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最底辺テイマーゴキブリに救われる~人間には不評、虫には大人気~  作者: 忍絵 奉公


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第14話「勝ち逃げと、消えない視線」


 屈強な男が、女の腕を掴んだ。

「……離して」

 女が抵抗する。

 だが――

 バサッ。

 袖口から、何かが落ちた。

 床に散らばる。

「……」

 絵札。

 エース、キング、クイーン、ジャック。

 何枚も。

 何枚も。

「……」

 沈黙。

 そして。

「……決定打だな」

 誰かが呟いた。

 ざわっ。

「完全にクロだろ」

「隠し持ってやがったのか……」

 空気が変わる。

 もう言い逃れはできない。

「……イカサマは成立」

 屈強な男が、淡々と言う。

「ルール通りだ」

 視線が女に落ちる。

「申告者には、十倍保障」

 一瞬、場がざわつく。

「……そして」

 低く。

 冷たく。

「お前は、奴隷落ちだ」

「……っ」

 女の顔が歪む。

「いや……やめて……」

 崩れる。

 その場に、座り込む。

「お願い……それだけは……」

 涙。

 必死に縋る。

 だが。

「……遅ぇよ」

 男は一切揺れない。

 俺は、その光景を見ながら。

(……えぐ)

 内心、冷や汗が止まらない。

(マジでこうなるのかよ)

 さっきまで笑ってた場所とは思えない。

「……ほら」

 ディーラーがチップを差し出す。

「申告者への支払いです」

 山。

「……」

 ごくりと喉が鳴る。

「……まずは、彼女の分」

 数える。

「五百二十二枚」

「……多っ」

 受け取る。

 重い。

「……そして、不足分」

 さらに積まれる。

「九百七十八枚」

「……」

 頭がおかしくなりそうだ。

(千五百……?)

「……すげぇ」

 思わず呟く。

 その時。

「……おい」

 屈強な男が声をかけてきた。

「ん?」

「お前」

 じっと俺を見る。

「変わった帽子だな」

 視線が、俺の頭へ。

 スパメット。

「……」

 一瞬、止まる。

(やば)

 でも。

「だろ?」

 笑って返す。

「流行りだ」

 適当すぎる。

 だが――

 男は、ふっと鼻で笑った。

「……そうかよ」

 それ以上は追及しない。

(……助かった)

「不足分は、こいつに払わせる」

 男が女を見下ろす。

「……っ」

 女は震えている。

 もう抵抗しない。

 できない。

(……やばい場所だな)

 改めて思う。

 ここは遊びじゃない。

 本物だ。

「……じゃ」

 俺は立ち上がる。

「しらけたわ」

 軽く言う。

 内心は全然軽くない。

 換金。

 カウンターでチップを出す。

「……銀貨十五枚です」

「……」

 受け取る。

 ずっしり重い。

(……やば)

 こんなに金を稼げるなんて。

 そのまま。

 何も言わずに、外へ出る。

 廊下。

 階段。

 倉庫の外。

「……ふぅ」

 外の空気。

 少しだけ、安心する。

「……帰るか」

 歩き出す。


 だが。

 数歩進んで――

「……」

 足を止めた。

 背中に、何かを感じる。

 視線。

「……」

 振り返らない。

 でも分かる。

(……つけられてるな)

 気配。

 一定の距離。

 消えない。


 胸元で、ゴキジェットが微かに動く。

 腰のムカデラも、わずかに反応する。

 頭のスパメットも――

 静かに“気づいている”。


「……マジかよ」

 小さく呟く。

 さっきの勝ち。

 あれで終わりじゃない。

「……来るよな、そりゃ」

 苦笑する。

 あの場で目立ちすぎた。

 金も手に入れた。

 そして――

 “知りすぎた”。

「……どうするか」

 歩きながら考える。

 逃げるか。

 やるか。

 足音が、少しだけ近づいた。

「……面倒だな」

 ため息をつく。

 だが。

 口元は、わずかに笑っていた。

「……まあいい」

 ぽつりと呟く。

「やるしかねぇか」

 夜の路地。

 静かに、次の展開が始まろうとしていた。



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