第6話「腰に巻いたらベルトになった(※ムカデです)」
朝。
「……よし」
俺は腰に手を当てた。
そこには――
巻き付いている。
ぐるりと。
黒くて長くて、足が多いやつが。
「……ベルトだな」
言い切った。
ムカデラは、ぴくりとも動かない。
完璧に“ただの装備”を装っている。
「いける」
胸元にはゴキジェット。
腰にはムカデラ。
「……俺、強そうじゃね?」
錯覚だ。
でも、ちょっとテンションは上がる。
ギルド。
扉を開けると、いつもの視線。
だが今日は違う。
「……なんか巻いてね?」
「いや、あれ……動いてないか?」
ざわついている。
「気のせいだ」
言い切って、依頼表へ向かう。
目に入った紙を剥がす。
「害魔獣、角ウサギ駆除……一匹、銅貨三十枚」
悪くない。
「これだな」
受付へ。
受付嬢が顔を上げる。
「ミトリーさん……あっ」
視線が――腰に落ちる。
止まる。
「……」
「……」
沈黙。
「……それ」
「ん?」
「その……腰の……」
よく見ると、ムカデラの足が、ほんの少しだけ見えている。
細かく、びっしりと。
「……」
受付嬢の顔が引きつる。
「……斬新なデザインですね」
無理がある。
「あぁ」
俺は頷いた。
「イカすだろ?」
「……はい、とても……」
目が笑っていない。
「……(気持ち悪い)」
絶対そう思ってる。
だが――
「これでいい」
ブローチと同じだ。
“押し通せば勝ち”。
「依頼、これで」
「……はい」
ぺたん、と判子が押される。
「お気をつけて……」
「おう!」
俺は堂々と背を向けた。
後ろで小さく聞こえる。
「……なんであの人、毎回変なの増えてるの……」
聞こえてる。
街の東。
初心者の林。
「正式名称、なんだっけな……」
知らない。
でも、ここは分かりやすい。
弱めの魔物が出る。
初心者向け。
「……ちょうどいい」
腰に触れる。
「ムカデラ、出番だぞ」
するり、とほどける。
地面に落ち、すぐに体勢を整える。
「……いいね」
この“戦える感じ”。
ゴキジェットとは違う。
ガサッ。
「……来たか」
草むらから現れたのは―角ウサギ。
額に鋭い角。
小さいが、油断すると危ない。
「……よし」
刀を抜く。
構える。
突きの姿勢。
「来い」
目が合う。
一瞬の静止。
そして――
ダッ!!
突っ込んできた。
「……今!」
タイミングを合わせる。
――はずだった。
「うわ、ちょ、速っ!?」
思ったより速い。
ビビって手元がぶれる。
突きが逸れる。
「やばっ」
角が迫る。
このままじゃ――
「ムカデラ!!」
反射的に叫ぶ。
次の瞬間。
黒い影が走った。
地面を這う速度じゃない。
“滑る”みたいな速さ。
ムカデラが角ウサギに絡みつく。
「うおっ!?」
足。胴。首。
一瞬で巻き付く。
そして――
ガブッ。
「……え」
噛んだ。
次の瞬間。
角ウサギの動きが止まる。
びくん、と震えて――
そのまま、倒れた。
「……は?」
静寂。
「……え?」
ゆっくり近づく。
つつく。
反応なし。
「……終わり?」
あっけなさすぎる。
ムカデラが、するりと離れる。
何事もなかったかのように戻ってくる。
「……お前、強すぎない?」
思わず呟く。
毒。
一撃。
即終了。
「……これ、俺いらなくね?」
ちょっと思った。
でも。
「……いや、いるか」
命令しないと動かない。
それがルールだ。
「……よし」
角ウサギを持ち上げる。
「あと何匹だ?」
計算する。
「十匹狩れば、銅貨三百……」
にやりと笑う。
「……いけるな」
腰に戻るムカデラ。
胸元のゴキジェット。
「……なんか」
ぽつりと呟く。
「パーティっぽくなってきたな」
林の奥へ歩き出す。
次の獲物を探して。




