うん!」


 途端に不安そうだったウサギさんの顔が明るく輝いた。

 男の子なのに、なんて可愛いんだろう。

 こっちまで笑顔になっちゃうよ。


「お名前はなんて言うの? 私はジャスミンね」


「ボクは……メラク」


「じゃあ、メラクって呼んでいい?」


「……うん、もちろん」



 それからは、メラクとたくさんのお話をしながら旅をした。

 メラクはすごく物知りさんで、とっても勉強になって本当に楽しかった。

 だけど、あともう少しで聖なる森に到着ってところで突然の雨。

 私達は慌てて森の手前の岩場で雨宿りをした。


「止まないねぇ」


「そうだねぇ」


 一緒にお空を見上げて呟く。

 メラクは雨が苦手なんだって。

 もちろん私も嫌い。濡れネズミになっちゃうと、力も出ないし、病気にだってなりやすいからね。


「……ボクの国では、昔から雨は少なかったけど、ここ数年はほとんど降らなくて困ってるんだ」


「メラクの国?」


 唐突に始まったメラクの話にちょっとビックリ。

 でも今まで以上にすごく大切なお話だと思うから、しっかり耳を傾けた。

 メラクの声は小さくて、雨の音に消されてしまいそうだよ。


「コニリオって言う、ここからはかなり遠いウサギが守護獣の国。でも、アグリア国は逆に雨ばかりで大変みたい。まあ、他の国でも似たようなものだけど、特にロウヴォ王国が酷いらしいんだ」


「ロウヴォ王国が……」


 ずっと悪い国だと思ってたロウヴォ王国の現状。

 実り豊かな聖国を狙うのはそのせいなのかな。

 って、あれ? それは違うんだっけ?

 なんだか混乱してきちゃったよ。


「この辺りは聖域に近いから、実感はあまりないかもしれないけど、大地はもう何十年も前から少しずつ衰えていて……。だから、女神様の誕生をみんなが待ちわびていたんだ。それで二十六年前にアグリア国で騎士の証である星を持ってファド王太子が生まれた時には世界中が歓喜したんだよ。女神様の誕生も近いってね」


「星を……持って?」


「うん。七星の騎士の胸の中心には、星の形をしたアザが生まれながらにあるんだ。そしてようやく……十六年前に女神様が生まれた。伝承通り、聖国の王家からね。だけどベンジャミン王は、女神様として生まれた姫君を神殿に隠してしまった。成人するまでは騎士達にさえ対面の必要はないとおっしゃって。それでも仕方ないと、みんな姫君の健やかな成長を願い、十六歳を迎えるまで待ったんだ。それはとても……とても長い時間だったよ、ジャスミン」


 真っ直ぐに私を射抜く大きな黒い瞳は怖いくらいに真剣で、今まで可愛いとしか思えなかったメラクがとても力強く見えた。

 立ち上がったメラクの胸元は少しだけ毛色が違って、星の形みたい。

 確か、カイドがヒョウになった時にも同じように星型に毛色が違った気がする。

 それにファドの裸の胸にも……うん、あれは忘れよう。

 だけど、また胸が苦しくなってきた。

 頭の中がグチャグチャでよくわからない。


「私……私は……」


 なんだか急に息苦しくなって、上手くしゃべれなくて、とにかくここから逃げ出したくて。

 思わず後ろに下がった時、ピリピリと肌を刺すような視線を感じて私はハッと振り向いた。

 いつの間にか小降りになってた雨の中で、雲間から差し込み始めたおひさまの光が、綺麗な銀色のシルエットを照らし出してる。

 それは少し離れた崖の上に立つ、すごく大きなオオカミさん。


「ジャスミン!」


 メラクが切迫した声で逃げるようにと呼びかけた。

 でも私には大丈夫ってわかる。

 ネズミの時にはあまり視力は良くないはずだけど、私の目には優しい灰色の瞳がはっきりと映っているからかな。


 さっきまでのグチャグチャな気持ちも落ち着いてきた。

 それはまるでカイドに背中を軽く叩かれているような、安心できてどこか懐かしい感じ。

 不思議に思いながらジッと見ていると、銀色のオオカミさんはふっと目を逸らしてそのまま去って行ってしまった。

 この感覚はなんだろう?

 どこか夢の中にいるような、とってもふわふわした気分だよ。




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