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4話 物の怪


◇◇◇◇◇



「…何か今……鈴の音が聞こえませんでした?」



華乃が首を傾げる。


玄関から廊下を数メートル入ったばかりの部屋の中からだった。



『ええ?…鈴の音?それ物の怪の気配かな?!』

『いや、単なる空耳かもよ?』

『いやいや、まだそこ入り口付近じゃん?』

『こんな所に物の怪はいないって!』



配信チャットも反応するが、さすがにこんな浅層で物の怪が出るなど考えられない…との意見が多数だった。



「この部屋から聞こえる気がするんですが…

試しに、入ってみますね!」



『おお!確かめてくれ!』

『ワクワクだねえー!』



居ないと思いつつも視聴者も盛り上がっていた。

視聴人数は、二十人に達していた。



(わ!こんな沢山見に来てくれてます!)



内心で浮かれながらも、華乃は慎重に襖を開け部屋の中を見渡す。


和室の薄暗い部屋は静まり返っている。



「…うーん?…やっぱり誰も…居ない、です」



『ははは、やっぱりなぁ』

『ま、こんなもんだよな』

『さすがに一層じゃ居ないって』



視聴者達も淡白な反応だ。



「でも……

この…掛け軸から気配を感じる気がするのですが」



そう言った華乃に対し、チャット欄でコメントが上がる。



『はは!残念ー!この掛け軸は既にサーチ済みなんだよね!前に他の配信者が鑑定してたよ!』

『オレも観たわ、それ!』

『サーチ機器翳しても、何も反応無かったよね』



チャット欄は冷ややかなコメントで埋め尽くされていく。

 


「でも…やっぱり、一応…“見て”みますね!」



そんな華乃の言葉にチャットが動く。



『見てみるって?』

『何それー?サーチ機器で?』



「わたくし、スキルを持っているのです!

【真眼】って、言うんです」


『…は?』

『待て待て…それはヤバいって!』

 


チャット欄が一瞬止まる。

そこから、激しく流れ出す。


今まで黙って観ていた視聴者まで、チャットに参加してきた。



『ちょ、待て!スキル持ちってマジか?!』

『専門業者や探索者の中にだって、スキル持ちなんて稀なんだぞ?!』

『いやいや!これも釣りか??』

『だよな?嘘っぽい』


『てか…【真眼】ってwww国家機密レベルだし?』



視聴者チャットがかなり荒れていった。


華乃は困ったように首を傾げる。



「国家機密レベル…なのですか?…それは大変!

あんまり吹聴しない方がいいですかね?」



『そうだよ、嘘なら尚更、信用無くすって』

『これで本物だったら笑えるけどw』

『笑うどころじゃないわ』



〈スキル〉…特殊能力が使える者は、この世界に決して多くはない。


スキル持ちの人物は稀人として、政府直属機関にスカウトされたり、大企業から雇用されたりするのだ。


中でも【真眼】は、伝説級レベルで…ニ百年に一人現れるかどうかの逸材だった。



「まあでも…とりあえず“見て”みますわ」



華乃はそう言うと、呼吸を整え、古びた和室を見遣る。


【真眼】


小さく呟くようにスキルを言い放つ。


…すると、和室奥の古びた掛け軸が仄かに発光しているように見えた。



「やっぱりあの掛け軸に…何かあります

…でも、反応が曖昧ですね…?

なら、もう一度!…サーチズーム!」



華乃は掛け軸へ向かい、更に【真眼】で凝視する。


すると…


掛け軸を吊るしている“釘”にサーチ反応が現れたのだ。



◇◇◇◇◇



「ええ?!…反応は釘、です!!

掛け軸を吊るしてる釘に…物の怪が憑依してます!」

 


華乃が叫んだ時…その場の空気がグニャリと歪む感覚と共に小さな鬼火が灯り、その形が変形していく。



『うわ?!な、なんだ?!』

『ちょ、ちょ?マジか?!』

『本当に物の怪がいた?!』

『てか、掛け軸吊るしてる釘に憑依って?!』

『分からんって、普通そんな細かいのww』



チャット欄が騒めき出す。

視聴者人数もまた跳ね上がる、瞬間人数四十人以上になった。


華乃は、歪んだ空間から少し退き、距離を取りながら、札を構える。



「皆さま、見てください!鬼火が…狸さんになりました!可愛いですね!」



二足歩行の傘を被った狸が鬼火から出現した。



『うおおおおー!熱すぎる!物の怪だ!』

『マジかよ!一層に物の怪出るんだ?!』



チャットが流れまくり、華乃は目で追えなくなるほどだ。



「ええと…狸さんの情報を“見て”みますね」



華乃は瞳の紋様を浮かび上がらせ、狸をじっと見つめる。


〈名称〉化け狸

〈危険度〉低

〈希少度〉ノーマル

〈能力〉擬態、イタズラ

〈弱点〉頭の葉っぱを取り上げる

〈備考〉売値…符一枚、三千円

 


「レア度は…ノーマルですね、おや?…備考欄に

符一枚、三千円ってあります!ノーマルでもそんな高額なのでしょうか?」



そう言った華乃に、チャット欄のコメントが入る。

 


『普通ノーマルはそんな高額じゃないよ!』

『いや、待て!化け狸って、もしかして?』

『おおー!ラッキーだよ!今、丁度…化け狸って

相場が上がってるんだよ』

『そうそう、愛好家がペットにしたいって、買いが殺到してるんだよな』



そんなコメント欄に、華乃の目は輝く。



「そうなのですか?!」


『それにしても、華乃ちゃんのスキル…マジか?』

『今の相場まで見えるって…』

『が…ガチで凄くないか?この子』



華乃が天真爛漫に笑っている中、チャット欄は緊迫した空気となっていた。



『おい…普通の人間は物の怪の情報なんて見えないんだぜ?』

『普通…サーチ機器を使って情報得るよな?』

『肉眼で見えるって…』


『どういう事?』

『ねぇ?ヤラセかな?』



不穏なコメントに華乃は戸惑う。



「ええと、ですから先ほども申しましたが…

わたくしには【真眼】があるのです…」



『マジだったら相当ヤバいんだけど?』

『うおおおおおー?!』

『いやいや、そんな訳!』



チャット欄は混乱する。

真偽の意見は二つに割れているようだ。



「それより、狸さんが逃げてしまう前に、札に納めてしまいますね!」



『まあ、とりあえずは、そっち優先だな!』

『頑張れよー!』

『ノーマル物の怪なら、余裕だって!』



視聴者達の応援に背を押され、華乃は集中しながら、そっと札を化け狸へ投げる。



ゥオォォン…



札が貼り付いた化け狸は、ひと声鳴き、発光しながら札の中へ吸収されていく。


ヒラヒラと舞い落ちる札を、華乃は手にする。



「やりました!ノーマルとはいえ、初の物の怪です!」



『おめでとう!』

『やったねー!』

『ノーマルなら当たり前!』

『初ゲット!』



チャット欄は盛り上がり、大いに流れる。


気が付けば、視聴者人数も五十人近くまで増えていた。



◇◇◇◇◇


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