第9話「見た目は最悪、成果は最高」
ギルドの扉を押し開けた瞬間。
――ざわっ。
視線が、一斉に集まる。
「……なんだあれ」
「頭……何乗せてんだ……?」
そりゃそうだ。
頭にはスパメット。
腰にはムカデラ。
胸にはゴキジェット。
そして――
「よっと」
肩から、大きな袋を担いでいる。
サンタみたいなやつだ。
「……重っ」
でも顔は笑っている。
中身を知ってるからな。
受付へ向かう。
受付嬢が顔を上げる。
そして――
「……ひっ」
小さく悲鳴を上げた。
視線は、俺の頭。
当然だ。
どう見ても。
どう見ても“クモ”。
しかも、でかい。
しかも――
ぴくっ。
「……い、今……動きましたよね?」
「ん?」
俺は軽く叩いた。
「これ?ヘルメットだよ」
「……ヘルメット?」
「魔物も驚くヘルメット。露店で売ってた」
適当だ。
だが、押し切る。
スパメットは――
ぴたりと動きを止めた。
(……空気読むなぁ)
「……そ、そうですか……」
受付嬢の目が死んでいる。
でも、それ以上は突っ込まない。
「で」
俺は袋を持ち上げる。
「角ウサギ、狩ってきたぜ」
ドサッ。
カウンターに置く。
「……はい?」
受付嬢が固まる。
「見てみ」
袋を開ける。
中から――
ずらり。
角ウサギ。
「……え」
「全部で十八匹」
沈黙。
「……は?」
周囲がざわめく。
「十八って……」
「一日でか?」
「ありえねぇだろ」
受付嬢が、震える手で一匹持ち上げる。
「……本物……」
確認する。
もう一匹。
さらに一匹。
「……全部……」
顔を上げる。
「……本当に、十八匹……?」
「おう」
俺は頷く。
「ちゃんと狩った」
間違ってない。
やったのはムカデラだけど。
「……どうやって?」
来たな。
「普通に」
にやりと笑う。
「突っ込んでくるから、タイミング合わせてドン、ってな」
嘘は言ってない。
“ちょっと”省略してるだけだ。
「……」
受付嬢は何も言えない。
だが、周囲は違う。
「そんなわけあるか」
「絶対なんかやってる」
「トリックだろ」
ざわざわと疑いの声が広がる。
「……別にいいけど」
肩をすくめる。
「結果出てるだろ?」
シンプルに言い返す。
ぐうの音も出ない。
「……騒がしいな」
低い声。
人が割れる。
出てきたのは――ギルド長。
「……またお前か」
「どうも」
軽く手を上げる。
ギルド長は袋を見る。
「……多いな」
「だろ?」
一匹手に取る。
じっと観察する。
「……傷が少ない」
「え?」
「普通なら、斬撃の跡が残る」
ぎくっ、とする。
「だが、こいつらは……」
眉をひそめる。
「……妙に綺麗に死んでるな」
「……」
まずい。
これはまずい。
(毒、バレるか?)
数秒の沈黙。
長い。
長い時間。
そして。
「……まあいい」
「え?」
「依頼は討伐だ。方法は問わん」
またそれか。
「数も合っている。達成だ」
「……助かる」
内心ほっとする。
「報酬を出せ」
「は、はい!」
受付嬢が慌てて動く。
チャリン、チャリン。
金が積まれる。
「……すげ」
思わず見とれる。
「銅貨三十枚×十八……」
「……五百四十枚です」
「……やば」
にやける。
「……またやらかさないようにしろよ」
ギルド長がぼそっと言う。
「……何を?」
「無駄遣いだ」
「……」
図星すぎる。
「……気をつけます」
素直に頷いた。
周囲の視線は、まだ消えない。
「……あいつ、なんなんだ」
「気持ち悪いけど……強くね?」
ひそひそ声。
前とは違う。
ただの笑いじゃない。
「……」
俺は軽く笑う。
「……まあ、いいか」
頭に手をやる。
スパメットは、しっかりと乗っている。
腰にはムカデラ。
胸にはゴキジェット。
「……見た目は最悪だけどな」
小さく呟く。
でも。
「……稼げるなら、なんでもいい」
金を握る。
確かな重み。
「……次も行くか」
振り返る。
ギルドの扉へ。
視線を背中に受けながら――
俺は、また外へ出た。




