第11話「見えないカードと、見えてしまう俺」
依頼表を見て、俺は眉をひそめた。
「……賭場の実態調査?」
内容はこうだ。
――マフィア組織の違法賭場に潜入。
――客層、人数、管理者の人数を調査。
「……めんどくさそうだな」
だが、報酬は悪くない。
「……やるか」
紙の端を見る。
「……“キンドルの紹介だと言えば入れる”?」
つまり。
「……内通者か?」
味方……なのか?
「……まあいい」
考えても分からん。
街はずれ。
古びた倉庫。
「……ここか」
三階へ上がる。
扉の前に、男が立っていた。
「……誰の紹介だ」
「キンドル」
一瞬の沈黙。
そして――
「……入れ」
扉が開いた。
(マジで通るのかよ)
中。
「……おぉ」
思わず声が漏れる。
広い。
煙。酒。ざわめき。
そして――人。
(多いな)
ざっと見て。
「……客、五十くらいか」
周囲を見る。
「……貴族、商人……」
服装がいい。
それに。
「……女もいるな」
高級そうなドレス。
「……やばい匂いしかしない」
貴族が絡んでる。
つまり、下手に動くと終わる。
「……慎重にいくか」
さらに観察。
「……ディーラーは……」
数える。
「……十五」
思ったより多い。
「……管理もそれなりにいるな」
視線を感じる。
監視もいる。
「……抜け目ない」
テーブルを見て回る。
「……ルーレット」
「……コインカップ」
「……三枚ポーカーか」
足が止まる。
「……」
ちょっと興味ある。
「……まあ、少しだけなら」
気づけば座っていた。
「チップをどうぞ」
「銅貨二百で」
「はい、十八枚です」
「……なるほど」
(銅貨一割抜きか)
しっかりしてるな。
席は五人。
俺を含めて四人と、ディーラー。
「では配ります」
カードが三枚。
「……」
ルールは簡単。
交換は有料。
最後に一人だけ勝ち。
「……よし」
カードを見る。
「……弱いな」
ブタ。
どうしようもない。
その時。
(……使うか)
胸元に意識を向ける。
(ゴキジェット)
小さく囁く。
(……他のカード、見れるか?)
一瞬。
――すっと、感覚が変わる。
「……っ!?」
視界じゃない。
頭の中に、映像が流れ込んでくる。
(……見えてる?)
向かいの席。
女。
その手札が――
「……クイーン三枚」
(スリーカード……!?)
強い。
いや、強すぎる。
「……勝てねぇな」
即判断。
「俺は降りる」
チップを引く。
「……」
女も、静かにチップを引いた。
(……あいつも降りた?)
いや。
違う。
(……演技だ)
分かる。
勝ってるやつの余裕。
残り三人。
「交換する」
「俺も」
どんどんチップが積まれる。
「……ストップ!」
隣の男が叫ぶ。
「勝負だ!」
カードを出す。
「ダイヤの3、スペードの4、ダイヤの5!」
ニヤリと笑う。
「ストレートだ!!」
「おぉ……」
ざわつく。
他の二人も出す。
ワンペア。
普通。
「……」
俺はブタ。
勝負にならん。
その時。
「……じゃあ、私も」
女がゆっくりカードを置く。
「クイーン、三枚」
静かな声。
一瞬。
沈黙。
「……は?」
男の顔が固まる。
「スリーカードよ」
微笑む。
「……総取りね」
チップをさらう。
「……」
(やっぱりな)
俺は内心で頷く。
席を立つ。
「……面白いな、これ」
でも。
「……危ねぇ」
確信する。
これは――
「情報戦だ」
知らなければ、勝てない。
だが。
「……俺、見えてるんだよな」
ぽつりと呟く。
胸元。
ゴキジェットは、静かにいる。
「……これ、やばくね?」
にやりと笑う。
勝てる。
確実に。
だが――
「……やりすぎたら、殺されるな」
冷静に判断する。
ここはマフィアの縄張り。
バレたら終わり。
「……ほどほどにしとくか」
そう言いながら。
もう一度、テーブルを見る。
「……あと一回くらい、いいか」
完全に調子に乗っていた。




