第12話「見えてしまった“ズル”と、折れるかもしれない腕」
「……もう一回だけ」
俺は席に座り直した。
さっきの勝ち。
七十五枚。
「……ぼろもうけやん」
にやける。
ビギナーズラック。
それに――
(ゴキジェット)
こいつの力。
完全に“見えてる”。
「……いけるな」
カードが配られる。
ゴキジェットは、気づかれないように飛び回る。
薄暗い店内。
誰も気にしない。
全員、カードしか見てない。
(……よし)
頭に情報が流れ込む。
俺は――6のワンペア。
左の男――3のワンペア。
右の男――9のワンペア。
女の隣――10のワンペア。
そして――女。
(……ブタ?)
意外だ。
さっきは強かったのに。
「……まあいい」
様子を見る。
コインが積まれる。
どんどん。
誰も降りない。
(……なるほど)
これは。
「……スリーカード勝負だな」
全員、狙ってる。
交換。
また交換。
コインが減る。
空気が重くなる。
「……ストップ」
女の隣の男が言う。
カードを出す。
「10のスリーカードだ」
「……おぉ」
ざわつく。
強い。
かなり強い。
(……ここまでか)
俺はチップを引いた。
「降りる」
冷静に。
無理はしない。
だが。
「……じゃあ、私も」
あの女がカードを出す。
「……キングのスリーカード」
静かな声。
空気が凍る。
「……は?」
誰かが声を漏らす。
俺も、固まった。
(……おかしい)
さっき見た。
確かに。
(ブタだった)
それが――
(キング三枚?)
ありえない。
さらに。
(……キング、捨てられてたよな?)
左の男。
右の男。
確かに“キングを捨てた”。
見た。
ゴキジェット越しに。
(……じゃあ、なんで)
頭が回る。
(枚数……)
このゲーム。
カードは制限されてる。
(……おかしい)
明らかに。
「……」
女は微笑む。
当然のようにチップを回収する。
誰も、何も言わない。
(……違う)
言えないんだ。
ここは――
マフィアの賭場。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「……なあ」
ディーラーを見る。
「はい?」
「いかさま発見」
一瞬。
空気が止まった。
ざわっ。
「……は?」
「マジで言ってんのか?」
周囲がざわつく。
ディーラーは、にこりと笑った。
「……イカサマ申告、ですね?」
「そうだ」
俺は頷く。
心臓がうるさい。
でも、引けない。
「……確認します」
静かな声。
そして。
「もし、その申告が間違っていた場合」
少しだけ、間を置く。
「持ち金は没収」
淡々と続ける。
「その上で――」
視線が、俺の腕に落ちる。
「両腕を折って、退場となりますが」
にこりと笑う。
「よろしいですか?」
「……」
空気が、重い。
さっきまでの賭けとは違う。
本物の“賭け”。
命まではいかない。
でも――
「……腕か」
ぽつりと呟く。
折られたら。
終わる。
冒険者としても。
何もできなくなる。
(……どうする)
頭の中で、ぐるぐる回る。
引けば――
安全。
だが、負けたまま。
(……いや)
違う。
(……俺、見たよな)
ゴキジェットの映像。
確かに見た。
確実に。
(……あれは、ズルだ)
間違いない。
ちらっと女を見る。
微笑んでいる。
余裕。
(……こいつ)
確信してる。
バレないと。
「……」
俺は、息を吐いた。
そして。
「……いいぜ」
顔を上げる。
「やってくれ」
ディーラーをまっすぐ見る。
「申告、通す」
ざわっ。
「……あいつ、マジかよ」
「腕折られるぞ……」
周囲の声。
全部無視する。
ディーラーの笑みが、少しだけ深くなる。
「……承知しました」
ゆっくりとカードに手を伸ばす。
「では――確認を」
その瞬間。
空気が変わった。
ただの遊びじゃない。
ここはもう――
“命を削る場”だ。




