2話 ダンジョン配信やります!
◇◇◇◇◇
『はい、それじゃ配信始めまーす!』
華乃の耳に明るく弾んだ声が飛び込んでくる。
『ここはですねー!なんと、近年新たに発見された珍しいダンジョンでしてー!』
他の配信者の動画を観ながら、華乃は都内を歩いていた。
『まだ、探索者の調査でも地下四層までしか、発見されて無い、ダンジョンなんですが、専門家の見解では難易度はS級らしく——』
そう言いながら、配信者はカメラをダンジョン一層(地上一階)へ向けた。
『見て下さい!屋敷型のダンジョンなんですよー
元は…やんごとないご身分の大邸宅だったのですかねぇ?
…と言っても、誰の屋敷か未だ分かって無いらしいんですけどね』
「……やっぱり、ここですわ!」
華乃は観ていた配信動画を切り、前を向く。
「わたくしの行くべきダンジョン!!」
華乃の行き先は、先ほど配信で見かけた屋敷ダンジョンだ。
「とりあえず…お金は無いですが…スマートフォンで動画配信をやる感じで大丈夫ですわよね?」
そう呟き、高層ビル群を見渡しながら、キョロキョロと目的地まで歩いて行く。
「この場所から、そう遠く無いと思うのですが…」
華乃が呟きながら路地を歩いている時だ。
暗がりから不意に何かが飛び出してきた。
「きゃっ?!…な、何?」
思わず尻餅をつきそうになった華乃だったが、辛うじて踏み止まる。
路地は薄く暗い。
目を凝らし、飛び出してきた何かを見る。
「…ね、ネズミ?!…ネズミなんですの?コレ」
声をやや上擦りながら、華乃は後退りする。
目の前に出てきたのは…普通のネズミとは思えない巨大な姿をしていた。
「物の怪…?」
華乃は小さく呟く。
ここ……日ノ本ノ国は、現代に続くまで、物の怪の部類が世に蔓延っている世界だ。
都市部の駆除は大分進んではいるが…
それでも未だ物の怪は稀に出現する。
「ダンジョン以外でも物の怪が出るなんて…」
突然の遭遇に、華乃が身構える事も出来ないまま、ネズミの物の怪は素早く飛びかかってくる。
「…っ?!」
華乃は息を飲み、ダメージを覚悟した…
「…よっ…と!」
…だが、覚悟していた痛みは無く、
代わりに、背後から人の声が聞こえた途端、
華乃の目の前まで迫って来ていたネズミの物の怪は、一枚の札に吸収されていた。
「ふ、札…?」
驚いた声で呟いた華乃に、背後の人物は明るく返事をした。
「そうですよ、札です!
お嬢さん危なかったですねー!怪我は無い?」
振り返ると、人の良さそうな笑顔を向けた、
二十代後半の男性が符を手に立っていた。
エプロン姿の彼は、どこかの店の店員のようだった。
「は、はい!あ、あの…助けていただき、ありがとうございます!」
暫し、混乱していた華乃だったが、助けてくれた彼に感謝を伝える。
「いやいや、どういたしまして!
でも…私も店の裏でまさか物の怪が出るなんて驚いたよ!」
「お店?」
「うん、ここで…符屋を開いてるんだ」
コレ…と、言う風に、男性は手にしていた符をヒラヒラと動かす。
「お符…な、なるほど…!」
華乃は不意に閃いたかのように、顔を上げる。
そして、男性へ詰め寄る。
「そうですわ!身を守る為にも、わたくし、お符が欲しいですわ!」
「符を?…一般人は、ほぼ必要無い物だよ?
お嬢さん…物の怪退治でもするのかい?」
男性は、苦笑いしながら首を傾げる。
そんな彼へ目を向け、華乃はニヤリと肯首する。
◇
「空の札は十枚で一万円、物の怪入りの札は、
ノーマル〜SSまでピン切りだよ」
そう説明するのは、先ほどの符屋の男性店員だ。
普通一般人は、物の怪退治などとは縁遠いが…
専門の駆除業者や、ダンジョンへ入る探索者、配信者などは、札を用いて封じたり、又は封じた物の怪を調教し、手札にしている。
「…う、けっこう符って…お高いのですねぇ」
ショーケースに並ぶ高額の符を見ながら、華乃は困ったように息を吐く。
「まぁね、特殊な加工がしてあるし…いい加減な増産はできない代物だからねぇ?
…で?…お嬢さんは業者なのかい?」
符屋の店員も苦笑いで華乃に話しかける。
「いえ…ダンジョン配信者をしようと…」
「ああ、なるほどねぇ…今、流行ってるもんなぁ!うーん、それなら…空の札だけで最初はいいんじゃないかい?」
専門駆除業者と違い、ダンジョン配信者は浅層を巡り撮影をするスタンスが多いため、危険も少なく比較的、素人でも挑戦し易いのだ。
「ダンジョン浅層じゃ、レアな物の怪なんて捕まえられないだろうが…
お嬢さんは美人だし配信なら人気も出そうだ!」
そう言って笑う店員に、今度は華乃が苦笑いする。
「…美人…かどうかは、ちょっと分かりませんが…とりあえず無理せず、浅層で、のんびり配信目指してみます!」
(報復する前に…野垂れ死んでしまっては恥ずかしいですし、何かしら多少収入源も必要ですものね)
「頑張って下さいね!
もし、物の怪を札に封じられたら…符の鑑定もこちらで受け賜りますから!」
「ありがとうございます!
レアな物の怪をゲットできるよう、頑張りますわ!」
華乃は空の札を買い、店を出る。
「はあぁ…これで、お財布もすっかり軽くなってしまいました…夕ご飯は諦めますか」
腹の虫が鳴らないよう、気を張りながら歩く。
貴兼門家を出た華乃の荷物は少ない。
家政婦紛いに働かされていたが、給金などほぼ貰えず、私物は殆ど無かったのだ。
「頑張っていきましょう!目標??の、報復と…
明日からの生活費を稼いでいく為にもー!」
華乃は腹の虫を抑えながら、ガッツポーズをするのだった。
“生活費稼ぎの方”が、声にやや力が入ってたのは、内緒である。
◇
屋敷ダンジョン……
そこへ到着した華乃の表情は悲しみに染まっていた。
「いよいよ…ここからですわね」
緊張する指先で、サイトの配信開始ボタンをタップする。
「ただいま、帰りました!」
華乃は、屋敷型ダンジョンの前でお辞儀をするのだった。
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