↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最底辺テイマーゴキブリに救われる~人間には不評、虫には大人気~  作者: 忍絵 奉公


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/14

第5話「金は消え、ムカデが残った」


 ――気づけば、俺は浮かれていた。

「これ、ください!それも!あ、あとそれも!」

 露店をハシゴする。

「お兄さん、見る目あるねぇ!」

「でしょ?」

 ない。全然ない。

 でも、財布はある。

 昨日までなかった“余裕”が、判断力を壊していた。

「この服どうだ?」

 鏡の前でポーズを取る。

 原色まみれ。謎のフリル。無駄にキラキラ。

「……似合ってますよ(小声)」

 店員の気遣いが刺さる。

「よし、買う!」

 買った。

 さらに。

「このアクセもいいな……」

 意味不明な宝石付きの首飾り。

 重い。派手。似合わない。

「これもください!」

 買った。

 ――そして。

「……うわ」

 夕方、路地裏で財布を確認する。

 ちゃり。

 ちゃり。

「……銅貨、七枚?」

 凍りつく。

「……嘘だろ」

 金貨も銀貨も――ない。

「……全部、使った?」

 使った。

 思い出すだけで頭が痛い。

「……宿代」

 青ざめる。

「……足りない」


「……キャンセルで」

 昼に予約した“普通の宿”のカウンターで、俺は頭を下げた。

「は?今さらですか?」

「……すみません」

 冷たい視線。

「キャンセル料が――」

「払えません」

「……はぁ」

 ため息。

「二度と来ないでください」

「はい……」

 心が折れる音がした。


 結局。

「……ここか」

 戻ってきた。

 あの、ボロ宿。

「一泊、銅貨六枚だ」

「……お願いします」

 残り、銅貨一枚。

「……終わったな」

 鍵を受け取り、部屋へ入る。

 きしむ扉。

 見慣れたボロさ。

「……ただいま」

 誰もいないのに言ってしまう。

 ベッドに倒れ込む。

「……はぁ」

 虚無。

「……何やってんだ俺」

 天井を見上げる。

「……明日、どうすんだよ」

 答えは出ない。


 その時。

 カサ……カサ……

「……ん?」

 壁の隅。

 黒い影――いや、違う。

「……でかくね?」

 ゆっくりと視線を向ける。

「……うわ」

 いた。

 長い。

 多い。

 足、多すぎ。

「……ムカデ」

 しかも、でかい。

 普通じゃない。

「……これ、やばいやつだろ」

 思い出す。

 噛まれたら猛毒。

 下手したら死ぬ。

「……」

 沈黙。

 目が合った気がした。

「……いやいやいや」

 距離を取る。

「普通、逃げるだろ」

 でも――

 ふと、頭をよぎる。

「……待てよ」

 虫。

 俺は――

「……テイム」

 小さく呟く。

 魔力を流す。

 一瞬の静止。

 そして――

 ムカデが、ぴたりと動きを止めた。

「……お?」

 ゆっくりと、こちらに向かってくる。

「ちょ、待て待て」

 反射的に後ずさる。

 でも、攻撃の気配はない。

「……いける?」

 心臓がうるさい。

 手を伸ばす――のはやめた。

「……触るのは無理」

 正直に認める。

「……名前、どうするか」

 考える。

 見た目は完全にヤバいやつ。

 毒。

 速い。

 怖い。

「……」

 口を開く。

「……ムカデラ」

 その瞬間。

 ――パァン、と小さく光が弾けた。

「……おぉ」

 成功だ。

 ムカデラは、すっと俺の足元で止まる。

「……お前、毒あるんだよな?」

 反応はない。

 でも、分かる。

 強い。

 明らかにゴキジェットとは違う“危険さ”。

「……いいな」

 にやりと笑う。

「これ、戦えるやつじゃん」

 ベッドに座る。

 胸元にはゴキジェット。

 足元にはムカデラ。

「……仲間、増えたな」

 ぼそっと呟く。

「……金はないけど」

 沈黙。

 そして。

「……まあ、いっか」

 少しだけ笑う。

「どうせまた稼げるしな」

 根拠はない。

 でも――

 虫がいれば、なんとかなる気がする。

「……明日、また依頼行くか」

 ごろんと横になる。

 ボロい天井を見ながら。

「……次は、ちゃんと使う」

 たぶん、また失敗する。

 でも今は少しだけ、未来がマシに見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。