第15話「糸の芸術と、初めての昇格」
「……ついてきてるな」
背後の気配。
一定の距離。一定の足音。
消えない。
「……よし」
俺はわざと進路を変えた。
人通りの少ない路地へ。
薄暗い。
月明かりだけが、石畳を照らしている。
「……ここらでいいか」
そのまま歩きながら、頭に意識を向ける。
(スパメット)
小さく、囁く。
(曲がった先に――盛大に頼む)
スパメットが、わずかに動く。
理解した合図だ。
角を曲がる。
俺はそのまま、何事もなかったかのように歩く。
振り返らない。
ただ、普通に。
数秒後。
「――うわっ!?なんだこれ!!」
後ろから悲鳴。
続けて――
「とれねぇ!!なんだこれ!?糸か!?」
バタバタと暴れる音。
「絡む!絡むって!!くそっ!!」
必死な声。
俺は、少しだけ笑った。
(……成功)
振り返らなくても分かる。
そこには――
芸術。
何重にも張り巡らされた蜘蛛の巣。
ただの巣じゃない。
層が重なり、絡み合い、逃げ道を塞ぐ。
まるで――
「……魔法陣みたいだな」
ぽつり。
月明かりに反射して、静かに輝く。
無駄に美しい。
「誰だこんなの仕掛けたのは!!」
叫び声。
だが、もう遅い。
「……じゃあな」
俺はそのまま、街へ戻った。
翌日。
ギルド。
「報告します」
受付に立つ。
「賭場の件」
空気が少し引き締まる。
「客は約五十。ディーラーは十五」
「……はい」
「裏に、屈強な男が最低二人」
「……重要情報ですね」
受付嬢が真剣な顔でメモを取る。
「報酬は、銅貨三百枚です」
「……助かる」
受け取る。
確かな重み。
「なお」
受付嬢が続ける。
「後日、Bランクパーティ“ナイアガラダッシュ”が突入予定です」
「……へぇ」
一瞬だけ、あの顔が浮かぶ。
「……まあ、頑張れ」
軽く流す。
依頼表の前へ。
「……次どうするか」
その時。
「おい!!」
ドンッ!!
「……ぐはっ」
肩に衝撃。
振り返る。
ギルド長だ。
「最近大活躍じゃねぇか!!」
満面の笑み。
「いいぞ!!」
バシッ!!
「……っ!!」
(重い!!)
「いいぞ!!」
バシッ!!
「……首が!!」
むち打ちになる!!
「お前は――」
バシッ!!
「Eランクに昇格だ!!」
「……え?」
一瞬、止まる。
「Eランクだ!!」
バシッ!!
「……やめろって!!」
痛い!!
「……E?」
じわじわ理解が追いつく。
「……マジで?」
「マジだ!!」
どや顔。
「……やった」
ぽつり。
そして。
「……やったぁ!!」
声が出る。
周囲がざわつく。
「Eランクになるとな!」
ギルド長が指を立てる。
「ダンジョンの入場許可が出る!!」
「……ダンジョン」
その言葉で、全部が止まる。
頭の中に浮かぶ。
未知。宝。危険。
そして――
憧れ。
「……行けるのか、俺」
思わず呟く。
今まで遠かった場所。
手が届かなかった場所。
胸元のゴキジェットが、わずかに動く。
腰のムカデラも反応する。
頭のスパメットも――静かに応える。
「……よし」
拳を握る。
「次はダンジョンだ」
落ちこぼれだった俺が。
何もできなかった俺が。
今――
「……面白くなってきた」
にやりと笑った。




