第4話「初達成と、都合のいい大人たち」
ギルドの扉を開けた瞬間。
静かになった。
「……え?」
「持ってる……?」
俺は、ずっしりと重い袋をカウンターに置いた。
ドサッ。
中には――薬草。
ぎっしりだ。
「依頼、達成で」
受付嬢が固まる。
「……これ、全部ですか?」
「全部」
「……え?」
袋を開ける。
中を確認する。
数秒の沈黙。
「……えぇぇぇぇ!?」
ギルド中に響いた。
ざわめきが広がる。
「おい、量おかしくね?」
「こんなに採れるわけないだろ」
「絶対なんかやってる」
来たな、この流れ。
「……ちゃんと採ってきたんだけど」
「どこでですか!?」
「ネーリ大草原」
「そんなピンポイントで……しかもこの量……」
疑いの目。
まあ、そうなるよな。
「……証明できるものは?」
「……ない」
ぴたり、と空気が止まる。
「ほらみろ」
「やっぱりな」
まずい。
このままだと――
「……騒がしいな」
低い声が響いた。
人が割れる。
出てきたのは――ギルド長。
「……ミトリーか」
「……はい」
ギルド長は袋の中を覗く。
「……ふむ」
一本取り出す。
匂いを嗅ぐ。
「間違いなく、ネーリの薬草だな」
「え?」
受付嬢が驚く。
「……特徴がある。土の匂いと水分量で分かる」
そんなの分かるのかよ。
「だが……量が異常だな」
やっぱそこか。
じっと見られる。
「……お前、本当に一人でやったのか?」
一瞬、迷う。
でも――
「……はい」
虫のことは言えない。
言ったら、終わる気がする。
数秒。
長い沈黙。
そして。
「……まあいい」
「え?」
「依頼は“薬草を納品すること”だ。方法は問わん」
ざわっと空気が動く。
「条件は満たしている。ならば――達成だ」
「……マジで?」
「報酬を出せ」
「は、はい!」
受付嬢が慌てて計算を始める。
周囲はざわざわしているが、文句は出ない。
「……助かった」
小さく息を吐く。
すると――
ドンッ!!
「ぐはっ!!?」
いきなり背中を叩かれた。
前につんのめる。
「やればできる子だって、俺は信じてたぞ!」
「い、痛っ……!」
振り返る。
ギルド長が満面の笑みだ。
「……さっきまで疑ってませんでした?」
「細けぇことはいいんだよ!」
雑すぎる。
「ほら、胸張れ!初達成だろ!」
バンバン叩かれる。
「だから痛いって!!」
完全に吹っ飛ばされた。
「……これが、報酬……」
手の中の金貨と銀貨を見る。
ずっしり重い。
「……やば」
顔がにやける。
「金持ちだ……」
いや、正確には“やっと普通”かもしれないが。
それでも――
「……飯だな」
いや。
「……その前に、宿」
昨日のボロ宿を思い出す。
「……もう嫌だ」
宿屋街。
いくつか見て回る。
「……高っ」
いい宿は普通に高い。
今の俺なら払える。
でも――
「……なんか怖い」
場違い感がすごい。
結局。
「……ここでいいか」
選んだのは、普通の宿。
ボロくもなく、豪華でもない。
「いらっしゃいませ」
「一泊お願いします」
金を払う。
部屋に入る。
「……おぉ」
昨日より全然マシだ。
ベッドがちゃんとしてる。
壁も綺麗。
「……十分だな」
荷物を置く。
ふぅ、と息を吐く。
「……そうだ」
しゃがみ込む。
足元を見る。
さっきまで使っていた蟻たち。
まだ近くにいる。
「……助かった」
素直に言う。
「でも、お前ら……名前つけてないしな」
少し考える。
名前をつけたら、“ずっと一緒”になる。
それは――
「……まだいいか」
苦笑する。
「じゃあな」
手を振る。
蟻たちは、さっと散っていった。
「……あっさりしてんな」
でも、それでいい。
必要な時に、またテイムすればいい。
ベッドに座る。
「……なんとかなったな」
天井を見る。
「……俺、やれるかも」
少しだけ、そんな気がした。
胸元に視線を落とす。
ゴキジェットは、相変わらずブローチのふりをしている。
「……お前は気楽でいいな」
小さく笑う。
「……でも」
ぽつりと呟く。
「助かってる」
ゴキジェットは、何も言わない。
ただ、そこにいる。
静かに。
でも確実に。
俺の人生を――変え始めている。




