第10話「再会、そして温度差」
――普通の宿。
「……いい」
ベッドに座って、俺はしみじみ呟いた。
きしみがない。
シーツがちゃんとしてる。
壁もまとも。
「……これだよ、これ」
机の上には、銅貨の山。
「百二十枚……」
指でつつく。
ちゃりん、と音がする。
「……軌道に乗ったな、これ」
にやりと笑う。
昨日まで銅貨一枚だった男とは思えない。
「……調子に乗ってもいいだろ、これくらい」
小さく言い訳する。
食事は露店で買ってきた。
串焼き。パン。スープ。
「……うま」
もぐもぐ食べる。
部屋で。
「……まあ、連れてけないしな」
ちらっと見る。
胸元のゴキジェット。
腰のムカデラ。
頭のスパメット。
「……食堂連れてったら、確実にパニックだな」
想像できる。
店員が悲鳴。客が逃げる。
「……やめとこう」
平和が一番だ。
翌日。
ギルド。
依頼表の前に立つ。
「……次どうするか」
指で紙をめくる。
その時。
「よう!!ダメトリーじゃねぇか!!」
でかい声。
「……」
振り返らなくても分かる。
この感じ。
この声。
このウザさ。
「……ワリーダ」
ゆっくり振り返る。
「おい!聞いてんのか――」
言いかけて、止まった。
「……ひぃっ!?」
後ずさる。
顔が引きつる。
「……な、なんだそれ……」
視線は、俺の頭。
スパメットだ。
「ん?」
俺は一歩近づく。
「なんか文句あるか?」
顔と顔の距離が近い。
ワリーダの目が泳ぐ。
(近い近い近い!!)
(ていうか頭のそれ動いてないか!?)
内心パニック。
でも強がる。
「……い、いや……」
もう一歩近づく。
「言えよ」
「……いやマジで近いって!!」
思わず一歩下がるワリーダ。
「……で?」
俺は腕を組む。
「何の用だよ」
「……あ、ああ!」
思い出したように咳払い。
「お前、冒険者なのか?」
「そうだが?」
「ランクは?」
「Fだ」
一瞬の沈黙。
そして。
「Fぅ!?」
爆笑。
「わはははははは!!」
周囲の視線が集まる。
「お前見た目はすげぇのにFかよ!!」
びしっと指をさす。
「小学生レベルじゃねぇか!!」
ぴくり、と空気が動く。
近くにいたFランク冒険者たちが、じろっと睨む。
「……あ?」
「……言い過ぎだろ」
「……」
ワリーダが一瞬ひるむ。
「……な、なんだよ」
視線をそらす。
俺は、ため息をついた。
「……で、お前は?」
「俺か?」
すぐに調子を取り戻す。
胸を張る。
「俺は今――Bランクパーティ、『ナイアガラダッシュ』所属だ!」
ドヤ顔。
「どうだ?」
「……」
一瞬、間。
「……それは良かったな」
俺はあっさり言った。
くるっと向き直る。
依頼表に目を戻す。
「……は?」
ワリーダが固まる。
「おい?」
反応が薄すぎる。
「おいおいおい!!」
肩を掴まれる。
「話してる途中だろ!?」
「……」
振り払う。
「……俺は」
紙を指さす。
「忙しい」
一言。
ぴしっと空気が止まる。
「……は?」
ワリーダの顔が歪む。
「……なんだよそれ」
イラついた声。
「つまんねぇ男だな、お前!!」
吐き捨てるように言う。
「……」
俺は何も言わない。
「ふん!」
踵を返す。
そのまま去っていく。
しばらくして。
「……」
俺は小さく息を吐いた。
「……Bランク、か」
正直、すごい。
普通に。
「……でも」
依頼表を見る。
「……今の俺、負けてるか?」
ぽつりと呟く。
答えは、すぐに出た。
「……いや」
にやりと笑う。
「……稼げてるしな」
現実的だ。
金。成果。
それがすべてじゃないが――
「……悪くない」
紙を一枚剥がす。
「次、行くか」
頭のスパメットが、わずかに動いた気がした。




