第8話「2年前、何もできなかった俺」
――2年前。
教会は、静かで、やけに神聖だった。
「さあ、職業を選びなさい」
神官の声が、やけに大きく聞こえる。
前に並ぶ同年代のやつらは、みんな真剣な顔をしていた。
「……俺は」
迷いは、なかった。
「テイマーで」
周囲がざわつく。
「お、いいな」
「モンスター使えるやつだろ?」
少しだけ、誇らしかった。
“仲間を増やす職業”。
“強い魔物を従える職業”。
なんか、かっこいいじゃないか。
神官が頷く。
「よろしい」
光が、降りる。
その時の俺は――
これが“失敗”だなんて、これっぽっちも思っていなかった。
テイム専門学校。
「はい、じゃあ各自テイムしてみましょう」
先生が軽く言う。
目の前には、小型の魔物。
簡単なやつだ。
「……テイム」
魔法をかける。
反応なし。
「……あれ?」
もう一度。
「テイム」
反応なし。
隣を見る。
「よし、成功!」
「俺も!」
次々と、周囲は成功していく。
「……え?」
焦る。
「テイム、テイム、テイム……!」
何度やっても――
何も起きない。
「……おい」
背後から声。
先生だ。
「何回やってる?」
「え、いや……」
「まだできてないのか?」
笑われる。
「基礎だぞ、それ」
「……すみません」
「向いてないんじゃないか?」
その言葉が、妙に刺さった。
それから。
できない。
何度やっても、できない。
「またミトリー失敗してる」
「マジで一回も成功してなくね?」
笑い声。
「……」
無視するしかない。
でも。
「……テイム」
何も起きない。
「……なんでだよ」
小さく呟く。
答えはない。
半年。
一年。
一年半。
何も変わらなかった。
「……じゃあ次、野外学習な」
先生が言う。
「今日は“羊”をテイムしてもらう」
簡単なはずだ。
おとなしい。
危険もない。
「これくらいできないと、話にならんぞ」
笑いながら言う。
「……」
俺は、前に出た。
目の前に羊。
「……テイム」
魔力を流す。
沈黙。
「……」
もう一度。
「テイム」
――反応なし。
その瞬間。
ドンッ!!
「ぐはっ!!?」
腹に衝撃。
吹っ飛んだ。
地面に転がる。
「いっ……!」
息ができない。
「おいおい、蹴られてんじゃねーか」
「テイムどころじゃねーな」
笑い声。
遠くで聞こえる。
視界がぼやける。
「……」
何も言えなかった。
目が覚めたのは、ベッドの上だった。
「……ここは」
「医務室だ」
先生がいた。
「全治二週間だな」
「……そうですか」
「まあ、いい機会だ」
淡々とした声。
「向いてないことは、早めにやめた方がいい」
「……」
「このままいても、時間の無駄だぞ」
静かに、言われた。
その日。
俺は、学校を辞めた。
誰にも引き止められなかった。
数日後。
ギルド。
「冒険者登録、お願いします」
「職業は?」
「……テイマーです」
少しだけ、迷った。
でも――
「変える理由も、ないしな」
環境が変われば、何か変わるかもしれない。
そう思った。
でも。
「……テイム」
何も起きない。
何度やっても。
何度やっても。
「……くそ」
拳を握る。
「……なんでだよ」
できない理由が、分からない。
「……教会が間違えたんじゃねーのか?」
ぽつりと、こぼれた。
本気で思った。
「……俺、テイマーじゃないだろ」
でも、他に何もない。
だから――
「……やるしかねぇんだよ」
続けるしかなかった。
結果は、変わらないのに。
――そして今。
「……」
林の中。
俺は立っている。
腰にはムカデラ。
頭にはスパメット。
胸にはゴキジェット。
「……できてるじゃねぇか」
ぽつりと呟く。
あの時、できなかったことが。
今は、当たり前のようにできている。
「……虫だけどな」
苦笑する。
「……なんだよ、それ」
でも。
少しだけ。
「……まあ、いいか」
前を見る。
やることは変わらない。
「……稼ぐぞ」
小さく笑った。




